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第90話 シア
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彼女は、エヴァルタとサスリカから事情を聞いた。この世界のこと。トレジャーハンターのこと。自身がトレジャーとして扱われていたこと。一時美術館で展示されていたこと。
そして、ネヴァン商会のこと。グロリオとオルヴァリオのこと。
そしてどうやら——ふたりは言葉で明言しなかったが、自身に想いを寄せてくれている男が居るということ。それが、サスリカのマスターであるらしいこと。
「………………美、術館……って」
「『氷漬けの美女』だよ」
「………………恥ずかしい」
両手で顔を覆ってしまった。自分が『美女』として『展示』されるなど。穴があったら入りたいと思った。
「……なんとなく、分かった。それで、その『神鳥ネヴァン』は退治できたの?」
「ええ。あの場には特級トレジャーハンターが大勢居たから。どんな怪獣にだって負けない。エフィリス君まで参加しちゃって、大暴れだったなあ」
『あ。帰ってきましたね』
「!」
窓から、それが見えた。クリュー達が帰ってきたのだ。彼らは『断崖線』での戦い後、この屋敷で療養していた。彼女のこともある。街から少し離れた、この屋敷は色々と都合が良かった。
「じゃあ、呼ぼうかな。教えてあげたらどんな顔するかな。クリュー君」
『ワタシも退室したいですが、通訳に要りますよね』
「…………っ」
一時、エヴァルタとサスリカのふたりが部屋を出た。彼女は緊張した。彼だ。あの時、カナタに似た青年の首を掴んでいた男性。灰色の髪と黄色の瞳の、白人男性。
事前情報で『好かれている』と、分かってしまった男性。
「起きたのか!!」
「っ」
部屋の外、廊下から彼の叫びが聴こえた。ああ、本当なのだ。本気で歓喜する声だった。心から喜ぶような。
「済まない。大きな声を出してしまった」
「……!」
するりと。何の心の準備もしないまま。彼が入ってきた。
『ますたー。言葉が』
「ああ。通訳を頼む。……俺はクリュー・スタルース。ラビアの……って、知らないか。トレジャーハンター……も知らないか。まあ、クリューだ。よろしく」
彼も何も準備していない様子。否、10年前から準備していたから、即座にドアを開けられたのだ。
「…………クリュー、さん」
「気分はどうだ? 1万年間眠っていたんだろう。疲れていないか」
「……うん。大丈夫。それと、トレジャーハンターとか、この世界のこと、エヴァルタさんとサスリカから聞いたから。少し分かるよ」
「そうか。……どうだ? 君の世界と違うだろう。もし、目覚めたくなかったのなら。どうにかしてもう一度あの氷を」
「ううん」
クリューの言葉と仕草から、ありったけの気遣いを感じた。どうしてだか。
早く言葉を覚えたいと思った。
「座ってよ。お話しましょ。私の話も聞いて。貴方の話も聞きたい。私、この世界で生きていくつもりだよ」
「……そうか」
エヴァルタが座っていた椅子へ案内する。彼女はまだベッドから動けない。サスリカの淹れたお茶を、喋る度に少し啜る。一度に多く話すと疲れるのだ。
だが、話したいと思った。彼から伝わってくる【心】は、彼女を穏やかにし、安らぎを与えている。
「君の名前を、教えてくれないか」
「うん。……ねえ、考えたんだけど。サスリカ」
『ハイ』
「この世界の言葉で、『白愛』ってどう言うの? 『白』と『愛』を」
サスリカはまずクリューへ通訳してから、彼女へ答えた。
『……「白色」と。「愛」です』
西方大陸と、中央大陸は共通言語だ。少しずつ方言は違っているが、全世界は基本的に通じる。
「へぇ。ふぅん。良いね」
彼女はそれを聞いて。そして自身が正に、今までそう呼ばれていたと知って。
「『私』は、シロナと違って『白』くは無いから。……姫の身体だけど、姫としての性質まで受け継いでないから。じゃあ『シア』って呼んで」
「…………シア」
「うん。苗字も無い、ただのシア。よろしくね。クリューさん」
胸に手を当てて。そう名乗った。
そして、ネヴァン商会のこと。グロリオとオルヴァリオのこと。
そしてどうやら——ふたりは言葉で明言しなかったが、自身に想いを寄せてくれている男が居るということ。それが、サスリカのマスターであるらしいこと。
「………………美、術館……って」
「『氷漬けの美女』だよ」
「………………恥ずかしい」
両手で顔を覆ってしまった。自分が『美女』として『展示』されるなど。穴があったら入りたいと思った。
「……なんとなく、分かった。それで、その『神鳥ネヴァン』は退治できたの?」
「ええ。あの場には特級トレジャーハンターが大勢居たから。どんな怪獣にだって負けない。エフィリス君まで参加しちゃって、大暴れだったなあ」
『あ。帰ってきましたね』
「!」
窓から、それが見えた。クリュー達が帰ってきたのだ。彼らは『断崖線』での戦い後、この屋敷で療養していた。彼女のこともある。街から少し離れた、この屋敷は色々と都合が良かった。
「じゃあ、呼ぼうかな。教えてあげたらどんな顔するかな。クリュー君」
『ワタシも退室したいですが、通訳に要りますよね』
「…………っ」
一時、エヴァルタとサスリカのふたりが部屋を出た。彼女は緊張した。彼だ。あの時、カナタに似た青年の首を掴んでいた男性。灰色の髪と黄色の瞳の、白人男性。
事前情報で『好かれている』と、分かってしまった男性。
「起きたのか!!」
「っ」
部屋の外、廊下から彼の叫びが聴こえた。ああ、本当なのだ。本気で歓喜する声だった。心から喜ぶような。
「済まない。大きな声を出してしまった」
「……!」
するりと。何の心の準備もしないまま。彼が入ってきた。
『ますたー。言葉が』
「ああ。通訳を頼む。……俺はクリュー・スタルース。ラビアの……って、知らないか。トレジャーハンター……も知らないか。まあ、クリューだ。よろしく」
彼も何も準備していない様子。否、10年前から準備していたから、即座にドアを開けられたのだ。
「…………クリュー、さん」
「気分はどうだ? 1万年間眠っていたんだろう。疲れていないか」
「……うん。大丈夫。それと、トレジャーハンターとか、この世界のこと、エヴァルタさんとサスリカから聞いたから。少し分かるよ」
「そうか。……どうだ? 君の世界と違うだろう。もし、目覚めたくなかったのなら。どうにかしてもう一度あの氷を」
「ううん」
クリューの言葉と仕草から、ありったけの気遣いを感じた。どうしてだか。
早く言葉を覚えたいと思った。
「座ってよ。お話しましょ。私の話も聞いて。貴方の話も聞きたい。私、この世界で生きていくつもりだよ」
「……そうか」
エヴァルタが座っていた椅子へ案内する。彼女はまだベッドから動けない。サスリカの淹れたお茶を、喋る度に少し啜る。一度に多く話すと疲れるのだ。
だが、話したいと思った。彼から伝わってくる【心】は、彼女を穏やかにし、安らぎを与えている。
「君の名前を、教えてくれないか」
「うん。……ねえ、考えたんだけど。サスリカ」
『ハイ』
「この世界の言葉で、『白愛』ってどう言うの? 『白』と『愛』を」
サスリカはまずクリューへ通訳してから、彼女へ答えた。
『……「白色」と。「愛」です』
西方大陸と、中央大陸は共通言語だ。少しずつ方言は違っているが、全世界は基本的に通じる。
「へぇ。ふぅん。良いね」
彼女はそれを聞いて。そして自身が正に、今までそう呼ばれていたと知って。
「『私』は、シロナと違って『白』くは無いから。……姫の身体だけど、姫としての性質まで受け継いでないから。じゃあ『シア』って呼んで」
「…………シア」
「うん。苗字も無い、ただのシア。よろしくね。クリューさん」
胸に手を当てて。そう名乗った。
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