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第13話 母と女
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「私は悠太を産むまで『母』じゃなかった」
重明くんのお母さんの話。
短大卒ってことは、ハタチで結婚したのかな。
「二十歳で結婚したけれど。そんな若い女が、子供も産んだこともないのに。いきなり『母親』には、なれなかった。重明は、最初は可愛いと思っていたけれど。段々、子育ては苦痛になっていった。この子は、私の子じゃないのにって」
それは。
わたしの父が、優愛に対して抱いた感情と似ているかもしれない。
「……重明が小学校へ通うようになってから、ますます分からなくなった。どう接していれば良いのか。私自身も、感情と、行動と、『こうしなければ』という思いと。……意味不明な、苛立ちと」
それか。
こーちゃんが、優愛に対して抱いていた気持ちと同じかもしれない。
「……悠太を産んだ時、ひとりで泣いたの。子供みたいにわんわん。高齢出産と言われていたけれど、元気に産まれて来てくれて。この子は。この子が、私の子供なんだって。同時に、この気持ちを、重明に対して抱けなかったことを後悔したの。……姉は、こんな気持ちで、重明を産んだのだと分かって」
わたしも泣いた。優愛を産んだ時。わけわからない感情が大量に押し寄せてきて。
「……それでも。いや、その頃にはもう、関係は修復できないところまで行っていた。もう少し母親らしく、重明のこともちゃんと愛して。……思うのだけれど、行動に出せないで。悠太も、重明から遠ざけるようにして」
立場が逆だったら。わたしはどうしていただろうか。想像できない。
「……私は、これまであまり遊んだこともなく。二十歳から今まで、『女』と『母』の両立ができなかった。……重明の現状を考えると。私のところより、彼のところに居た方が良いのは妥当よね」
「……でも、それで離婚って。悠太くんは」
「…………私が、うまくできなかったから。重明に子守りは到底無理だと思ってたの」
「!」
視界の先では、子供ふたりが遊んでいる。優愛と悠太くんが、まるで姉弟のように。優愛が甲斐甲斐しく、世話を焼いている。
「……重明くん。もっと悠太くんと遊びたいと思っていると思いますよ」
「…………そうね」
「旦那さんと、改めて話し合った方が良いと思います。そこまで考えているなら、全部話して。……重明くんとも。きっと仲直りできます」
「……そうかしら」
「はい。彼、凄く優しいですから」
「…………でも」
「?」
重明くんとお母さんは上手く行ってなかったけれど。お母さん——明海さんはそれを悔やんでいた。なら大丈夫だとわたしは思った。
「……それに、気付くまで。遅すぎたのよ」
「えっ?」
「『母』を放棄した私は。あの人の単身赴任を切っ掛けに、『女』を優先してしまった。悠太は。……あの子は、私の子だけれど、重明の弟ではないの」
「!」
——
——
「やっ」
「真愛さん」
「あ、身体起こせるようになったんだね」
明海さんは、そのまま重明くんと会わずに帰っていった。悠太くんを連れてきたのは、重明くんと会わせるつもりだった筈なのに。
「なんか毎日来てもらって」
「わたしが来たいんだから、いーの。ね? 優愛」
「うん!」
相手の男性は。わたしと同じで、妊娠発覚と同時に音信不通になったらしい。そこで一度、離婚を考えて。重明くんを除いて話し合ったらしい。
でも、明海さんひとりで、悠太くんを育てることはできないと分かりきっていた。わたしはシングルマザーでも、若いからなんとかやっていけてるんだ。でも明海さんは当時35歳。バイト含めて職歴も無い。流石に厳しいだろうということで、元々重明くんのお父さんの性格もあって。重明くんのことも考えて。我が家で悠太くんは育てよう、ってなったらしい。
「はいこれバナナ。定番でしょ?」
「確かに。ありがとう」
「いーえ!」
お父さん、優しいんだろうな。優しそうだった。だって重明くんがこんなに優しいんだもの。甘えてしまいたくなる。
明海さんも、そこに甘えていたのかもしれない。
「ん」
病室内に、『Best Friend』が鳴った。しまった、マナーモードにしてなかった。
「ごめん」
慌てて取る。
「はい。相原です。……あっ。……あっ! はい! すいません! すぐ!」
今日は、7月24日。重明くんのことで、忘れていた。電話しながらぺこりと頭を下げて、切る。
「どうしたの?」
心配そうに訊いてくれる重明くん。
「…………お家賃、振り込まなきゃ。あはは、忘れてた」
「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ちょっとくらい遅れても」
しょうがないんだけど。家賃は、結構痛い。もっと安いところがあれば移りたいけど、あんまりなところだと優愛にも悪いし。でも、幼い子供が居るとあんまり良い顔されないんだよなあ。優愛なんて全然泣かないのに。
「ね。退院したらどっか行こうよ。空けとくからさ」
「良いの? バイト」
「ちょっとくらい平気だよ」
お金は、ぎりぎりだけど。けどもう、彼氏に使う必要もなくなったし。優愛が小学校上がれば、わたしもまたバイト増やせるし。この半年くらいは、ちょっと時間も作ろうかなって。
もしかしたら、重明くんが引っ越しちゃうかもしれないし。
わたしは明海さんと違って。一貫して『女』より『母』を優先してきたんだと思う。彼氏は作ったけど、でも結局は優愛が一番だもん。
血が繋がってる、腹を痛めて産んだ、って。思ってる以上に、結構大きいのかもしれない。
重明くんのお母さんの話。
短大卒ってことは、ハタチで結婚したのかな。
「二十歳で結婚したけれど。そんな若い女が、子供も産んだこともないのに。いきなり『母親』には、なれなかった。重明は、最初は可愛いと思っていたけれど。段々、子育ては苦痛になっていった。この子は、私の子じゃないのにって」
それは。
わたしの父が、優愛に対して抱いた感情と似ているかもしれない。
「……重明が小学校へ通うようになってから、ますます分からなくなった。どう接していれば良いのか。私自身も、感情と、行動と、『こうしなければ』という思いと。……意味不明な、苛立ちと」
それか。
こーちゃんが、優愛に対して抱いていた気持ちと同じかもしれない。
「……悠太を産んだ時、ひとりで泣いたの。子供みたいにわんわん。高齢出産と言われていたけれど、元気に産まれて来てくれて。この子は。この子が、私の子供なんだって。同時に、この気持ちを、重明に対して抱けなかったことを後悔したの。……姉は、こんな気持ちで、重明を産んだのだと分かって」
わたしも泣いた。優愛を産んだ時。わけわからない感情が大量に押し寄せてきて。
「……それでも。いや、その頃にはもう、関係は修復できないところまで行っていた。もう少し母親らしく、重明のこともちゃんと愛して。……思うのだけれど、行動に出せないで。悠太も、重明から遠ざけるようにして」
立場が逆だったら。わたしはどうしていただろうか。想像できない。
「……私は、これまであまり遊んだこともなく。二十歳から今まで、『女』と『母』の両立ができなかった。……重明の現状を考えると。私のところより、彼のところに居た方が良いのは妥当よね」
「……でも、それで離婚って。悠太くんは」
「…………私が、うまくできなかったから。重明に子守りは到底無理だと思ってたの」
「!」
視界の先では、子供ふたりが遊んでいる。優愛と悠太くんが、まるで姉弟のように。優愛が甲斐甲斐しく、世話を焼いている。
「……重明くん。もっと悠太くんと遊びたいと思っていると思いますよ」
「…………そうね」
「旦那さんと、改めて話し合った方が良いと思います。そこまで考えているなら、全部話して。……重明くんとも。きっと仲直りできます」
「……そうかしら」
「はい。彼、凄く優しいですから」
「…………でも」
「?」
重明くんとお母さんは上手く行ってなかったけれど。お母さん——明海さんはそれを悔やんでいた。なら大丈夫だとわたしは思った。
「……それに、気付くまで。遅すぎたのよ」
「えっ?」
「『母』を放棄した私は。あの人の単身赴任を切っ掛けに、『女』を優先してしまった。悠太は。……あの子は、私の子だけれど、重明の弟ではないの」
「!」
——
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「やっ」
「真愛さん」
「あ、身体起こせるようになったんだね」
明海さんは、そのまま重明くんと会わずに帰っていった。悠太くんを連れてきたのは、重明くんと会わせるつもりだった筈なのに。
「なんか毎日来てもらって」
「わたしが来たいんだから、いーの。ね? 優愛」
「うん!」
相手の男性は。わたしと同じで、妊娠発覚と同時に音信不通になったらしい。そこで一度、離婚を考えて。重明くんを除いて話し合ったらしい。
でも、明海さんひとりで、悠太くんを育てることはできないと分かりきっていた。わたしはシングルマザーでも、若いからなんとかやっていけてるんだ。でも明海さんは当時35歳。バイト含めて職歴も無い。流石に厳しいだろうということで、元々重明くんのお父さんの性格もあって。重明くんのことも考えて。我が家で悠太くんは育てよう、ってなったらしい。
「はいこれバナナ。定番でしょ?」
「確かに。ありがとう」
「いーえ!」
お父さん、優しいんだろうな。優しそうだった。だって重明くんがこんなに優しいんだもの。甘えてしまいたくなる。
明海さんも、そこに甘えていたのかもしれない。
「ん」
病室内に、『Best Friend』が鳴った。しまった、マナーモードにしてなかった。
「ごめん」
慌てて取る。
「はい。相原です。……あっ。……あっ! はい! すいません! すぐ!」
今日は、7月24日。重明くんのことで、忘れていた。電話しながらぺこりと頭を下げて、切る。
「どうしたの?」
心配そうに訊いてくれる重明くん。
「…………お家賃、振り込まなきゃ。あはは、忘れてた」
「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ちょっとくらい遅れても」
しょうがないんだけど。家賃は、結構痛い。もっと安いところがあれば移りたいけど、あんまりなところだと優愛にも悪いし。でも、幼い子供が居るとあんまり良い顔されないんだよなあ。優愛なんて全然泣かないのに。
「ね。退院したらどっか行こうよ。空けとくからさ」
「良いの? バイト」
「ちょっとくらい平気だよ」
お金は、ぎりぎりだけど。けどもう、彼氏に使う必要もなくなったし。優愛が小学校上がれば、わたしもまたバイト増やせるし。この半年くらいは、ちょっと時間も作ろうかなって。
もしかしたら、重明くんが引っ越しちゃうかもしれないし。
わたしは明海さんと違って。一貫して『女』より『母』を優先してきたんだと思う。彼氏は作ったけど、でも結局は優愛が一番だもん。
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