舞い上がった雪に

チタン

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舞い上がった雪に

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 寒空の下を一人で歩く。特に用事はない。

 周りには誰も歩いていない。天気が良くないせいだろうか。

 薄暗い街には今にも雪が降りそうだった。

 そういえば、いつだっただろう。
 しんしんと雪が降る日に、こんな寒空の下を君と二人で歩いたっけ。

 道の傍の駐車場に自販機がぽつりと光っている。

 そうだ、あのとき君はこの自販機で温かい飲み物を買った。
 それから小さなビルの軒先に入って、二人で並んで雪の降る街の景色を眺めた。

 あのときもちょうど今みたいに周りには誰もいなくて、静かな街の中に僕ら二人だけみたいで……。
 君と僕は二人だけで言葉を交わし合った。
 あのときは本当だった言葉を。

 今でも目を瞑れば君の声が聞こえてくる。

 そうして君を近くに感じて、君の残像に手を伸ばしても、君の手は僕をすり抜けていくんだ。
 強く抱き寄せて、離したくないのに……。


 君と僕が終わった日、君は泣いていた。
 あの時言えなかったけど、君のことがまだ好きなんだ。

 だから僕は、何度も君との記憶を繰り返す。
 この街には君の残像ばかり残っている。

 例えばあの雪の日、君は何を感じていたんだろう。
 例えば今日、君はどこで何を感じているんだろう。

 僕は一人で君の名前を呟いた。
 あの日と同じ冬の風に君の名前が掻き消される。その風が舞い落ちる雪を連れ去っていく。

 巻き上がった雪が、僕の視界を覆った。
 僕は雪でぼやけた視界に、また君の残像を映し出した。

 今は雪なんて降っていないのにーー。


 また君の残像を巻き戻す。
 今度こそ強く抱き寄せる、もう離さないように。

 けど、君は僕の腕をすり抜けていく。
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