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急章:開花の魔法
第32話 作戦会議
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竜人族の女性。名をハンナと言う。彼女はお茶を提供する、軽い飲食店で住み込みで働いている。だから街が非常事態でも、彼女はお店に居た。
「…………えっと」
彼女は今、窮地に立っていた。
「ここか」
現在、店内に客は居ない。朝からの騒動で皆帰ってしまった。そんな中、ずけずけと入ってきた男性。
「……シエラ」
「!」
人族の男性。彼はハンナの横のソファで眠る、翼人族の女性を見付ける。
「……なるほど。あの大森林から遥々来たのか。それは、大変な旅だったろう」
「いや。鉄の国からはリルが居たからな。旅自体には困らなかったよ」
そして、続々と『人族』が入ってくる。ハンナは挨拶すらできずに固まってしまった。
「……さて。彼女がシエラか。どうだ?」
「!」
一際、大きな体格の男が話し掛けてくる。
「……え。えっと……」
「ああ、済まない。我々は『ブラック・アウト』。人族の組織だ。その翼人族の女性は構成員でね。様子を確かめにと、君に感謝をしに来たんだ」
狼狽える竜人族と、穏やかに説明する人族。彼女は何がなんだか分からなくなっていた。
——
未だ目を覚まさないシエラを横目に、彼らはテーブルを囲んだ。
「状況を整理しよう」
切り出したのはレイジ。だが。
「ちょっと待って。まず、貴方誰?」
「おっと」
ウェルフェアが質問した。この場には彼女とラスとレナリア、リルリィが居る。ヒューリは店の表へ出て、周囲を警戒してくれている。
「遅くなったな。俺は【レイジ】。革命軍のボスをやっている」
「……あんたが」
ラスが改めて彼を見た。褐色の肌と大柄な体格。ともすれば先程のオーガくらいあるのではないかと思えるくらい、『人族離れ』した背格好だ。
「……まず、自己紹介からですね」
続いてレナリアが口を開いた。
「いや、必要ない。レナリア女王と、『失神のラス』。そして君は、『爪の汚点ウェルフェア』だろう」
「!」
「……そうだけど」
言い当てたレイジを、ウェルフェアは睨んだ。
レイジはそれを流し、その隣に座る眼帯の竜人族の子供を見た。
「そして……その珍しい翡翠の鱗は『地竜』だな。ゼロックス家にそんな小さな娘は居ない。となると……5年前、行方不明になったジェラ家の次女、リルリィだ」
「わっ」
名を当てられ、リルリィは感嘆の声を挙げた。
レナリアも目を丸くする。
「……『知っている』のですか」
「まあな。人族にとって、情報は何より大事な宝だ。花の国の人族はエルフに詳しく、この国の人族は竜人族に明るい。どんな小さなニュースも見逃さないようにしてきたんだ」
「…………」
それはサロウも言っていたことだ。人族の情報収集能力は高い。密かに、ひっそりと、色々なことを『知っている』のだ。凡そ重要ではないような、地方貴族の家の事情まで。
「で、あいつがヒューリだな」
ラスは外を見た。ヒューリは何かを探すように地面を見ながら歩いている。
「うん。人族解放戦線のリーダー」
「何やってんだ?」
「分かんない。呼んでくるね」
ウェルフェアが立ち上がり、出口の方へ向かった。
「……そう言えば、街の住民が見当たらねえな」
「避難してます。『女王の作られた経路通りに』」
「!」
ラスの質問に、ハンナが答えた。彼はレナリアを見る。
「……『平時こそ、戦争に備えなければならない』。父がいつも言っていたのです。……機能、したのですね」
レナリアはほっと息をつく。ハンナはレナリアに対し、敬意を込めて挨拶をした。
「先導は、騎士団が執ってくれました。女王……レナリア様は、私達を守る政策を行ってくれたのです」
「…………!」
その場に居なくても。王が変わっても。魔力が無くても。彼女は国民を守った。
「でも、じゃああんたは」
「ハンナと申します。……私も避難しようとしたのですが」
「ああ。悪いな」
「……いえ」
ハンナはちらりとシエラを見る。逃げる手前で、ラスにシエラを頼まれたのだ。
——
「ねえ、作戦会議するよ。ヒューリ」
「…………ああ」
ウェルフェアが話し掛けるが、ヒューリは動かない。その視線の先が気になり、彼女は彼の隣に立った。
「……羽根?」
そこには黒い、鳥のような羽根の塊があった。
「あいつの翼だろう。……生えて来ないのか?」
「生えないよ。羽根じゃなくて翼なら。レナ様の角や尻尾と同じ。『魔力媒体』って奴はね。失うともう再生はしない。ヒューリの腕と同じ」
「……そうか」
ヒューリは、じっとその翼を見つめていた。ウェルフェアの説明を聞きながら、地に落ちた翼を。
「……でも」
ウェルフェアは知っている。『魔力媒体』の【使い道】を。
「レナ様も拷問で角と尻尾を切られたけどね。ラスが持ってて、それで『魔道具』をね」
レナリアの、『竜王の素材』で造られた魔道具の威力は凄まじい。先程、ライルの魔法を防いだのをウェルフェアも見ている。
ならば翼人族の王女であるシエラの翼からも、強力な魔道具が生まれる可能性はある。
「——いや」
それは、ヒューリも知っている。クリューソスから例の魔道具を受け取ったのは他ならぬ彼とシエラなのだから。
だが。
「……この翼は。シエラは『運び手』だった。魔道具だけじゃない。俺を、ここまで。人族をここまで。俺達をこんな所まで運んでくれた。立派に『輔翼』してくれた」
ヒューリの言う『ここ』には、彩京という場所だけではない意味が含まれている。つまりは、今、この状況、この場面。この『人族の進退が決まる重要な』局面まで。
「ウェルフェア」
「……良いの?」
ヒューリは振り返り、翼に背を向けた。ウェルフェアは再度、彼の意思を確認する。
「ああ。俺には魔道具なんて。これで充分だ」
「……分かった」
ウェルフェアは頷き、掌を翼へ向けた。そして、炎の魔法を放ち、それを焼いた。
「…………」
その様子を、ヒューリは一瞥もせずに店内へ入っていった。
——
「ありがとう」
「!」
ぺこりと、ヒューリは頭を下げた。ハンナは慌てて、手を振った。
「そんな、えっと。……私は、別に」
「で、作戦会議っつったか」
ヒューリはそれから、ソファの席にどかりと座った。彼の視線はレイジへ向いている。この集まりは、レイジが声を掛けたことで生まれたのだ。
遅れてウェルフェアも店内へ戻ってくる。
「ああ。現在の状況と、これからの各自の行動を決めたい。その前に意思確認だが」
「?」
レイジは全員を、再度見回した。
「俺は今回の戦争で、『人族の権利』を獲得するつもりだ。そこがゴール。お前達はどうだ?」
「…………」
皆が考える。そして、レイジは最初にラスを見た。
「……そもそも戦争って、どういうことだ?」
ラスは、現状を理解していない。ただレナリアを救っただけだ。
「今、『爪の国』の獣王が攻めてきてる。同時に北から魔物の群れ。どちらもアスラハの傀儡だろう」
「えっ!」
驚いたのはウェルフェア。彼女の生まれ故郷は『爪の国』であり、半分獣人族であるからだ。
聞いて、ラスは少し考えてから口を開いた。
「…………俺は、初めからひとつだ。『レナを無事送り届け、女王として復帰してから人族の奴隷解放を世界へ宣言してもらう』。それの障害は全て取り除く。まずはライルと話し合わねえとな」
レイジはふむと頷いた。
「ライル王は恐らく、獣王と対峙しに行ったと考えられる。アスラハの存在は世間には知られていない。一般から見ると、ただ『爪』が『虹』へ戦争を仕掛けてきたと、そう見える筈だ」
「なら戦争を止める必要がある」
「——分かった。お前は? ヒューリ」
続いて、ヒューリを見る。彼も周りを見回して、少し考えた。
「……俺は、お前らが居るなら『いいや』」
「はっ?」
ヒューリの瞳には、何かを決断したような光が灯っていた。
「『人族の問題』はお前らに預ける。俺はいち兵隊で良い。——魔物を。シエラを傷付けた魔物の群れを滅ぼしてくる。『虹』にとっても利があるだろ」
「…………!」
レナリアは、彼の目に覚えがあった。『ラスと同じ【怒り】の目』。静かに、しかし荒ぶる激情が瞳に宿っていた。
「分かった。そっちも大きな『一局』だ。任せたい」
「おう」
言うや否や、ヒューリは店から出ていこうとした。
「ちょ。ちょっと待て。もうちょっと。兵隊だとしても、お前も『リーダー』として、各自の動きくらい頭に入れておけ」
「…………そうだな」
レイジが慌てて止めた。
「——おいフライト、隠れてんな。出てこい」
「げっ!」
「!!」
そして、ヒューリがその眼光を窓の方へ突き刺した。その場の全員が、そちらを向く。声がした窓から、灰色のローブを纏った男が顔を覗かせた。
「フライト!」
ウェルフェアが驚く。そう。
誰も、気付かなかったのだ。魔力感知も匂いも、気も。あのローブを着ているのだ。
だが、ヒューリは気付いた。ローブを知るレイジは驚愕する。
「(……気配察知だけでなく、個人の特定もか。……俺とラスとヒューリ。『気』の練度は奴が最も研ぎ澄まされているということか)」
ヒューリは、3人の中で最も『キレやすい』。以前はラスもそうだったが、『鉄の国』の一件以降、慎重に物事を捉えるよう努めている。
つまりは『要らぬところで要らぬ争い』を発生させ、全てを打ち倒してきた。その結果、『実戦』の経験値は彼が最も多く積むことになった。
片腕を失おうとも。
もし『人族単体最強』を決めるのであれば、彼に分があるだろう。
「……なんでバレんだよ。ヒューリ、お前相当強くなってんな。『人狩り』戦以来か」
ばつが悪そうに、フライトも店内へ入ってくる。
「久し振りだなフライト。何故隠れてた」
「いや、隠れながら馬を調達してたんだ。レイジの指示でな」
「フライト、大丈夫だった?」
心配の声を挙げたのはリルリィ。フライトは彼女の所へやってきて、また頭を撫でた。
「ああ。すぐに逃げたよ。——ラス。あんたも無事だったか」
「……まあな」
「さて話を戻そう。……レナリア女王。貴女の意思は?」
そして、レナリアへ話を振る。彼女は囚人服のままだが、その瞳からは紛れもない『王の気品』が垣間見える。
「私はラスと同じです。人族の解放を。建国の後押しを。世界へ承認を。——そして、不埒者へ制裁を」
「…………なるほど」
片角を折られ、尾を切られ。それでも見せるその強い意思。レイジは改めて、敬意を込めた。
「……おまけにフライトは?」
「おまけかよっ」
「いや、そもそもなんでここ着いてからも隠れる必要があったんだよ」
「いやなんか、入るタイミング逃したような気がして」
「…………」
店内に微妙な空気が流れた。
「…………えっと」
彼女は今、窮地に立っていた。
「ここか」
現在、店内に客は居ない。朝からの騒動で皆帰ってしまった。そんな中、ずけずけと入ってきた男性。
「……シエラ」
「!」
人族の男性。彼はハンナの横のソファで眠る、翼人族の女性を見付ける。
「……なるほど。あの大森林から遥々来たのか。それは、大変な旅だったろう」
「いや。鉄の国からはリルが居たからな。旅自体には困らなかったよ」
そして、続々と『人族』が入ってくる。ハンナは挨拶すらできずに固まってしまった。
「……さて。彼女がシエラか。どうだ?」
「!」
一際、大きな体格の男が話し掛けてくる。
「……え。えっと……」
「ああ、済まない。我々は『ブラック・アウト』。人族の組織だ。その翼人族の女性は構成員でね。様子を確かめにと、君に感謝をしに来たんだ」
狼狽える竜人族と、穏やかに説明する人族。彼女は何がなんだか分からなくなっていた。
——
未だ目を覚まさないシエラを横目に、彼らはテーブルを囲んだ。
「状況を整理しよう」
切り出したのはレイジ。だが。
「ちょっと待って。まず、貴方誰?」
「おっと」
ウェルフェアが質問した。この場には彼女とラスとレナリア、リルリィが居る。ヒューリは店の表へ出て、周囲を警戒してくれている。
「遅くなったな。俺は【レイジ】。革命軍のボスをやっている」
「……あんたが」
ラスが改めて彼を見た。褐色の肌と大柄な体格。ともすれば先程のオーガくらいあるのではないかと思えるくらい、『人族離れ』した背格好だ。
「……まず、自己紹介からですね」
続いてレナリアが口を開いた。
「いや、必要ない。レナリア女王と、『失神のラス』。そして君は、『爪の汚点ウェルフェア』だろう」
「!」
「……そうだけど」
言い当てたレイジを、ウェルフェアは睨んだ。
レイジはそれを流し、その隣に座る眼帯の竜人族の子供を見た。
「そして……その珍しい翡翠の鱗は『地竜』だな。ゼロックス家にそんな小さな娘は居ない。となると……5年前、行方不明になったジェラ家の次女、リルリィだ」
「わっ」
名を当てられ、リルリィは感嘆の声を挙げた。
レナリアも目を丸くする。
「……『知っている』のですか」
「まあな。人族にとって、情報は何より大事な宝だ。花の国の人族はエルフに詳しく、この国の人族は竜人族に明るい。どんな小さなニュースも見逃さないようにしてきたんだ」
「…………」
それはサロウも言っていたことだ。人族の情報収集能力は高い。密かに、ひっそりと、色々なことを『知っている』のだ。凡そ重要ではないような、地方貴族の家の事情まで。
「で、あいつがヒューリだな」
ラスは外を見た。ヒューリは何かを探すように地面を見ながら歩いている。
「うん。人族解放戦線のリーダー」
「何やってんだ?」
「分かんない。呼んでくるね」
ウェルフェアが立ち上がり、出口の方へ向かった。
「……そう言えば、街の住民が見当たらねえな」
「避難してます。『女王の作られた経路通りに』」
「!」
ラスの質問に、ハンナが答えた。彼はレナリアを見る。
「……『平時こそ、戦争に備えなければならない』。父がいつも言っていたのです。……機能、したのですね」
レナリアはほっと息をつく。ハンナはレナリアに対し、敬意を込めて挨拶をした。
「先導は、騎士団が執ってくれました。女王……レナリア様は、私達を守る政策を行ってくれたのです」
「…………!」
その場に居なくても。王が変わっても。魔力が無くても。彼女は国民を守った。
「でも、じゃああんたは」
「ハンナと申します。……私も避難しようとしたのですが」
「ああ。悪いな」
「……いえ」
ハンナはちらりとシエラを見る。逃げる手前で、ラスにシエラを頼まれたのだ。
——
「ねえ、作戦会議するよ。ヒューリ」
「…………ああ」
ウェルフェアが話し掛けるが、ヒューリは動かない。その視線の先が気になり、彼女は彼の隣に立った。
「……羽根?」
そこには黒い、鳥のような羽根の塊があった。
「あいつの翼だろう。……生えて来ないのか?」
「生えないよ。羽根じゃなくて翼なら。レナ様の角や尻尾と同じ。『魔力媒体』って奴はね。失うともう再生はしない。ヒューリの腕と同じ」
「……そうか」
ヒューリは、じっとその翼を見つめていた。ウェルフェアの説明を聞きながら、地に落ちた翼を。
「……でも」
ウェルフェアは知っている。『魔力媒体』の【使い道】を。
「レナ様も拷問で角と尻尾を切られたけどね。ラスが持ってて、それで『魔道具』をね」
レナリアの、『竜王の素材』で造られた魔道具の威力は凄まじい。先程、ライルの魔法を防いだのをウェルフェアも見ている。
ならば翼人族の王女であるシエラの翼からも、強力な魔道具が生まれる可能性はある。
「——いや」
それは、ヒューリも知っている。クリューソスから例の魔道具を受け取ったのは他ならぬ彼とシエラなのだから。
だが。
「……この翼は。シエラは『運び手』だった。魔道具だけじゃない。俺を、ここまで。人族をここまで。俺達をこんな所まで運んでくれた。立派に『輔翼』してくれた」
ヒューリの言う『ここ』には、彩京という場所だけではない意味が含まれている。つまりは、今、この状況、この場面。この『人族の進退が決まる重要な』局面まで。
「ウェルフェア」
「……良いの?」
ヒューリは振り返り、翼に背を向けた。ウェルフェアは再度、彼の意思を確認する。
「ああ。俺には魔道具なんて。これで充分だ」
「……分かった」
ウェルフェアは頷き、掌を翼へ向けた。そして、炎の魔法を放ち、それを焼いた。
「…………」
その様子を、ヒューリは一瞥もせずに店内へ入っていった。
——
「ありがとう」
「!」
ぺこりと、ヒューリは頭を下げた。ハンナは慌てて、手を振った。
「そんな、えっと。……私は、別に」
「で、作戦会議っつったか」
ヒューリはそれから、ソファの席にどかりと座った。彼の視線はレイジへ向いている。この集まりは、レイジが声を掛けたことで生まれたのだ。
遅れてウェルフェアも店内へ戻ってくる。
「ああ。現在の状況と、これからの各自の行動を決めたい。その前に意思確認だが」
「?」
レイジは全員を、再度見回した。
「俺は今回の戦争で、『人族の権利』を獲得するつもりだ。そこがゴール。お前達はどうだ?」
「…………」
皆が考える。そして、レイジは最初にラスを見た。
「……そもそも戦争って、どういうことだ?」
ラスは、現状を理解していない。ただレナリアを救っただけだ。
「今、『爪の国』の獣王が攻めてきてる。同時に北から魔物の群れ。どちらもアスラハの傀儡だろう」
「えっ!」
驚いたのはウェルフェア。彼女の生まれ故郷は『爪の国』であり、半分獣人族であるからだ。
聞いて、ラスは少し考えてから口を開いた。
「…………俺は、初めからひとつだ。『レナを無事送り届け、女王として復帰してから人族の奴隷解放を世界へ宣言してもらう』。それの障害は全て取り除く。まずはライルと話し合わねえとな」
レイジはふむと頷いた。
「ライル王は恐らく、獣王と対峙しに行ったと考えられる。アスラハの存在は世間には知られていない。一般から見ると、ただ『爪』が『虹』へ戦争を仕掛けてきたと、そう見える筈だ」
「なら戦争を止める必要がある」
「——分かった。お前は? ヒューリ」
続いて、ヒューリを見る。彼も周りを見回して、少し考えた。
「……俺は、お前らが居るなら『いいや』」
「はっ?」
ヒューリの瞳には、何かを決断したような光が灯っていた。
「『人族の問題』はお前らに預ける。俺はいち兵隊で良い。——魔物を。シエラを傷付けた魔物の群れを滅ぼしてくる。『虹』にとっても利があるだろ」
「…………!」
レナリアは、彼の目に覚えがあった。『ラスと同じ【怒り】の目』。静かに、しかし荒ぶる激情が瞳に宿っていた。
「分かった。そっちも大きな『一局』だ。任せたい」
「おう」
言うや否や、ヒューリは店から出ていこうとした。
「ちょ。ちょっと待て。もうちょっと。兵隊だとしても、お前も『リーダー』として、各自の動きくらい頭に入れておけ」
「…………そうだな」
レイジが慌てて止めた。
「——おいフライト、隠れてんな。出てこい」
「げっ!」
「!!」
そして、ヒューリがその眼光を窓の方へ突き刺した。その場の全員が、そちらを向く。声がした窓から、灰色のローブを纏った男が顔を覗かせた。
「フライト!」
ウェルフェアが驚く。そう。
誰も、気付かなかったのだ。魔力感知も匂いも、気も。あのローブを着ているのだ。
だが、ヒューリは気付いた。ローブを知るレイジは驚愕する。
「(……気配察知だけでなく、個人の特定もか。……俺とラスとヒューリ。『気』の練度は奴が最も研ぎ澄まされているということか)」
ヒューリは、3人の中で最も『キレやすい』。以前はラスもそうだったが、『鉄の国』の一件以降、慎重に物事を捉えるよう努めている。
つまりは『要らぬところで要らぬ争い』を発生させ、全てを打ち倒してきた。その結果、『実戦』の経験値は彼が最も多く積むことになった。
片腕を失おうとも。
もし『人族単体最強』を決めるのであれば、彼に分があるだろう。
「……なんでバレんだよ。ヒューリ、お前相当強くなってんな。『人狩り』戦以来か」
ばつが悪そうに、フライトも店内へ入ってくる。
「久し振りだなフライト。何故隠れてた」
「いや、隠れながら馬を調達してたんだ。レイジの指示でな」
「フライト、大丈夫だった?」
心配の声を挙げたのはリルリィ。フライトは彼女の所へやってきて、また頭を撫でた。
「ああ。すぐに逃げたよ。——ラス。あんたも無事だったか」
「……まあな」
「さて話を戻そう。……レナリア女王。貴女の意思は?」
そして、レナリアへ話を振る。彼女は囚人服のままだが、その瞳からは紛れもない『王の気品』が垣間見える。
「私はラスと同じです。人族の解放を。建国の後押しを。世界へ承認を。——そして、不埒者へ制裁を」
「…………なるほど」
片角を折られ、尾を切られ。それでも見せるその強い意思。レイジは改めて、敬意を込めた。
「……おまけにフライトは?」
「おまけかよっ」
「いや、そもそもなんでここ着いてからも隠れる必要があったんだよ」
「いやなんか、入るタイミング逃したような気がして」
「…………」
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