ネフィリム・エスカトロジー

弓チョコ

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第10章:天界戦争

第106話 進撃

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 白い空。白い雲。月や金星とはまた違った世界が広がっている。
 大地も薄く白みがかっている。霧だろうかと、きさらぎは考察する。

「……始まったか」

 今日は屋上ではなく、自室の窓から覗いていた。その光景を。初めて見るそれを。
 戦争を。

「私達も、『聖宮』に行かなきゃね。フミ君には止められるだろうから、こっそりね」
「……うん」

 ゆっくりと、支度をする。神奈にも、お外用のお洋服を選んであげて。

「今降りても、天使の包囲網を抜けられない。……まだ、駄目だね」

 愛月の『作戦』を最も良く理解しているのは。文月ではなかった。

——

——

「「待てっ!!」」
「!」

 兵士達が道を抉じ開け、突き進む文月達。だがそれを阻むような大声が、戦場に響いた。
 声は、静止を促していた。

「誰だ?」
『……さあな。天使長か何かか』

 文月の見据える先。『聖宮』との間に、その天使が立っていた。

「……警告! 我々は警告をする!」
「?」

 メガホンもマイクも無く、よくもこの戦場に声を轟かせられるなと感心するような大声だった。

「神の領域への侵入! そして暴力の行使! これらは重罪である! 悔い改めよ!」
「…………はぁ?」
「武器を捨て、こうべを垂れ! 地にひれ伏して許しを乞うのだ!」
「………………」

 一同は、ぴたりと止まった。そして、カエルムがひと言。

『……言ってやれフミツキ。戦場にも聴こえるように調整する』
「ああ」

 文月が、マイクを握り締める。

「これは主への冒涜! 反逆である! 悔い改めよ! 悔い改め——」
「あのさあ」
「!!」

 同じくらいの声量で。文月がその天使を遮る。

「『先に手を出してきたのはそっち』だ。良いか。謝るなら今の内だぞ『天界』」
「なっ! ……な、なっ!! ぶっ! 無礼な!」

 怒っているのは、どちらだ。
 無礼なのは、どちらだ。
 悔い改めるべきは。

「……『夜』及び月軍と悪魔達よ。『構わんからやっちまえ』」
「なっ!!」

「「オオオオオオオオオオオ!!」」

 罪により、ソフィアを殺したのは。
 代償などとのたまい、愛月を殺したのは。

「お前らが『宣戦布告無しの先制攻撃天災』を起こし始めた半年前から、既に戦争状態だろ。ふざけるなよ」

 怒りとほざき、地上を破壊したのは。その罪を、母へと被せたのは。

「お前達は創世記から何も変わってない。ノアの一族以外を全て滅ぼしたお前達を見て、一体誰がお前達を信仰するんだ」

 知識が。
 この1ヶ月で、文月に身に付いていた。

「道を開けろ。お前達の信仰する『神』とやらに用がある」
「不届き者がぁっ!!」

 天使が、その4枚の翼を翻して。

「もう良い! 悔い改める機会を与えられた主の慈悲を! 無下にしたな!」

 一直線に、文月に狙いを定めて。

「粛清だっ! お前が首魁——」

 超音速で剣を抜いて飛び掛かり。

——

「——そりゃ無理よ。悔い改めなさい」
「!!!」

 美裟に。横から思い切り蹴り飛ばされた。

「がっ!! ……ぐがっ!」

 高速で動く物は、横からの衝撃に弱い。その天使は数十メートル吹き飛んで、悪魔の群れの中に飛び込んだ。

「食って良いわよ、悪魔さん達」
「おっ! 悪いな! 丁度今日のおやつタイムだったぜ!」
「ギャアア! やめろ! 貴様ら! 汚ならしい手で触れるな! アアア!!」

 断末魔と共に。それは消えていった。

——

「あれは『何天使』?」
『……大天使だな。下級の雑魚だ』
「そう。でもまあ一旦の休戦を持ち掛ける辺り、割りとエリートなのかもね」
『もう忘れろ。そろそろ聖宮に入るぞ』
「! いや、ちょっと待ってくれ」
『?』

 九歌島から聖宮まで、半分ほど進んだ辺りで。
 文月が振り返った。

「…………押されてないか……?」
「!」

 いくら悪魔達に怨みと勢いがあろうと、天使達は『無限』である。無限大の質量で、津波のように襲い来る天使に、徐々に押され始めている。

「……! 島が!」

 囲まれている。埋め尽くされる。下級天使は単体で弱かろうが、数を揃えれば津波となる。

「戻ろう! 島の結界が破られたら駄目だ!」
『いや、待て』
「!」

 文月が慌てて踵を返すが、カエルムが止めた。

『……ようやくだ』
「?」

 島の、その上空。カエルムには見えていた。

『大遅刻だがな』

 白い空が割れ、光が射す。

「!」

 そこから、降りてくる影があった。

「グリゴリか!」
『ああ。こちらの戦力は、追加で110だ。結界の術に長けた者も居る。後方を気にする必要は無い』
「……!」

 黒い影と黒い翼と、黒い剣を携えて。

——

「良いか! このいくさはカエルムの支援ではない! 世界の命運を別つ大戦である! 神に反逆を誓った、五千年前を思い出せっ!!」
「「おおおおっ!」」

 リーダー格の堕天使が、仲間に向かって吼える。そして、すぐさま天使の群れに向かって突進していく。

「機会をくれた、『フミツキ』に感謝しろ! 行け! 行け!」
「おおおおっ!!」

 天から現れ、猛スピードで敵へ突っ込んでいく、110の影。

 その様子を島から覗き。

「…………サリエル様」

 フランソワは自身の主を見付けた。

——

「……分かった!」
『良いか。3人の神は全能により、それぞれ世界に対して司る「御業ちから」がある』

 天使、悪魔、人間が入り乱れる混沌の戦場。アルバート率いる『夜』の兵達のお陰で、文月達に戦火は飛んでいない。今のうちに、『聖宮』へと辿り着かねばならない。
 その間にも、カエルムが説明すべき事柄がある。

『「数の神」「魂の神」「力の神」というものだ』
「……なんだそれ?」
『まず、できれば「数の神」を仕留めたい。そうすれば天使どもの数も大幅に減少する』
「なるほど。なんとなく分かったわ」

 美裟が頷いた。原理や理屈を聞いても分かる筈が無い。とどのつまり、『そいつを倒せば良い』。それだけ分かれば。

「『無限』の出所ってことか」
『その通りだ。次に「魂の神」を狙う。奴を討てれば——』

 だが、その説明が終わる前に。

『!』

 カエルムが、腕を出して静止を促した。
 聖宮の門前まで、既にやってきていた。

——

「…………久し振りだな。ベルルムの息子」
『……貴様らか』
「そっちに居るのは……ああ。名を変えたらしいな。アレックスか」
「……」

 聖宮を守護する、守護天使。7人の天使が立っていた。
 大きな6枚の翼。2枚で頭を、2枚で身体を隠し、残り2枚で羽ばたいている。
 そして、手に持つ剣からは炎が出ていた。

『セラフィム』
「!」

 天軍九隊、最上級の天使。

「ここから先は主のおわす聖域だ。何者も立ち入ることは許されぬ」
『今さら言葉で退くと思うのか』
「……思わんよ」

 カエルムも、剣を抜いた。元々持ってきた剣はグングニルに砕かれた為、ルシファーが持ってきた666振りの内のひと振りだ。刀身自らが光を放つ、両刃の大剣。本来は両手持ちだが、カエルムはそれを軽々と片手で扱う。

「だが、権天使風情が我々に敵うと思い上がる傲慢は許されぬ」
『カルトのねじ曲がった尺度で測った力量など話にならん。貴様らが地位に胡座をかいている間、私が何もしていなかったと思うか』

 お互いに、剣を構えた。ここを通るには、この天使達を退けなければならない。
 美裟にも緊張が走る。

「よう文月。何止まってんだ」
「!」

 だが。戦いが始まる寸前で、それは途切れた。
 後方から、文月を呼ぶ声。
 ケイがやってきたのだ。

「ケイ! そっちは大丈夫なのか」
「ああ。悪魔達には指揮なんぞ要らねえよ。それより俺もこっちに混ぜろ」
『助かるぞ。相手は7体だ』
「構わねえ」

 彼も、剣を取り出した。見ればそれは、日本刀のような形をしていた。だが黒い。全てが影に覆われた漆黒の刀。

「オヤジが世話んなったらしいから、挨拶したかったんだ」
『……そうか』

——

 カエルムとケイ、そしてアレックスが戦闘体勢に入る。
 美裟も戦う気満々であったが、不意に肩をつつかれた。

「?」

 見ると、ケイに付いて色葉もここにやってきていた。

「色葉さん?」
「私も、同行します。ざくろさんは悪魔達と一緒に暴れてますが……」
「ありがとう。心強いわ」

——

「アルバート! ホウラ! てめえらもこっち手伝え!!」
「!」

 ケイが叫ぶ。聖宮までの道を作ってから前線に居たアルバートとホウラは、目の前の敵を斬ってからこちらに合流した。

「……なんか気持ち悪い天使だな。羽根の塊が剣持ってやがる」
「……熾天使か。丁度良いな。下級天使では物足りない所だった」

 役者は揃った。
 カエルム、ケイ、アレックス、アルバート、ホウラと。
 対するは7人のセラフィム。

「俺とカエルムで2体やる! お前らはひとり1殺だ!」
「おうっ!」

『行け! フミツキ! ミサ! こんなところで止まるな!』
「!!」

 聖宮までの道が、開かれた。
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