【完結】図書室にいる『王子様』の本性を、私だけが知っています。

百崎千鶴

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その2

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 そして、今。
 私の最近のマイブームは、王子様が読了した本を後追いで読むこと。


(この前、読んでいたのはたしか……あ、あった!)


 しかし、せいいっぱい背伸びをしてもあと少しのところで指が届かない。 


「んっ、ぐっ……! あと、ちょっと……!」


 小さく唸りながら頑張っていると、


「これですか?」
「えっ、」


 背後から手が伸びてきて、本を取りこちらに差し出す。

 ありがとうございます、と言ってそれを受け取り、顔を上げた。
 そこにいたのは、


「どういたしまして」


 優しく微笑む、王子様。

 すぐそばにいるせいでどきどきして、一瞬で頭が真っ白になってしまった。


「……君、最近よく来ていますよね」


 だから私は、


「……好きです」
「え?」
「好き、です……」


 そんなことを口走ってしまったのです。 

 少しの間、彼は困ったように笑っていたけれど、私がぼうっと見つめ続けていると、


「……あー、」


 ふいと目線を逸らしてしまいました。

 それからまた少しの間を置いて、無表情になる王子様。
 ひらひらと片手を振りつつ言い放った言葉は、


「悪いけど、貧乳に興味ない」
「え、」
「だーかーらー、興味ないです」


 ……今、私は問いたい。
 彼が『王子様』だなんて、誰が初めに言ったのか。 


「……えっ?」


 今、この人は……この自称・王子様は何と言いましたか……?
 初対面の女子に向かって、いうにことかいて「貧乳」だと!?

 この際「興味ない」という言葉はスルーしましょう。それよりも許せないのは「貧乳」という言葉の方です!
 失礼な!


「ひ……っ! 貧乳じゃ、」


 とん、顔の横に置かれる王子の片手。
 もう一方の手は、私の口を塞ぐ。

 混じり合う、彼の体温。


「しーっ。ここ、一応図書室ですから」
「……っ、」


 どきどき、ばくばく。
 私を見下ろす瞳から、目が離せなくなる。 


「静かに、ね」


 私が頷いたのを確認してから離れる両手。
 そして、王子様は何事もなかったかのようにその場を立ち去ろうとした。
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