この夜にとどまって。

チタン

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この夜にとどまって。

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 つけっぱなしになっていたテレビが延々と放送休止のカラーバーを映している。そのテレビの明かりだけが、真っ暗な部屋を照らしていた。
 私は乱れていた髪を手櫛で直した。あなたは向こうを向いたまま、こちらを見る気もないようだけど。

 思わず口から「これからどうするの?」と言葉が漏れそうになったけど、寸前で止まって開いた口から漏れた息は声にすらならなかった。
 言えなかった。あなたを裏切った私には。
 そんな事を聞いても、答えはもう決まっているのだ。もっと、さり気なく話してみようか? いや、それでも、もうあなたは話を聞く気もないだろう。

 暗がりに浮かぶあなたの背中が、冷たい鉄の塊に見えた。夜の闇に沈黙だけが横たわっていた。
 私も、あなたも、もう自分達の結末に気付いている。この夜が、終着駅までの最後の停止地点。

 夜に浮かんだまま話しかけようか躊躇っていた心は、長い時間をかけて輪ゴムみたいに間延びして、空中でプチッと切れた。
 今なら言えなかった言葉を言えそうな気がした。

 言いたい言葉はずっと分かっている。
 けど、それと同時に、その言葉を言うのがどれほど困難で、「さよなら」と告げてこの場を立ち去ってしまえばどんなに楽かということも痛いほど感じていた。

 ゆっくり、ゆっくりと夜が終わっていく。
 私たちはただ何もせず、明日が来るのを待っている。
 どう言えばあなたをこの夜に引き止められるだろう?

 空が赤らむ。月は白んで消えかかっている。
 もう、二人の続きは夜の夢の中にしかないのだ。

 夜が終わる。
 私たちは明日を迎える。お互いがいない明日を。

 私は立ち上がって、しばらく前から音の流れ始めたテレビを消した。
 あなたは声一つ出さなかったが、寝息を立ててもいなかった。
 朝日が部屋に差し込んでくる。月はもう見えない。
 私は部屋の合鍵をテーブルの上に置いて、荷物を持って部屋を出た。


  ♢♢♢
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