ネフィリム・エスカトロジー

弓チョコ

文字の大きさ
119 / 120
最終章:旅の終着点

第119話 家族に囲まれる青年

しおりを挟む
 現在、夜中である。月と星以外に光は全く無く、日本とは思えないほど外は暗い。

「名前」
「えっ」

 この、丘の上の仮設住宅は、4棟。
 1棟は、愛月とカエルムが眠っている。
 1棟は、きさらぎと神奈、アレックスの『佐々原家』が使っている。
 1棟は、シレークスとディアナの『エバンス家』が使っている。
 そして、もう1棟が、『川上家』用なのだが。

「あんたが決めてよ。まあ、今すぐじゃないけどさ」
「俺で良いのか?」
「『月』を入れたいんじゃないの?」
「いや……。そんな縛りは別に無いと思うぞ」
「あんたの母親は?」
「愛月」
「お祖母ちゃんは?」
「香月」
「あんたは?」
「文月」
「縛ってんじゃん」
「マジかよっ!」

 文月が起きてからは、アルテとセレネは『エバンス家』で寝泊まりしている。気を遣われているのだ。ふたりは確かにシレークスの実の娘ではあるが。

「え、気付いて無かったの?」
「いや、そこまで考えたこと無かったっていうか。……俺に子供できるなんて完全に予想外だった」
「毎回きちんと中で出しといてよく言えるわね無責任クソ野郎」
「う……。すまん」
「いや別に怒ってないわよ。それより名前。考えときなさいよ」
「男女どっちだ?」
「まだ分かんないわよ。ていうかそんな検査できる機械も無いわよ」
「確かにそうだ。……え、それって病院も無いよな。出産相当大変じゃ……」
「そうよ。終末後の最初の出産ね。このコミュニティでは。……正直不安だらけだけど」
「…………すまん」
「だからなんで謝るのよ」

 身重な美裟の生活を補佐する為に、文月は殆ど町へは降りていない。『終末』に少なからず責任を感じている為仕事をしなければとは思うのだが、シレークスに『いらねえ』と言われている。世界がこんな状況でも、産休と育休があるらしい。

「町には、設備は無いけどお医者さんも居るし。いざとなったら呼んできたら大丈夫よ。今も既に、週に1度来て貰ってるし」
「そういや、なんで俺達だけこんな丘の上に居るんだ? 不便だろ」
「……はぁ~」
「えっ」

 文月の疑問に、美裟は深く溜め息を吐いた。

「いや、あんたが言ったんじゃないのよ」
「え? 俺は寝てたろ」
「『どっか丘の上で、家族全員』って」
「あっ!」

 いつだったか、もう思い出せないが。そんな話を。そんな理想を。そんな夢を話したことがあった気がする。
 だから、シレークスに訊かれたのだ。どうだ? と。

「全員、完璧とは言えないけど。あんただけは、ほぼほぼ目的は達成できたんじゃないの?」
「…………確かに。俺の、為に」
「そうよ。あんたの為に、皆集まってるのよ。町の人達も見た? 『夜』メンバーもね。自分の故郷を心配する人も居るけど、でもここに留まってる。愛月さんの身体があるってのもあるでしょうけど。あんたも立派に『ボス』なんだから」
「!」

 この町は。『文月の町』と言っても過言ではなかった。半分は被災者だが、その多くは『夜』の協力があったからこそここまで復興できているのだ。

「あたしの両親や、ディアナちゃんの祖父母もそうだけど。アルバートとか、堕天島や月影島に家族が居るメンバーは多いのよ」
「!」
「……早く、探してあげないとね。『ボス』」
「…………おう」

 『夜』は、組織である。組織には、目的がある。
 終わりではない。『終末』を乗り越えても。まだまだやることは沢山ある。人類の復興は勿論、構成員の家族の安否を確かめなければならない。それは文月が、ボスとして切るべき舵だ。

「今は、あんたと。あたしと、赤ちゃんの為に、ここに留まってくれてるのよ。予定日は分からないけど、多分5月くらいだから。動くとしてもそれからね」
「分かった。……明日、一度町へ降りるよ」
「そうした方が良いわね。あんたの顔見ると、皆喜ぶと思うわ」

 ここを拠点として。捜索隊を作る必要がある。ただ生きるだけでなく、その為の準備を、今からせねばならない。
 文月は、自分の身体から活力が湧いてくるような気がした。

「そう言えば、ケイ達は?」
「……さあね。少なくともこの町には居ないわ。3人とも。いや……4人とも」
「4人?」
「色葉さんも妊娠してたのよ」
「マジかよっ!」
「どこかで普通に暮らしていると思うわ。まあ、あの人達なら心配要らないでしょ」
「……確かに」
「これから冬だから、少しだけ心配だけどね。あんたも、働いた方が良いかもね」
「ああ。……でも、お前をここにひとりにはできないだろ」
「あら嬉しい。じゃあ誰かに頼むわよ。双子でも、ディアナちゃんでも、きさらぎさんでも」
「ああ」
「よいしょっと」

 美裟はおもむろに立ち上がり、外へ出た。

「おいおいどうした」
「良いじゃない。ちょっと散歩よ」

 慌てて文月も、咄嗟にコートを持ち出してそれに続いた。

——

「……これで、良かったのかしら」
「?」

 椅子を持ってきて、崖から景色が見えるように座る。今夜は月が出ているため、完全な暗闇ではなかった。

「何をしに、日本を出たんだっけと、ふと考えるのよ」
「…………俺の母さんに、会うためだった」
「そうよね。最初は、それだけ。それが、戦争に巻き込まれて、月まで行って、金星、太陽。……神様に喧嘩を売って。世界は滅亡」
「…………」
「聞いたわよ。終末は予定通りで、あたし達のせいじゃないって。でも、それなら天界まで行かずに、上空で避難だけしていれば、愛月さんも死ななかったし、魔術も奇跡も無くならなかった」
「でも、そうしたら父さんやシレークスに会えなかった」
「そうよね。確かにそう。魔術や奇跡が残ってるってことは、まだ天界の支配が続いてるってことだし。どっちが良かったかなんて、人それぞれの主観でしかない」

 空にはオリオン座が見える。月も輝いている。あそこには、ツクヨミやホウラ達も居るのだろう。

「『ルール』を破壊するという愛月さんの目的は、どうなのかしら」
「…………生死については、神が決めたルールじゃないから、結局祖母さんや伯父さんには会えないよな」
「でも、天界の支配からは抜け出した。それは一部、叶っているわよね」
「……まあな。母さんがどう思うかだけど」
「…………あたしは、概ね満足よ」
「!」

 月光に照らされた美裟は、いつもより美しく見えた。

「あの時、断ってたら。あんたと同じ道を行く決断をしていなかったら。……きっと、こうはならなかった。あんたと結婚もしてないし、あんたとの子供を授かることもなかった」
「……ああ」
「この子は。……そうして生まれてくるのよ。それって『奇跡』じゃないかしら。あたしの決断ひとつで、生まれなかったかもしれないのよ」
「…………」

 自分のお腹を撫でる。まだ小さいが、はっきりと大きくなっていることが分かる。これからどんどん大きくなるだろう。こうして散歩も、気軽にできなくなる。

「……月が綺麗ね」
「そうだな……」

——

「あんたは、どうなのよ」
「ん」
「この旅を経て。どうなのよ」
「…………」

 父を、捜していた。母と再会し、家族3人で暮らすことを夢見ていた。
 文月は。

 双子の、しかも異父姉妹がいると判明し。

「あの手紙が、全ての始まりだったな」
「そうね。吃驚したわよ」
「アルテとセレネは。良い子でよかったよな」
「あんたには勿体無いほどね。ほんとに賢くて、優しい子達」

 その双子にも、異母姉妹が居て。
 その母親と会い。別れ。

「ディアナちゃんには最初殴られてたわよねあんた」
「あー……そうだっけ」
「ソフィアさんにも、驚いたけど」
「あれはな。……ちょっと辛かった」

 そして、自分の母親と再会して。

「母さん、若すぎだよな」
「本当よ。何よ33って。うちの親は50だったのに」
「あれでめちゃくちゃスキンシップしてくるからな」
「息子としても色々考えるわよね……」

 それから、再従姉と、その娘に会いに行って。

「姉さんは、最初から死んでたよな」
「笑い話じゃないけどね。無事で良かったわ」
「そういや、神奈ちゃんも奇跡持ちだったんだよな」
「最後まで隠し通したらしいわね」

 地球を離れて。

 月で、異父姉妹の父親と会った。

「シレークスは、もうぶっ飛んでたなあ」
「ほんとよ。あたし第一印象最悪だからね。大っ嫌いだったわ」
「皆そうだと思うぞ。まあ、話せば分かってくれたけど」
「今や普通に気の良いおっちゃんてのもギャップよね」

 月を離れて。
 金星で、父に対面した。

「あれこそ吃驚したわ。文月のお父さんと思ったら、愛月さんが死んだとか言って。意味不明だったわよ」
「代償があったんだよな。だから、俺の夢に干渉するしかなかった。でも一応、母さんは自分が死ぬことも計画の内に入れてたっぽいんだよな」
「ほんと、何者なのよあんたの両親」
「あはは……」

 その後。

「……あたしも、その『家族』に入れてくれて。ありがとう文月」
「なっ。……なんだよいきなり」

 文月の、ネフィリムとしての。
 終末を股に掛ける、家族を巡る旅は。

 一端、ここで終わりを告げる。

「あんたの、新しい家族が。今度産まれるのよ」
「……そうだな。ありがとう」
「ん」

 椅子を隣まで持ってきて座り。
 美裟のお腹を撫でた。妹達にしてきたように、優しく。

「俺の、隣に居てくれて」
「…………ええ。ずっと居るわよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。 選んだ職業は“料理人”。 だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。 地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。 勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。 熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。 絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す! そこから始まる、料理人の大逆転。 ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。 リアルでは無職、ゲームでは負け組。 そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...