STARLIT KNIGHT

弓チョコ

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閑話②「休息」

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 シャムシール息子夫婦の宿屋は、全ての部屋が空室だった。ただでさえ向かいに大きな宿があり客が取られるのに、今は戦争中で街は敵兵が蔓延っているからである。
「では。何かありましたら下の階に私とアルファ殿がおりますので」
「ええ」
 という訳で、アルファ、ステラ、アニータにはひと部屋ずつ与えられた。代金は必要無い。『街を敵から取り返してくれたら』と言う事だ。
「……ふうっ。もう少しで背中とお腹がくっつく所だったわ。あの女のひとには後でお礼をしなくちゃ」
 そしてステラには、この宿屋で一番良い部屋が与えられた。それは今まで屋敷に住んでいた彼女にとってはとても小さな部屋だが、彼女は楽しそうに部屋中を観察していた。
「…………」
 来た事の無い街、見たことの無い風景、初めての宿屋。狭い部屋、低い天井、木の匂い。
 ステラはまるで未知の世界に来た探検家のように感動し興奮していた。
「……ちょっと、だめだよ……」
「?」
 すると、部屋の扉から声が聞こえた。子供の声だ。
「誰?」
「わっ!」
 ステラは微塵も臆せず、扉を開けた。その拍子に、外で扉にもたれ掛かっていたであろう人影がステラの方へ倒れてくる。ステラはそれをさっとかわしたので、人影は部屋の床にびたんと倒れる。
「……いっ、てぇ~……」
 顔を抑えて起き上がったのは男の子だった。
「……大丈夫?」
「ダオ!大丈夫!?顔真っ赤!」
 そしてその様子を見て中に入ってきたのは女の子。どちらもステラと同じくらいだ。
「思いっきり顔だったよ。どこか怪我したなら……」
「だ、大丈夫だよ!こんなの痛くないし!」
「……でもさっき痛いって」
「あ、あれは嘘だよ!」
「…………」
 ステラと女の子は顔を見合わせた。



「わたしはマルグリット・シャムシール。9歳だよ」
 黄色のワンピースを着た茶髪の女の子は落ち着いた様子で自己紹介をした。
「ほら、ダオも自己紹介して」
「う、うるさいな。……ダオレン・シャムシール。10歳」
 黒髪の男の子はぶっきらぼうに自己紹介をした。先程の事があり少し恥ずかしいようだ。
 ふたりの自己紹介を受けてステラも胸に手を当てた。
「私はーー」
「知ってるよ。お姫さまでしょ?」
「えっ」
 マルグリットが手を合わせて遮った。
「だってさっき1階で見てたもんね」
「マルお前、見つかったらまずいって言ってなかったか?」
「もう見つかったから関係ないもん」
「なんだよそれ」
「というか見つかったのはダオのせいだからね」
「なんでだよ!マルがうるさくしたからだろ!」
 ステラを置いてふたりで漫才を始めたダオとマル。
 それを見て、ステラはさらに顔が明るくなった。
「ねえ!ふたりはきょうだいなの?」
「ん?」
「そうだよっ。ダオがわたしのひとつ上でお兄ちゃん。でもおかあさんはいつもダオに怒ってばかりだから、わたしの方がおねえさんっぽいの」
「嘘つけ!マルの方が怒られてるだろ!」
「同じくらいだもん」
「さっきと言ってること違うじゃん!」
「いいなあ!」
「え?」
 ステラの蒼い眼は輝いていた。
「なんで?」
「だって、私は兄弟居ないの。歳の離れた叔父上様や叔母上様はいるけど、こんな風に喧嘩なんかしてくれないし、いつもお屋敷ではひとりだからつまんない」
「……ふぅん」
「ねえ、どうしてお姫さまはこの街に来たの?お城は?」
「……うーんと……。今は戦争中だから、私は都に帰らなくちゃいけないの」
 ステラは聞きかじりの言葉で説明をする。
「どうして?」
「………分かんない」
「ふぅん。ね、お姫さまって綺麗なドレスとか着るんでしょ?」
「……そうなの、かな」
「いいなあ。わたしは兄弟なんかよりそっちの方がいいなあ。あ、でも、この家から離れるのはいや」
「おいお姫さま。マルは話し出したら止まらないから、気を付けろよ」
「何よそれ。ダオだって……」



 好き勝手に喋る兄弟を見て、ステラは街に居た時を思い出した。
 彼女も街で普通の子供と遊んでいたのだ。彼らがどうなったかは分からない。
「ねえ」
「なあに、お姫さま」
「せっかくだし遊びましょう?アルファ達の用事が済むまで」
 つい2日前まではステラも平和に街で遊んでいた。だがこの2日で彼女を取り巻く状況は悲惨で劣悪なものに変わった。
 だから彼女にとってこれは良い休息になっただろう。
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