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姉妹誘惑のお宿編
あの子、もう帰らないわよ④
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ざあ、と砂利の音を立てながらバイクは停まる。
ここが目的地だとナビは示しているものの、肝心の建物がどこだか分からない。辺りには似たような宿泊施設が幾つもあり、きょろりと辺りを見回した。
「そういえば聞いたのは住所だけだったか」
「どうすんだよ、兄貴。なんで建物名を聞かなかった?」
メットを放り捨てながら、血走った目を弟は向けてくる。
しかし心配はいらないようだ。目の前の駐車場に、どこかで見たことのある車があった。黄色いバナナみたいな色をした趣味の悪いスポーツカーが。
「見ろ、克樹のブーメランパンツだ」
ビッと指をさしたが、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をされた。
「……は? い、いや、車だけ見つけたって意味が無いだろう?」
「どうかな。居場所は近いようだし、こいつに呼んでもらおうぜ」
爽やかに笑いかけてやりたかったが、どうしても殺気走った笑みになる。いまは一秒だって惜しい。手近にあった石を掴むと、にやぁと俺は鬼みたいな顔で笑った。
◆
薄暗くてよく見えないが、恐らくこの部屋に4人ほどの男がいる。
まだまともに身体を動かせられない茜は、ベッドでの端っこまで身を遠ざけており、いつになく不安げな表情を見せている。
その瞳の先には大きな液晶テレビがあった。
ぼそぼそと交わされる男たちの会話は、さらに彼女の不安を煽る。
そんななか、静かな夜が突如として乱された。
――ピィ! ピィ! ピィ! ピィ!
真っ暗な窓の向こうからそんな騒音が聞こえてくる。なんだなんだと男たちが窓を開けてみると、さらに騒音が高まった。
「うるさいな、なにかあったのか?」
「そ、そ、相馬さん、あれ!」
窓から顔を覗かせると……そこには黄色い車を石でガツガツと破壊していく男たちがいた。
そのうちの一人は窓の明かりに気がついたのか、くるりと振り返りながら鬼のような形相で笑う。
手から離れた石が、ゴスッとフロントガラスに刺さった。
「あの家だ。やるぞ、克樹」
「だな。早くぶっ殺そう」
すとんと表情を失った克樹の顔があった。
この表情のとき、弟はかなりキレている。逆に俺はというと悪役のように険しくしており、口だけが笑っているのだから兄弟でも差があるらしい。
ざりざりと砂利道を歩いてゆくと、玄関から数名の連中が飛び出てきた。
口々にわめいており、車を破壊したことに腹を立てているようだが、はっきり言ってそんなのどうでもいい。茜ちゃんのこと以外、俺たち兄弟にとって果てしなくどうでもいい。
一番最初にやってきたのは、よく日焼けをした高身長の奴だった。
「なにやってんだお前らーー!」
ひょいと克樹が無造作に脚を持ち上げると、男は咄嗟に脇腹をかばう。しかし瞬間的に宙で軌道を変えると、現役サッカー部の強靭な足が側頭部に減り込んだ。
おー、ブラジリアンキックだ。あれなー、千夏ちゃんも使えるんだよなー。
――ぐしゃっ!
まったく同時に反対側を殴りつけると、そんなひどい衝撃の音が夜空に響く。面白いくらい脱力したそいつは、膝から崩れてそのまま地面に転がった。
「寝てろ。ボケ、死ね」
他の連中は二の足を踏んでいるようだが俺たちは違うぞ。気にせずのしのし歩いて、次の近いやつに目を向けるぜ。
「ちょっ、ちょっと待って! 待ってくれ!」
あ、相馬だ。やったあ、こいつを一番ぶん殴りたかったんだー。
その「待ってくれ」という姿勢のまま、どぼんと克樹の足がみぞに食い込んで、前かがみになったところを思い切り……。
「お、お兄さんっ! ストップ! 駄目ですっ!」
「あれ、茜ちゃん?」
ぱかーんと気持ちいいくらい相馬の顎を跳ね上げたところで、今度は俺たち兄弟がびっくりした。
そこには出かけたときとまったく変わらない恰好の彼女がおり、ぶっ倒れた相馬を前に「ああ、見ていられない」と言うように両手で顔を覆っていたのだ。
「どうしよう……っ!」
そのまま地面にうずくまってしまう様子に、俺たちは目をパチパチさせた。
なにこの空気。
◆
ハ――――、と幾重もの重苦しい溜息が広間に響く。
俺たち以外で集まった面子は、鵜鷺さん、相馬、あとなんだかよく分からない連中数名だ。うち一人は先ほど病院に搬送されている。いわゆる病院送りというやつで、そんな事態もまた広間の空気を重いものに変えていた。
一番最初に口を開いたのは、テーブルでうなだれていた鵜鷺さんだった。
「まさかこんなことになるなんて……」
青白い顔をしており、誰とも目を合わせようとしない。ほつれた髪が頬にはりついていて、先ほど話していたときとまるで異なる弱々しい雰囲気をしていた。
その瞳が正面に座った俺に向けられる。
「こうなったら徹さんにもはっきり言うわね。茜と別れさせるように、彼女のお父さんから頼まれたのよ。浮気をするような奴だと証拠を撮るように、とね」
そのためにモデルの仕事をさせて俺から引き離す予定だったらしいけど、即きっぱりと断っちゃったもんね。
「私は色仕掛け担当。この子らは大学の後輩で、機材の調達と編集係ね」
へーい、となんだかよく分からない連中が返事をする。
「まだ腑に落ちないんですが、なんでそんなことを?」
ハ――、と再びため息を漏らされた。
あきれ果てたその表情は「あんたのせいよ」と物語っており、決して口には出せないあれやこれやを思い出す。
バン、とテーブルを思い切り叩かれた。
「あんなことになると思わないし、彼に見せられっこないでしょう!?」
「兄貴、なにをしたの?」
ずーん、と俺の顔も暗くなる。
色仕掛けに乗って、ちょっとイチャついたら終わりにする……という予定が、エッチ直前まで発展させてしまったんだよね。しかも前後不覚になるくらいのズブズブなやつ。
重苦しい雰囲気のなか、そっと手を上げたのは相馬だった。
「あの、僕の車の件は?」
「それで、茜ちゃんのお父さんはどうしてそこまで交際に反対するんです?」
「身に覚えがあるでしょう? 帰宅時間が遅くなって、ほとんど家に帰らないようになったらどんな親だって不審がるわ」
ああ、なるほど、と俺と克樹は呻いた。
いままで放任主義なのかなと思っていたけど、実際は違ったんだ。何泊もしていたんだし年頃の娘さんをもつと気が気じゃないんだろうな。
聞けばこのホテルを建設するにあたり、お父さんから投資を受けていたらしい。となると浮気と破談をセットにして旅行から送り返す……というつもりがドッキリ企画は大失敗だ。
放送不可レベルどころかモザイク必須のものが撮れてしまい、きっとこのままお蔵入りになるだろう。鵜鷺さんの保身のためにも。
眉間に皺を刻んだまま、しばらく頬杖をついていた彼女は諦めたように唇を開く。
「まあいいわ。私から無理だったと伝えておくから。それよりもあなた達」
俺と茜ちゃんに視線を向けられて、思わず互いにピッと背筋を伸ばす。
「年の差のある恋愛には障害がつきものだと分かったわね。じゃあ、これからどうすべきかも理解した?」
そろりと茜ちゃんの瞳と視線を交わし合う。
まだ重苦しい雰囲気を残す部屋で、手を上げてきたのは弟の克樹だった。
「あの、俺も彼氏候補なんですけど?」
「お兄さん、きちんと父と話してくれませんか?」
「うん、もちろん。きっと嫌な顔をされるだろうけど、なるべく安心してもらえるように頑張ってみる」
なにしろ交際を始めたのは今日のことだ。親御さんへの挨拶まで考えはなかなか及ばない。
ふっと彼女は笑ってくれて、テーブルの下で手を握ってくれた。たったそれだけで嬉しくなって、俺もつい笑みを返してしまう。
よろしい、と鵜鷺さんはにっこりと笑みを浮かべた。出来のよい生徒を眺める表情とよく似ているし、こんな顔で笑える人なんだなとも思う。
その魔女を思わせる瞳がこちらに向けられた。
「大した援護にはならないだろうけど、最初に言った通り、あなたのことを私から良く伝えておくわ。人は見かけによらないという助言も含めて。今度はお父さんをたじろがせてみせなさい」
艶のある唇に笑みを浮かべながら、テーブルの下で脚を蹴られた。そのまま太ももの内側をスリスリされたけど、くすぐったくてかないません。
いや、あの、ほんとそこから先はシャレになりませんので……と、俺は椅子をギコリと引く。
「じゃあ、とりあえず今日のところは帰ります。千夏ちゃんもお腹をすかせて待ってますから」
「帰らなくていいわ。最初に私が案内した部屋へ、これから皆で向かいなさい。遅くなったけどディナーもゆっくり楽しんで」
ぱちくりと俺と茜ちゃんは目を見開いた。
◆
カッと照り付ける太陽と、ざざんと波立つ真っ青な海。
窓の外には真夏の海が一面に広がっており、そのオーシャンビューはまるで旅行雑誌の広告を眺めているようだ。
せちがらいこの日本でそんな絶景を確保できるのは、一握りのお金持ちくらいなものだろう。無論、俺のような庶民にとっては「夢っすね」とヘラリと笑えるくらい現実感に乏しい。
ピラミッドの頂点に立てる者と、石材をゴロゴロと運ぶ者は、生まれた時から明確に区別されているのだ。
「こんな場所に俺が立っていいのか?」
むしろ息を吸って吐いていいのかも分からない。
ぴかぴかのフローリングを庶民の足が汚してしまいそうで、さっきから一歩も進めないんだよね。だって窓の外には個人用のプールがあるし、場違い感がすごいんだ。いますぐ家に帰りたくなるほどに。
とたとたと足音が聞こえてきて、振り返るとそこには水着を着る千夏ちゃんがいた。露わにさせた太ももと肩をまぶしいと感じたし、こっちに手を伸ばしてジャンプする姿はそれ以上に輝かしい。
きゃーい、と抱きついて宙を泳ぎながら千夏ちゃんは笑った。
「海、行こっ!」
「いや、結構です。もう精神的に疲れちゃったし、あんなことになっていたたまれない……」
トッと床に降り立って「つまんない奴」と言いたそうに唇を「へ」の字に変える。左右に結わいた髪も可愛らしいし、ひらりと舞うワンピース風の水着もすごく似合っているんだけどね。
叔母さんをアンアンさせていたところを撮られちゃったしさ、それを別室で茜ちゃんたちが凍りつきながら鑑賞していたらしい。死ぬでしょ、そんなの。俺の心がさ、暗黒面にグイッと傾いちゃうよ。
だから元気が出なくて当たり前。
うずくまる俺、そして輝かしい海を交互に眺めたあと、千夏ちゃんはこしょりと耳打ちをしてきた。
「じゃあ、フラれたらボクが慰めてあげよっか」
先ほどとは異なる種類の笑みを見せる。天真爛漫なものではなくて、もう少し小悪魔風というか艶のある唇を強調する笑みだった。
瞳はほのかに欲望を感じさせ、それが中学生であるはずの子を数段階ほど魅力的にする。ちらりと覗く桜色の舌には、年相応と思えない色気があった。
しかしそんな態度にはカウンターを与えなければ。大人として。
「千夏ちゃん、今回の件のこと知ってたでしょ?」
ぎょっくんと両肩が跳ね上がる。本物の小悪魔だったら翼と尻尾も一緒に跳ねていたと思う。
でも確信したよ。千夏ちゃんも今回の計画に加わっていたってことを。
怪しいと思ったんだ。脱出したあとすぐ連絡したのに警察を呼ばなかったし、俺たちより先にこの豪華エグゼクティブルームに移っているんだもん。
「なによりも、仮に茜ちゃんにモデルの仕事をさせて引き離せたとしても、もう一人が俺の隣にいたんだ。千夏ちゃんがいたら色仕掛けなんてできないのに、鵜鷺さんはそのことをまったく考慮していない。なら明白だよね?」
状況証拠を幾つも並べられて、千夏ちゃんは焦りを通り越して「むん」と発育途上の胸を反らす。
「それは徹に隙があるせいでしょ? じゃなかったらお父さんは心配しなかったし、ボクだってちゃんと諦めてた。普通は告白してから交際するものだっていう常識をちゃんと分かってる?」
うぐっ、と呻いて胸を押さえた。
思い当たるところがありすぎて、昨夜の騒動など比較にならないほど暗黒面に沈みかねない。
弟の彼女だと分かった上で、俺は……俺は……!
そう両手で頭を抱える俺に「ンもー、相変わらず人でなしのくせにお人好しなんだから」と言いながら、わすわすと髪を撫でてくる。
目を開けると目の前におへそがあって、見上げると胸のふくらみの向こうに千夏ちゃんの不機嫌そうな顔があった。
その顔がゆっくり近づいてくると、やわらかそうな唇が開かれてゆく。
「あともうひとつ。徹は分かってるのかなぁ。ボクが本気を出したらどうなるかってことを。しばらく一緒に過ごして、だんだん徹のことを分かってきたし」
どういう意味だと尋ねる前に、かぷんと耳を食まれた。驚いているあいだに指同士を絡められており、また目の前にわずかな谷間があって身動きできない。
ふわんと女の子の甘い香りが漂うと、天童寺の血というべきか、あっという間に身じろぎもできないことに驚かされる。
「ほら、ね? 気をつけないとボクから抜け出れなくなっちゃう。お胸とお尻、触りたいって思うでしょ?」
うっ、と呻く俺に満足したのか、するりと彼女は身を離した。魔性の血は相変わらず健在で、日に日に魅力を高めているのをはっきりと感じる。
なるほどね、この調子で成長をして、あの魔性の塊である茜ちゃんが出来上がったわけだ。
胸いっぱいに溜まった熱を吐き出すべく、俺は大きく息をつく。その表情に反撃は十分だと思ったのか、千夏ちゃんは一歩距離を置いてから小首を傾げてきた。
「……で、海に行く? それともここでボーッとしてる?」
「んー、どうしようかな」
「日焼け止めクリームを塗るとか、そういう恋愛イベントみたいなことができるよ?」
あっ、えっ、嘘っ!?
あれってフィクションに限った話じゃないの? だってあんな、寝そべる子の背中に塗ってあげるみたいなことって現実に発生するイベントなんスか!? ウソデショ!?
「行く」
いさぎよい返答だったせいか、ぶはっと腹をかかえて笑われた。
「あーっははは! チョッロ! 徹ってすごっく単純でウケる!」
え、なんなの? なんで俺が中学生の子からチョロい認定されてんの? エグゼクティブルームにいるのに爆笑されてるし、だんだんいたたまれなくなるんだけど?
と、ガチャーっと戸を開けたのは弟の克樹だった。
「着替えたぜー! 海行こう、行こうぜ皆!」
「ぎゃああっ、なんでまた黄色いブーメランパンツなのっ! キッモ! 徹、ちゃんとマナー違反だって注意しといてっ!」
戸を開ける姿勢で、かつ笑顔のまま克樹は凍りついた。中学生の子から暗黒面に叩き落とされる二人目となったわけだ。
きゃいきゃいとはしゃぎながら克樹と千夏ちゃんが部屋を飛び出していく。特大サイズの鯱と浮輪を持ちながら。
なんだかんだあいつら仲がいいなーと思いつつ、静まり返った部屋をゆっくりと見回していく。
そして一室に近づいたとき、かちゃんと内側から開かれる。そこには普段着のままの茜ちゃんがいて、大きな瞳で俺を見つめていた。
かすかに吐かれるため息は、きっと皆が出かけたと思っていたのだろう。一人きりでこの場所で過ごそうと考えていたのに、まだ俺が残っていた。
そういう意味のため息だったと思う。
「茜ちゃ……」
すっと伸ばされた指が、俺の口をふさいだ。叔母さんとキスをしてしまったこの口を。弁解の言葉を伝えることは許されなかった。
「言いたいことはたくさんあるけど、伝えることじゃないと私は思ったわ。だからお兄さんも言わないで」
許している口調だけど、瞳だけは違っていた。
その冷たい瞳には見覚えがあって、昨夜、浮気を疑われたときと同じ温度だと思う。
あのとき、俺は何もできなかった。
ただ彼女を失うことだけが怖くって、ひとことも言えなかった。不安と恐れが胸中で渦巻いて、一歩も進めなくなった。
だからというわけじゃない。
あれがあって初めて俺は一歩を踏みこめるんだと思う。押しとどめる彼女の気配を感じても、こうすべきだと感じて私室に踏みこめる。
「あ……」
かすかな声を聞きながら、ぎゅっと彼女を抱きしめた。昨夜もこうすれば良かった。そうしたらいつも感じていた体温と一緒に愛おしさが流れ込む。
すごくすごく大事な人なんだ。
いつも笑っていて欲しいし、気軽に甘えて欲しい。たくさんわがままを言って俺を困らせて欲しい。参ったなと言いながらボリボリ頭を掻くのを、実は俺も楽しんでいる。
「なによりも、茜ちゃんの声をずっと聞いていたい」
最後は心の声がそのまま口から出てしまい、あえなく失敗してしまった。まだ宙にあった彼女の手は力を失ってゆき、だらんと床に向けられる。
「そ、そう……」
戸惑うような困ったような恥じらうような声を響かせて、たぶん瞳をぱちりと瞬きさせていたのだと思う。
思案する気配が伝わるし、たぶん無意識なのだろう。シャツをきゅっと握ってくれる。
「いいわ、別に声を聞かせるくらい」
すねた声がなぜか可愛らしいと思う。いつも大人ぶっているけれど年相応だと感じるし、部屋に閉じこもっていたのは単純にいじけていたのだとも分かる。もちろん全面的に悪いのはこの俺だろう。
しかし先ほど茜ちゃんが言った通り、謝ったりしないでお話をしたいかな。
「茜ちゃんは海が嫌いなのかな?」
「そんなことはないわ。ただヒリヒリして赤くなってしまうだけ。たぶん肌が弱いのね」
「そっか、ならゆっくり部屋で過ごすのもありかもしれない。珈琲とか飲む?」
「いいわ、そうしましょう。せっかく眺めのいい部屋だし、ゆっくりしないともったいないわ」
そう答えながらも彼女の手が背中に回される。肩にあごを乗せてきて、落ち着いた心音を感じながら、彼女のすごく綺麗な声が耳に響く。
なぜかそれだけで幸せに感じたし、茜ちゃんの声もだんだんと機嫌の良いものに変わっていく。
さらさらの黒髪を撫でると、もう少しだけ彼女の機嫌が良くなるのを感じた。
ドタバタした旅行になったけど、こんなにも距離が近くなったことに驚かされる。ぴったりとくっついているだけで幸せを感じるくらいに。
珈琲を淹れることもそうだ。
まだ立ち寄っていないお土産屋さんもそう。
楽しみで勝手に胸がわくわくする。
手を繋いだまま一緒に部屋を出ると、ぱっと視界に水平線が広がった。
それはそれは絵の具で塗ったように鮮やかな青色だった。
わあ、という茜ちゃんの声が響く。
―― 姉妹誘惑のお宿編 END ――
ここが目的地だとナビは示しているものの、肝心の建物がどこだか分からない。辺りには似たような宿泊施設が幾つもあり、きょろりと辺りを見回した。
「そういえば聞いたのは住所だけだったか」
「どうすんだよ、兄貴。なんで建物名を聞かなかった?」
メットを放り捨てながら、血走った目を弟は向けてくる。
しかし心配はいらないようだ。目の前の駐車場に、どこかで見たことのある車があった。黄色いバナナみたいな色をした趣味の悪いスポーツカーが。
「見ろ、克樹のブーメランパンツだ」
ビッと指をさしたが、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をされた。
「……は? い、いや、車だけ見つけたって意味が無いだろう?」
「どうかな。居場所は近いようだし、こいつに呼んでもらおうぜ」
爽やかに笑いかけてやりたかったが、どうしても殺気走った笑みになる。いまは一秒だって惜しい。手近にあった石を掴むと、にやぁと俺は鬼みたいな顔で笑った。
◆
薄暗くてよく見えないが、恐らくこの部屋に4人ほどの男がいる。
まだまともに身体を動かせられない茜は、ベッドでの端っこまで身を遠ざけており、いつになく不安げな表情を見せている。
その瞳の先には大きな液晶テレビがあった。
ぼそぼそと交わされる男たちの会話は、さらに彼女の不安を煽る。
そんななか、静かな夜が突如として乱された。
――ピィ! ピィ! ピィ! ピィ!
真っ暗な窓の向こうからそんな騒音が聞こえてくる。なんだなんだと男たちが窓を開けてみると、さらに騒音が高まった。
「うるさいな、なにかあったのか?」
「そ、そ、相馬さん、あれ!」
窓から顔を覗かせると……そこには黄色い車を石でガツガツと破壊していく男たちがいた。
そのうちの一人は窓の明かりに気がついたのか、くるりと振り返りながら鬼のような形相で笑う。
手から離れた石が、ゴスッとフロントガラスに刺さった。
「あの家だ。やるぞ、克樹」
「だな。早くぶっ殺そう」
すとんと表情を失った克樹の顔があった。
この表情のとき、弟はかなりキレている。逆に俺はというと悪役のように険しくしており、口だけが笑っているのだから兄弟でも差があるらしい。
ざりざりと砂利道を歩いてゆくと、玄関から数名の連中が飛び出てきた。
口々にわめいており、車を破壊したことに腹を立てているようだが、はっきり言ってそんなのどうでもいい。茜ちゃんのこと以外、俺たち兄弟にとって果てしなくどうでもいい。
一番最初にやってきたのは、よく日焼けをした高身長の奴だった。
「なにやってんだお前らーー!」
ひょいと克樹が無造作に脚を持ち上げると、男は咄嗟に脇腹をかばう。しかし瞬間的に宙で軌道を変えると、現役サッカー部の強靭な足が側頭部に減り込んだ。
おー、ブラジリアンキックだ。あれなー、千夏ちゃんも使えるんだよなー。
――ぐしゃっ!
まったく同時に反対側を殴りつけると、そんなひどい衝撃の音が夜空に響く。面白いくらい脱力したそいつは、膝から崩れてそのまま地面に転がった。
「寝てろ。ボケ、死ね」
他の連中は二の足を踏んでいるようだが俺たちは違うぞ。気にせずのしのし歩いて、次の近いやつに目を向けるぜ。
「ちょっ、ちょっと待って! 待ってくれ!」
あ、相馬だ。やったあ、こいつを一番ぶん殴りたかったんだー。
その「待ってくれ」という姿勢のまま、どぼんと克樹の足がみぞに食い込んで、前かがみになったところを思い切り……。
「お、お兄さんっ! ストップ! 駄目ですっ!」
「あれ、茜ちゃん?」
ぱかーんと気持ちいいくらい相馬の顎を跳ね上げたところで、今度は俺たち兄弟がびっくりした。
そこには出かけたときとまったく変わらない恰好の彼女がおり、ぶっ倒れた相馬を前に「ああ、見ていられない」と言うように両手で顔を覆っていたのだ。
「どうしよう……っ!」
そのまま地面にうずくまってしまう様子に、俺たちは目をパチパチさせた。
なにこの空気。
◆
ハ――――、と幾重もの重苦しい溜息が広間に響く。
俺たち以外で集まった面子は、鵜鷺さん、相馬、あとなんだかよく分からない連中数名だ。うち一人は先ほど病院に搬送されている。いわゆる病院送りというやつで、そんな事態もまた広間の空気を重いものに変えていた。
一番最初に口を開いたのは、テーブルでうなだれていた鵜鷺さんだった。
「まさかこんなことになるなんて……」
青白い顔をしており、誰とも目を合わせようとしない。ほつれた髪が頬にはりついていて、先ほど話していたときとまるで異なる弱々しい雰囲気をしていた。
その瞳が正面に座った俺に向けられる。
「こうなったら徹さんにもはっきり言うわね。茜と別れさせるように、彼女のお父さんから頼まれたのよ。浮気をするような奴だと証拠を撮るように、とね」
そのためにモデルの仕事をさせて俺から引き離す予定だったらしいけど、即きっぱりと断っちゃったもんね。
「私は色仕掛け担当。この子らは大学の後輩で、機材の調達と編集係ね」
へーい、となんだかよく分からない連中が返事をする。
「まだ腑に落ちないんですが、なんでそんなことを?」
ハ――、と再びため息を漏らされた。
あきれ果てたその表情は「あんたのせいよ」と物語っており、決して口には出せないあれやこれやを思い出す。
バン、とテーブルを思い切り叩かれた。
「あんなことになると思わないし、彼に見せられっこないでしょう!?」
「兄貴、なにをしたの?」
ずーん、と俺の顔も暗くなる。
色仕掛けに乗って、ちょっとイチャついたら終わりにする……という予定が、エッチ直前まで発展させてしまったんだよね。しかも前後不覚になるくらいのズブズブなやつ。
重苦しい雰囲気のなか、そっと手を上げたのは相馬だった。
「あの、僕の車の件は?」
「それで、茜ちゃんのお父さんはどうしてそこまで交際に反対するんです?」
「身に覚えがあるでしょう? 帰宅時間が遅くなって、ほとんど家に帰らないようになったらどんな親だって不審がるわ」
ああ、なるほど、と俺と克樹は呻いた。
いままで放任主義なのかなと思っていたけど、実際は違ったんだ。何泊もしていたんだし年頃の娘さんをもつと気が気じゃないんだろうな。
聞けばこのホテルを建設するにあたり、お父さんから投資を受けていたらしい。となると浮気と破談をセットにして旅行から送り返す……というつもりがドッキリ企画は大失敗だ。
放送不可レベルどころかモザイク必須のものが撮れてしまい、きっとこのままお蔵入りになるだろう。鵜鷺さんの保身のためにも。
眉間に皺を刻んだまま、しばらく頬杖をついていた彼女は諦めたように唇を開く。
「まあいいわ。私から無理だったと伝えておくから。それよりもあなた達」
俺と茜ちゃんに視線を向けられて、思わず互いにピッと背筋を伸ばす。
「年の差のある恋愛には障害がつきものだと分かったわね。じゃあ、これからどうすべきかも理解した?」
そろりと茜ちゃんの瞳と視線を交わし合う。
まだ重苦しい雰囲気を残す部屋で、手を上げてきたのは弟の克樹だった。
「あの、俺も彼氏候補なんですけど?」
「お兄さん、きちんと父と話してくれませんか?」
「うん、もちろん。きっと嫌な顔をされるだろうけど、なるべく安心してもらえるように頑張ってみる」
なにしろ交際を始めたのは今日のことだ。親御さんへの挨拶まで考えはなかなか及ばない。
ふっと彼女は笑ってくれて、テーブルの下で手を握ってくれた。たったそれだけで嬉しくなって、俺もつい笑みを返してしまう。
よろしい、と鵜鷺さんはにっこりと笑みを浮かべた。出来のよい生徒を眺める表情とよく似ているし、こんな顔で笑える人なんだなとも思う。
その魔女を思わせる瞳がこちらに向けられた。
「大した援護にはならないだろうけど、最初に言った通り、あなたのことを私から良く伝えておくわ。人は見かけによらないという助言も含めて。今度はお父さんをたじろがせてみせなさい」
艶のある唇に笑みを浮かべながら、テーブルの下で脚を蹴られた。そのまま太ももの内側をスリスリされたけど、くすぐったくてかないません。
いや、あの、ほんとそこから先はシャレになりませんので……と、俺は椅子をギコリと引く。
「じゃあ、とりあえず今日のところは帰ります。千夏ちゃんもお腹をすかせて待ってますから」
「帰らなくていいわ。最初に私が案内した部屋へ、これから皆で向かいなさい。遅くなったけどディナーもゆっくり楽しんで」
ぱちくりと俺と茜ちゃんは目を見開いた。
◆
カッと照り付ける太陽と、ざざんと波立つ真っ青な海。
窓の外には真夏の海が一面に広がっており、そのオーシャンビューはまるで旅行雑誌の広告を眺めているようだ。
せちがらいこの日本でそんな絶景を確保できるのは、一握りのお金持ちくらいなものだろう。無論、俺のような庶民にとっては「夢っすね」とヘラリと笑えるくらい現実感に乏しい。
ピラミッドの頂点に立てる者と、石材をゴロゴロと運ぶ者は、生まれた時から明確に区別されているのだ。
「こんな場所に俺が立っていいのか?」
むしろ息を吸って吐いていいのかも分からない。
ぴかぴかのフローリングを庶民の足が汚してしまいそうで、さっきから一歩も進めないんだよね。だって窓の外には個人用のプールがあるし、場違い感がすごいんだ。いますぐ家に帰りたくなるほどに。
とたとたと足音が聞こえてきて、振り返るとそこには水着を着る千夏ちゃんがいた。露わにさせた太ももと肩をまぶしいと感じたし、こっちに手を伸ばしてジャンプする姿はそれ以上に輝かしい。
きゃーい、と抱きついて宙を泳ぎながら千夏ちゃんは笑った。
「海、行こっ!」
「いや、結構です。もう精神的に疲れちゃったし、あんなことになっていたたまれない……」
トッと床に降り立って「つまんない奴」と言いたそうに唇を「へ」の字に変える。左右に結わいた髪も可愛らしいし、ひらりと舞うワンピース風の水着もすごく似合っているんだけどね。
叔母さんをアンアンさせていたところを撮られちゃったしさ、それを別室で茜ちゃんたちが凍りつきながら鑑賞していたらしい。死ぬでしょ、そんなの。俺の心がさ、暗黒面にグイッと傾いちゃうよ。
だから元気が出なくて当たり前。
うずくまる俺、そして輝かしい海を交互に眺めたあと、千夏ちゃんはこしょりと耳打ちをしてきた。
「じゃあ、フラれたらボクが慰めてあげよっか」
先ほどとは異なる種類の笑みを見せる。天真爛漫なものではなくて、もう少し小悪魔風というか艶のある唇を強調する笑みだった。
瞳はほのかに欲望を感じさせ、それが中学生であるはずの子を数段階ほど魅力的にする。ちらりと覗く桜色の舌には、年相応と思えない色気があった。
しかしそんな態度にはカウンターを与えなければ。大人として。
「千夏ちゃん、今回の件のこと知ってたでしょ?」
ぎょっくんと両肩が跳ね上がる。本物の小悪魔だったら翼と尻尾も一緒に跳ねていたと思う。
でも確信したよ。千夏ちゃんも今回の計画に加わっていたってことを。
怪しいと思ったんだ。脱出したあとすぐ連絡したのに警察を呼ばなかったし、俺たちより先にこの豪華エグゼクティブルームに移っているんだもん。
「なによりも、仮に茜ちゃんにモデルの仕事をさせて引き離せたとしても、もう一人が俺の隣にいたんだ。千夏ちゃんがいたら色仕掛けなんてできないのに、鵜鷺さんはそのことをまったく考慮していない。なら明白だよね?」
状況証拠を幾つも並べられて、千夏ちゃんは焦りを通り越して「むん」と発育途上の胸を反らす。
「それは徹に隙があるせいでしょ? じゃなかったらお父さんは心配しなかったし、ボクだってちゃんと諦めてた。普通は告白してから交際するものだっていう常識をちゃんと分かってる?」
うぐっ、と呻いて胸を押さえた。
思い当たるところがありすぎて、昨夜の騒動など比較にならないほど暗黒面に沈みかねない。
弟の彼女だと分かった上で、俺は……俺は……!
そう両手で頭を抱える俺に「ンもー、相変わらず人でなしのくせにお人好しなんだから」と言いながら、わすわすと髪を撫でてくる。
目を開けると目の前におへそがあって、見上げると胸のふくらみの向こうに千夏ちゃんの不機嫌そうな顔があった。
その顔がゆっくり近づいてくると、やわらかそうな唇が開かれてゆく。
「あともうひとつ。徹は分かってるのかなぁ。ボクが本気を出したらどうなるかってことを。しばらく一緒に過ごして、だんだん徹のことを分かってきたし」
どういう意味だと尋ねる前に、かぷんと耳を食まれた。驚いているあいだに指同士を絡められており、また目の前にわずかな谷間があって身動きできない。
ふわんと女の子の甘い香りが漂うと、天童寺の血というべきか、あっという間に身じろぎもできないことに驚かされる。
「ほら、ね? 気をつけないとボクから抜け出れなくなっちゃう。お胸とお尻、触りたいって思うでしょ?」
うっ、と呻く俺に満足したのか、するりと彼女は身を離した。魔性の血は相変わらず健在で、日に日に魅力を高めているのをはっきりと感じる。
なるほどね、この調子で成長をして、あの魔性の塊である茜ちゃんが出来上がったわけだ。
胸いっぱいに溜まった熱を吐き出すべく、俺は大きく息をつく。その表情に反撃は十分だと思ったのか、千夏ちゃんは一歩距離を置いてから小首を傾げてきた。
「……で、海に行く? それともここでボーッとしてる?」
「んー、どうしようかな」
「日焼け止めクリームを塗るとか、そういう恋愛イベントみたいなことができるよ?」
あっ、えっ、嘘っ!?
あれってフィクションに限った話じゃないの? だってあんな、寝そべる子の背中に塗ってあげるみたいなことって現実に発生するイベントなんスか!? ウソデショ!?
「行く」
いさぎよい返答だったせいか、ぶはっと腹をかかえて笑われた。
「あーっははは! チョッロ! 徹ってすごっく単純でウケる!」
え、なんなの? なんで俺が中学生の子からチョロい認定されてんの? エグゼクティブルームにいるのに爆笑されてるし、だんだんいたたまれなくなるんだけど?
と、ガチャーっと戸を開けたのは弟の克樹だった。
「着替えたぜー! 海行こう、行こうぜ皆!」
「ぎゃああっ、なんでまた黄色いブーメランパンツなのっ! キッモ! 徹、ちゃんとマナー違反だって注意しといてっ!」
戸を開ける姿勢で、かつ笑顔のまま克樹は凍りついた。中学生の子から暗黒面に叩き落とされる二人目となったわけだ。
きゃいきゃいとはしゃぎながら克樹と千夏ちゃんが部屋を飛び出していく。特大サイズの鯱と浮輪を持ちながら。
なんだかんだあいつら仲がいいなーと思いつつ、静まり返った部屋をゆっくりと見回していく。
そして一室に近づいたとき、かちゃんと内側から開かれる。そこには普段着のままの茜ちゃんがいて、大きな瞳で俺を見つめていた。
かすかに吐かれるため息は、きっと皆が出かけたと思っていたのだろう。一人きりでこの場所で過ごそうと考えていたのに、まだ俺が残っていた。
そういう意味のため息だったと思う。
「茜ちゃ……」
すっと伸ばされた指が、俺の口をふさいだ。叔母さんとキスをしてしまったこの口を。弁解の言葉を伝えることは許されなかった。
「言いたいことはたくさんあるけど、伝えることじゃないと私は思ったわ。だからお兄さんも言わないで」
許している口調だけど、瞳だけは違っていた。
その冷たい瞳には見覚えがあって、昨夜、浮気を疑われたときと同じ温度だと思う。
あのとき、俺は何もできなかった。
ただ彼女を失うことだけが怖くって、ひとことも言えなかった。不安と恐れが胸中で渦巻いて、一歩も進めなくなった。
だからというわけじゃない。
あれがあって初めて俺は一歩を踏みこめるんだと思う。押しとどめる彼女の気配を感じても、こうすべきだと感じて私室に踏みこめる。
「あ……」
かすかな声を聞きながら、ぎゅっと彼女を抱きしめた。昨夜もこうすれば良かった。そうしたらいつも感じていた体温と一緒に愛おしさが流れ込む。
すごくすごく大事な人なんだ。
いつも笑っていて欲しいし、気軽に甘えて欲しい。たくさんわがままを言って俺を困らせて欲しい。参ったなと言いながらボリボリ頭を掻くのを、実は俺も楽しんでいる。
「なによりも、茜ちゃんの声をずっと聞いていたい」
最後は心の声がそのまま口から出てしまい、あえなく失敗してしまった。まだ宙にあった彼女の手は力を失ってゆき、だらんと床に向けられる。
「そ、そう……」
戸惑うような困ったような恥じらうような声を響かせて、たぶん瞳をぱちりと瞬きさせていたのだと思う。
思案する気配が伝わるし、たぶん無意識なのだろう。シャツをきゅっと握ってくれる。
「いいわ、別に声を聞かせるくらい」
すねた声がなぜか可愛らしいと思う。いつも大人ぶっているけれど年相応だと感じるし、部屋に閉じこもっていたのは単純にいじけていたのだとも分かる。もちろん全面的に悪いのはこの俺だろう。
しかし先ほど茜ちゃんが言った通り、謝ったりしないでお話をしたいかな。
「茜ちゃんは海が嫌いなのかな?」
「そんなことはないわ。ただヒリヒリして赤くなってしまうだけ。たぶん肌が弱いのね」
「そっか、ならゆっくり部屋で過ごすのもありかもしれない。珈琲とか飲む?」
「いいわ、そうしましょう。せっかく眺めのいい部屋だし、ゆっくりしないともったいないわ」
そう答えながらも彼女の手が背中に回される。肩にあごを乗せてきて、落ち着いた心音を感じながら、彼女のすごく綺麗な声が耳に響く。
なぜかそれだけで幸せに感じたし、茜ちゃんの声もだんだんと機嫌の良いものに変わっていく。
さらさらの黒髪を撫でると、もう少しだけ彼女の機嫌が良くなるのを感じた。
ドタバタした旅行になったけど、こんなにも距離が近くなったことに驚かされる。ぴったりとくっついているだけで幸せを感じるくらいに。
珈琲を淹れることもそうだ。
まだ立ち寄っていないお土産屋さんもそう。
楽しみで勝手に胸がわくわくする。
手を繋いだまま一緒に部屋を出ると、ぱっと視界に水平線が広がった。
それはそれは絵の具で塗ったように鮮やかな青色だった。
わあ、という茜ちゃんの声が響く。
―― 姉妹誘惑のお宿編 END ――
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