失恋、そしてわたしは……

チタン

文字の大きさ
1 / 1

失恋、そしてわたしは……

しおりを挟む
 「別れてほしい」と あなたは言った。
理由は教えてくれなかった。ただ「ごめん」というあなたの電話口の声だけが耳に残った。

それ以来、あなたは連絡を返してくれない。
それで全部終わらせるつもりなの?
私は今でもあなたのことが……。

だから、わたしはあなたに会うために車に乗った。
昨日聞けなかった理由を聞くために。

 エンジンをかける。
 そのとき車のキーのキーホルダーが揺れた。そういえば、これもあなたがくれたモノだった。
 この車の中だって、あなたの残した気配を感じて泣きたくなる。

 あなたの声が好きだった。
その声で「愛してる」って何度も言ってくれたのに。
昨日聞いた「さよなら」は聞いたことのない声だった、同じあなたの声なのに。

 赤信号で車を止めた。
 あなたの家へ行くときの信号待ちはいつも長く感じたのに、今日はすごく短く感じる。

 この信号を越えたら遠くにいる海が見えてくる。

 もしも、わたしが行き先を変えて、あの海へ向かったら。
 遠くに見えるあの海に身を委ねたら、そうしたらあなたはこの先ずっと、わたしのことを覚えていてくれるだろうか?

 何かの間違いだったら。
 すべてあなたの冗談で、今にもケータイが鳴ってあなたが「ごめん」と明るい声で言ってくれたら。
 けど、あなたがそんな冗談を言わない人だとわたしは痛いほど知っている。
 そしてあなたの別れの言葉が二度と取り消せないことも。


 信号が青に変わった。

 わたしはあなたのことが好きでした。

 愛した人へ別れを告げに、もう一度アクセルを踏み込んだ--。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

処理中です...