こいつ弟の彼女だから【R18】

まきします

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それぞれの過ごす冬

みんなのヒミツ

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 ふんふんと機嫌良さそうな鼻歌が聞こえてくる。リズミカルな響きに誘われて視線を向けると、長い黒髪の女性が頭を左右に揺らしていた。

 お風呂上がりだと分かる血色の良い肌をしており、また指先を通じて彼女のぬくもりが伝わってくる。
 その子はちらりと振り返り、俺と視線が合うと唇にかすかな笑みを浮かべてくれた。

 間近で見ると目が眩むほど美しい人だ。しかし可愛いさに身もだえることは許されない。彼女が「は、や、く」と唇の動きだけで伝えてきたように、俺は奉仕の真っ最中なんだ。

 ぎゅ、ぎゅ、と肩を揉み、気持ち良かったのか彼女の瞳はとろとろと細められてゆく。
 首の付け根を揉みほぐしてゆくと「くぅー」とたまらなそうな声を出す。指先に伝わるコリは分かりやすく、今度はもう少し下、腕の付け根の内側に触れた。

 乳房の柔らかさをわずかに感じ取れる場所だ。大胸筋の根本であり、ここはとっても気持ちいい。コリやすく、また彼女のように豊かな胸をしていると特に負担が大きいんだ。

 ふかっと指が沈むのに合わせて彼女の唇はわななく。しばらく揉みほぐしているとやはりたまらなそうな顔をした。

「うぁー、うまいー、お兄さんと結婚したいー」

 そう言ったあとに、はっと茜ちゃんは口を手で隠す。
 バツの悪そうな顔でそろりと見つめてきたのは、たぶん気持ち良さのあまり本音がそのまま口から出てきたんだ。だけど可愛らしさを意識しない言葉づかいも俺は嫌いじゃない。というか大好きで困る。

「お母さん、いまお姉ちゃんがすごいこと言ったよ」
「この子ったら。聞こえないフリをしておきなさい」

 かあっと茜ちゃんは赤くなり、うまく反論もできずにうつむいてしまう。お風呂あがりでほこほこなのに、さらに体温を高めてゆくのを指先で感じ取った。

「あーあ、お姉ちゃんばっかりズルいなぁ。ボクも肩もみして欲しいなー」

 うっ、と茜ちゃんは喉を詰まらせる。お父さん専用らしき革張りのソファーを陣取っている彼女は、おほんと咳ばらいをしてからようやく口を開いた。

「いいの。私はうんと勉強したから肩もみしてもらえる権利があるの」
「えぇーー、ボクだって受験勉強してるのに」
「お母さんは千夏の方がずっと心配よ。もう少しちゃんと勉強なさい」
「してるもん、してるもん! 1日1時間はしてるもん!」

 んっ、1時間ってなに? それはゲームのプレイ時間の話だよね? もしかして高校受験を舐めてんの?

 俺と志穂さんはそんな顔を浮かべて、じーっと千夏ちゃんを見つめる。えもいえぬ迫力に押されて千夏ちゃんはビビっていた。
 だめだよ千夏ちゃん。エロ小説の執筆にのめり込むあまり常識が完全に抜け落ちているんじゃないかな。

 まあ、そのように天道寺家のリビングにいるので、俺は絶対に欲望に屈してはいけないんだよね。
 ある意味で助かったというべきか、さっきのテーブルでもそうだったけど茜ちゃんはすごくエッチなんだ。性的なものへの好奇心が強く、恐らくは俺よりもずっと上だと思う。

 しかしこれはこれで役得だ。
 長い黒髪はしっとりしており、また久しぶりに茜ちゃんに触れることを公然と許されている。なら恋焦がれて仕方ない彼女に、たくさん喜んでもらいたいんだ。

 一番上のボタンを外しているのはわざとかなぁ。ただでさえゆさゆさと揺れているのだし、パジャマには大きな負担がかかっている。2つ目のボタンまで半分くらい外れかけており、その真上にはみずみずしい谷間がはっきりと見えている。

 肩から肩甲骨まで揉んでいるから分かるけど、茜ちゃんはノーブラだ。だから普段よりも揺れやすく、長いことエッチ断ちをしていた俺を悩ませる。

 ああ、外したい。ちょっとずつ力を加えて、あのボタンを外したい。そうしたらこの大きな胸がゆさっと揺れて、もうちょっとだけ彼女の魅力を見せてくれる。
 などと苦悩している俺を知りもせず、千夏ちゃんは不思議そうな顔をする。

「勉強って何時間するものなの??」
「ずっとよ。食事とお風呂、それといまみたいな休憩時間をのぞいて。千夏、あまりお兄さんと遊び過ぎてはだめ」

 えっ、と驚いたのは茜ちゃんを除いた全員だ。しかし最も驚愕していたのは母親の志穂さんで、ギョッとした目で俺を見る。

 あ、これは確定かな。この過剰な反応を見るに、俺は半ば性犯罪者だと思われている。
 彼女が鵜鷺さんと直接話してからこの反応なので、恐らくはバレている。事件の真相ではなく、鵜鷺さんとのあいだでなにがあったかを。

 まあ、あながち間違っているわけじゃないんだよね……。
 東伊豆での事件を思い出して、ズーンと俺は落ち込む。あれからしばらく茜ちゃんは不機嫌で、まともに会話できるようになるまで大変だったんだ。

 と、袖を引かれたので見下ろすと、大きな瞳をした茜ちゃんが「はやく」とまたも唇の動きだけで催促する。グッと肩を揉み始めると「それでいいわ」と言うように微笑を浮かべてくれた。

 そのようにいまの状況はきわどい。
 秘密を守らなければならないので身の潔白を証明できず、だからこそ志穂さんの警戒心は完全には解けない。まさか千夏にまで手を出していないでしょうねと、その瞳は訴えているのだ。

 ああ、苦しい。しばらく忘れていた背徳感に押しつぶされそうだ。弟の彼女を寝取り、また絶対に口にできないけど幼い千夏ちゃんを初体験させてしまったんだ。

 天童寺の姉妹は美しい顔立ちをしているのに、揃って性欲が高い。こんなに小さな身体でどうしてと当時の俺は驚いたし、裸体で抱きついたままビクビクという痙攣を直に伝えてきた。
 流れる汗がまとわりつき、仰け反ったまま千夏ちゃんはふうふうと熱しきった吐息を吐いていたんだ。あんなの忘れたくても忘れらない。

 しかし、ふと顔を上げると千夏ちゃんがちらちらと俺を見ていることに気づく。その催促するような仕草に、ようやく俺はとある目的を思い出す。

「あ、すみませんお母さん、茜さんと二階で話をさせていただけませんか?」

 受験が終わるまで交際を禁じられている身だ。事前に許可を受けるべきろう。
 そう考えて問いかけたのだが志穂さんはなぜか凍りつく。どうしたのかなと思っているあいだに頬がだんだん赤くなってゆくのだが……はて?

「す、少しってどれくらいかしら?」
「え? えーと、30分もかからないと思いますが」

 どうして時間を気にするんだろう。受験勉強の邪魔になるからという反応でもなさそうだし……。

「徹、これからお姉ちゃんとエッチするの?」

 千夏ちゃんが入れてきた茶々に、ぶうっと俺は吹き出した。
 まさかそんな誤解をされたの? いやいや、いくらなんでも公認でエッチしたいなんて言わないよ。あーあー、お母さんが真っ赤っかだ。
 しかし大人っぽいのか純情なのかいまひとつ分からない女性だな、と思いながらも俺は弁明する。

「ち、違うって! 相談したいことがあったし、千夏ちゃんだって同席してくれないと。お母様、間違ってもそんな意味ではありません」

 しゅううと音が出そうなほど顔を赤くさせた志穂さんは、頬に手を当てて「え、ええ」と消え入りそうな声を漏らす。
 ぷいと顔をそらす様子といい、二児の母でありながらそこいらの女性よりもずっとウブらしい。どぎまぎしつつ志穂さんは横目を向けてきた。

「そ、そういうことなら構わないわ。それで、私を置いてどんな秘密話をするのかしら?」
「それを言ったら秘密になりませんよ。決して悪いことではありませんし、そのときが来たらお母様にもお伝えできると思います」

 顔をパタパタと仰ぎつつ「あーあ、みんな秘密ばっかり。お母さんも秘密を持っちゃおうかな」と文句を言って志穂さんはむくれた表情をする。
 たぶん誤解をした気恥ずかしさもあったと思う。しかしそんないじけた声を聞いて、なぜか俺はすごく可愛い人だなと思った。



 さて、後ろ手にパタンとドアを閉じると、パジャマ姿の姉妹が見つめてくる。
 茜ちゃんの部屋は卓上スタンドの照明だけがついており、また参考書や模試らしきものがたくさん積まれている。やっぱり受験モードなんだなと思いつつ三人それぞれクッションに座る。

「それで、相談ってなんです?」

 きょとりと小首を傾げながら茜ちゃんが訪ねてきた。こうして正面から見ると清楚な黒髪と大きな瞳が魅力的で、やっぱり美人だなと改めて思う。

「うん、それなんだけど……千夏ちゃん、話しても構わないよね?」
「いいけど、ボクたち2人の秘密にしてもいいんだよ。お姉ちゃんは受験で忙しいみたいだし、ボクたちだけで考えない?」

 ちらりとお姉さんを見て、そんな挑発まがいのことを言う。すると先ほどまでの可愛らしさは幾分か薄まり、冬本来の冷たい空気が辺りに漂った。

「ふうん、そう。すごく気になるなぁ。お兄さんとどんな秘密を抱えているのかなー。お姉ちゃんに教えてくれないなら、千夏のほっぺたをつねりたくなっちゃうなー」
「おっ、お姉ちゃん、待って! その顔で言われるとすごく怖いから! お、教えるからちょっと離れて!」

 あーあ、いらない挑発なんてするから。茜ちゃんを怒らせるとどうなるのか、血を分け合った妹なら分かるだろうに。
 千夏ちゃんは活発な子だ。表情をころころ変えるし、このときも大きなブイサインをしてから満面の笑みを浮かべた。

「書籍化の打診、きちゃった!」
「しょせ……えっ、書籍!? 千夏に!?」

 本当ですかと俺を見つめてきたので、もちろん嘘なんかじゃないよと俺はうなずく。すると彼女はこちらが驚くほどぽかんとした。

「書籍化って、詐欺とかじゃないですよね?」

 じゃん、と先ほどいただいたばかりの名刺を見せる。こういうときは論より証拠なんだよね。まじまじと茜ちゃんは名刺を見つめて、そのままの表情で俺を見上げてくる。

「そっか、お兄さんは同席したんですね。大丈夫そうでした?」
「うん、面白そうな人だったし、他の作者の評判を聞く限りだと印税をふっかけてくることはなさそうだった。千夏ちゃんも打ち解けていたし安心できると思うよ」

 ぱっと茜ちゃんの瞳が輝く。たぶん印税という言葉を聞いたからだろう。
 言うまでもなく印税とは本を印刷するとき、作者に入ってくるお金のことだ。普通に生活していたら関わることはないけれど「夢の印税生活」みたいなフレーズを耳にするし、実際に恩恵を受けられるのだから夢の一端を嗅ぎとれたことだろう。

 ようやく信じてくれたのか、今度こそ茜ちゃんは千夏ちゃんに両手を伸ばす。

「千夏っ!」

 そう大きな声で呼びかけると、千夏ちゃんは誘われるままお姉さんと抱き合う。あれ、どうしてハグしたんだろうと不思議そうな顔をまずして、耳元で響く「でかしたわ!」という声にびっくりしていた。

「才能、あったね! ずっと言っていた作家になれたんだ! もー、あんまりお姉ちゃんをびっくりさせないで」

 背中や頭をなでなでされて、ようやく実感が湧いたのかな。もしかしたら反対されるかもと思っていたのかもしれない。
 思わずという風に千夏ちゃんは抱き返しており、先ほどまでの鼻高々な表情が引っ込んでいる。肩にあごを乗せて、ほっぺたをくっつけ合うと、うん、と小さく返事をした。

「あ、でも実感とかないから。ずっと書くだけだったし、気づいたらこんなことになって」
「ううん、すごく立派! それで、どんなタイトルなの? 私もすぐに予約しなくちゃ!」

 妹さんの肩をつかんでそう言う茜ちゃんだけど……対照的に俺たちは顔を曇らせる。その、書いているのはエロ小説だし、欲望をそのまま文字に変えたようなタイトルなんだよね。

 え? え? と俺たちの顔を交互に見つめる茜ちゃんだけが事情を分かっておらず、説明するのはさすがに躊躇した。
 ああ、たぶんこれもマネージャーの仕事なんだろうな。仕方ないとはいえ、心から愛している女性に官能小説について説明するのは……地獄だね!

 やがて部屋には茜ちゃんの声にならない声が轟いた。
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