STARLIT KNIGHT

弓チョコ

文字の大きさ
15 / 18

第13話「星海」

しおりを挟む
「水の性質を変化させる。詰まるところこれが、『星海の民』の体質であり、『星海の姫』の能力です」
 何故、ステラが王都へ向かっているのか。敵が居る場所へわざわざ。さっさと国外へ逃げてしまったら良いものを。
 それは、アニータの考える『逆転策』だった。彼女の知るエストレーリャは決して、敵には屈しない。よって殺されるだろう。そうなれば、どこへ逃げようとも結局はステラが狙われる。敵が『星海の姫』の能力を使って『宝瓶』を操ろうとしていることは明白である。水自体が目的であれば『森の泉』を占拠すればそれで良いのだから。
「『宝瓶』の水は国中に繋がっています。『水』は『星海の民と水の民の傷を癒す』。ステラ様、これを良く覚えておいてくださいまし」
 アニータは、何を伝えたかったのか。



「時間が無い。いいか、よく聞け。これからの事を話す」
「分かった」
 ユミトはアルファに『水装アープ』を着るように促し、自らも着る。
 その間ステラは静かにしていた。
「お前達はここから抜け道を使って、国外へ逃げろ」
「……どうやって?」
「それから、国を出て『レオ』を目指せ」
「……何それ?」
「いいな、『レオ王国』だ。そこに行けば、『シン』って俺の弟子が居る。そいつを頼れ」
「な、何を言ってるんだよ、ユミト?」
 話している間にも、上から降りてくる音が大きくなる。
「それに、抜け道なんてどこにあるんだ?」
「それは、ここだよ!」
「!」
 ユミトはアルファを担ぎ、『宝瓶』へ投げ入れた。

「ぷはっ!……おいバカユミト!ふざけてる場合じゃ……」
「『宝瓶』は深いだろ?」
「!」
 アルファは、投げ入れられた後顔を出すために立ち泳ぎをしている。
 下を見る。どこまでも澄んでいる透明な『宝水』は、本当にどこまでも続いている様に見えた。
「出た先は森。息はギリギリ持つ位だ。死ぬ気で行け。勿論、ステラ姫を抱いてな」
「!!」
 これはアルファに限らず、この世界の人々に当てはまるのだが……。
 『水泳』が出来る人口は、1割も居ない。
 そもそも、生きていくだけでギリギリな水を、娯楽目的で貯水している者など一部の大金持ちか、アクエリアスに住む貴族くらいだ。オアシスや泉、川で水浴びくらいはするが、泳げる人間は居ない。どころか、泳ぐ、潜るという考えに至らないのが、この世界の一般的な思考である。
 だがアルファは今、立ち泳ぎをしていた。
「何のために昔、泳ぎを教えたと思ってやがる」
「!!」
 ユミトはその貴族の地位に居たのだ。
「命を懸けろよ。お前も『水装士アーバーン』だろ」
「……」
 アルファの眼に決心の炎が灯った。
「姫様、こっちへ」
「うん」
「!」
 アルファはステラを『宝瓶』へ招く。が、その前にステラは既に『宝瓶』に飛び込んでいた。
「こっち」
「……!ちょ……!」
 そのままステラは潜りだした。
「ハッハッハ。置いてかれるぞ?」
「……ユミトはどうすんだよ?」
「俺?俺は……女王が心配だからな。助けてから、お前らを追うよ。けど待たなくて良い。『レオ』で会おう」
「…………」
 アルファは流石に、それは嘘だと見抜いた。
「……分かった。早く来いよ」
「ああ」
「ユミト」
「?」
 だが、アルファは従った。何故なら彼は『水装士』だから。
「さよなら」
「……ああ。アルファ、愛してるぜ」
 そしてユミトも、『水装士アーバーン』だったから。
 ユミトの涙を見なかった振りをして、アルファは潜り始めた。ステラはどんどん先へ進んでいた。



「やあやあ。どこぞの『水装アープ』使いさん」
 扉は開かれた。カハに続いて大量の甲冑兵が降りてくる。
 その数は50ではきかないだろう。
「……よぉ大将。アクアリウスの『国宝』に何の用だ?」
 ユミトは『宝瓶』の前に座っていた。
「ははは。またまた。ここに『星海の姫』が居る筈だ。だろ?」
「ホシウミノヒメ?なんだそりゃ。人の名前か?」
「とぼけちゃって。……捕らえろ」
 カハは甲冑兵に命じる。甲冑兵達は前に出て、ユミトの腕を掴もうとする。
「!!」
 だが、その腕は斬り落とされた。
「ぎゃぁぁぁぁああ!」
「!!」
 一気に甲冑兵達に緊張が走る。
「……抵抗するんだ」
 カハは黒衣から『火器アームズ』を取り出した。
 ユミトは立ち上がっていた。
「はっ。まあな」
「君は知らないようだから教えるけど、戦争は俺らの勝ちだ。ここで大人しく『星海の姫』の居場所を吐けば、死にはしないよ」
「……あー……?」
 ユミトは呆れたように剣を肩に乗せてから、切っ先をカハへ向けた。
「護るべきモノを護れなくて何が『水装士アーバーン』だ。……まずアステイル様の仇。それは取らせて貰う」
「仇討ちねぇ。……あ、そういえば女王様も自殺しちゃったよ」
「だろうよ」
「あれ、怒らないんだ」
「ふぅ……」
 ユミトは息を吐いた。溜め息ではなく、決意の息だ。
「もう、喋るな。俺達の怒りは、この剣と『水装アープ』で教えてやる」



「…………!!」
 泳ぐというのは、水平に進むよりも、下へ潜る方が遥かに力が要る。
 そして当然、長く潜っていれば体内の酸素が減っていき、非常に危険な状態となる。
「(……!やばい!し、死ぬ!)」
 『宝瓶』からの抜け道は本来は抜け道として作られた物ではなく、自然の物だ。
 アルファは潜る力と技術こそあれ、ここまで深く潜った事は無かった。
「(ま……まだ着かないのか!?)」
 だが、苦痛に悶えるアルファとは逆に、ステラはまるで鳥にでもなったかのように、優雅に進んでいた。
 一応言っておくと、ステラはずっと『泉の街』で暮らしてきた。水泳など、全くしたことが無い。
 『宝瓶の間』の扉を開けてから、明らかにステラは別人の様だった。
「ーー!!」
 アルファの息が限界に達した直後、光が差した。



「……ここは?」
 ぜいぜいと息を整え、陸へ上がる。辺りを見回すが、ユミトの言う通りの森では無く、まだどこかの洞窟内だった。水面が自然と光る為、周囲を確認できた。
「姫様……?」
 ステラは先に上がったようだ。小さな裸足の跡が真っ直ぐ続いている。その脇、洞窟の通路の真ん中に、跨げるほど細く小さな水の流れがあった。恐らく『宝瓶の間』へ続く川だ。ステラはこれを上流へ辿るように向かったらしい。
「…………」
 アルファは迷わず追い掛けた。



 柔らかく光る水の道に導かれるように進むと、洞窟を抜けた。雨が降っている。丘の上の草原に出たのだ。
「……あれ?」
 アルファはふと首を傾げる。ここは王都で、盆地の筈だ。王宮はど真ん中で、山からは最も遠い筈だ。こんな小高い丘は、山からは見えなかった。
 丘の上から景色を見下ろす。そこに街は無かった。火も煙も見当たらない。そんなに遠くまで泳ぎ、歩いたような気もしない。
「……姫様」
 水の道の先に、ステラが居た。綺麗な白い肌を惜し気無く晒している。近付くと、彼女の視線の先に小さな岩があった。
「……これは」
「『水瓶』だよ」
 ステラが答えた。
 アルファも見る。膝ほどの大きさの岩の上にはひとつの『瓶』に見える『モノ』があり、淵には水が張っていた。中心からコポコポと水が湧き出ているようだ。それが水の道に繋がっている。つまりこれは。
「宝水の源泉」
 ステラは、先程から独り言のように呟いている。アルファに目もくれない。だが決まって、彼が側に居る時に呟くのだ。
「『私は水の性質を変えることができる』」
「……姫ーー」
 また呟き、その『水瓶』を持ち上げた。
「……?」
 何をしようとしているのか。アルファは見ることしかできない。
「『私達の始まりの瓶』。『星海の民の役目』」
 そう言って、『源泉』の水を頭から被った。



 遥か昔。
 ヴェルトラオム大陸には3つの家族があった。全員で1万人も居ない、小さな村で暮らしていた。その頃から水は貴重であり、また浄水技術も今ほど発達していなかった為『死の水』の成分は殺しきれず、平均寿命は長くなかった。
 世代を重ねる内、人数は増えていった。そして水不足は休息に深刻な問題になっていった。3つの家族はそれぞれ対立し、少ない水を奪い合う戦争に発展した。

 ある時、『死の海』を渡ってきた者達が居た。彼らは高濃度の『海水』には手を出さなかったが、山の水や雨水などに悉く触れていった。
 すると、それらの水は全て、煌めくような『清水』へと変貌した。これでもう水を巡って争うことは無い。人々は満たされた。

 私達星海の民は世界の水を管理するために生まれてきた。

 彼らはそう言った。大陸で唯一、危険の少ない水が湧き出る場所に拠点を起き、それを浄化して皆に配布すると約束した。
 もうふたつ、彼らの言葉がある。

 『私達が触れていないと、水は忽ち毒へと戻るだろう』
 『その時被害を被るのは、星海の民や水の民では無い』

 彼らは彼らの女王の死後、女王を使って『瓶』を作った。骨を砕き、伸ばし、固め器とし、その中に水を張り、肉を入れた。
 これで、いつまでも水は清らかだと。



 雨音は、足音を隠す。
「!」
 ステラは今、正気ではない。放られた水瓶の行方を目で追ったアルファだけが、それに気付くことができた。
「…………」
 黒い衣を纏う者が立っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

処理中です...