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三章 ブーガを狩る娘

43話

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「駆け抜けよ」

掛けられた言葉の通り、俺とレイナは洞窟を真っ直ぐに、奥へと向かい疾走した。

レイナの体は赤い光に包まれている。速さは通常の2倍以上。俺は、青い光を下半身に集中させ、離せれまいと必死に食らいつく。それでも差は開き、レイナは、時々後ろを振り返り、ペースを落とす。

力の差を痛感する。

俺は走るだけ。
しかし、先導するレイナは“戦いながら”全速力で道を進む。

ブーガ玉で、大半の敵は外に追い出せたが、それでも3分に1体のペースでブーガは現れる。

時にはナイフで、そして時には魔纒まてんで強化した蹴りで目の前の敵を一瞬で撃退した。

また、ブーガだ。
レイナはスピードを緩めず、むしろ加速する勢いで敵との距離を詰め、間合いの一歩手前で地面を蹴りつけ、宙を舞う。一連の動きのように体を捻り、回し蹴りで相手の頭を粉砕する。
文字通り、粉々に砕け散る。体液は一滴も飛び散らない。
レイナを着地したと同時に再びトップスピードで駆け出した。

死骸を通り過ぎたときに焦げた匂いが鼻を突き抜ける。

「焼いてるのか?」

「多少ね。力が制御できてない証拠だね」

魔纒にも、魔法同様に属性が存在する。レイナは炎を纏う。俺は水属性らしい。

しかし、ギルドマスターの部屋にいたとき、俺の魔纒は水のように濡れてはおらず、レイナの身体も熱くはなかった。
それを指摘すると、レイナは目の前の机に手を当てた。ジュッと音がしたあと、机から煙がたった。触れた場所が黒く焦げていた。

魔纒には「魔法耐性」「身体強化」「属性付与」の効果があり、俺は属性付与の効果を発揮できる段階ではないという。

当然、レイナは炎の属性効果を使用可能なレベルに至っており、ある程度のコントロールも可能だ。だが、最奥に至るまでは魔力を温存するため、身体強化に留めている。
なお、魔法耐性は魔力で構成される魔纒そのものの性質に近く、常時効果は持続する。

レイナ曰く、魔纒の魔法耐性は魔法に対抗するための権利みたいなもので、魔法を相殺するといったものではないらしい。

ダンテの魔法の盾を破壊したのは、身体強化で力を増した斬撃で“力づく”の域を出ていない。

「ウズウズするよね?」

「あぁ」

レイナはお見通しだ。俺は早く魔纒を使って戦いたかった。能動的に力を使いこなし強くなりたかった。

「ハイオークとの戦いは予想つかない。だからセツの魔纒も少しでも温存しておきたい。わかるよね?」

「あぁ」

わかってる。俺達の目的はハイオーク討伐。街の防衛戦力を総動員しての作戦だ。失敗は許されない。

「……3体。そしたら交代だよ」

「ありがとう」

レイナはスピードを緩め、俺の後方についた。

その時を待ってたかのように獲物が姿を表した。ブーガだ。

俺は左腰に携えた脇差しを右手で握り締め、意識を集中させる。身体中に散らばった精神を水のように流し、右手に集める感覚で。

青白い光が右手から流れ出る。レイナのそれと比べ、光が厚い。

「荒々しいね……セツらしい」

ほんの一瞬、俺は歩みを止めて、ブーガを迎撃するように抜刀状態からの居合いを放った。

ブッッ!

ブーガの顔が破壊される。だが、レイナのようにはいかない。
俺の剣撃は、レイナの蹴りにも及ばない。彼女はただの革靴を履いているだけだが、敵に与える衝撃はちょっとした爆発物にも近かった。

「良いね。カッコいいよ」

後ろから嬉しそうな声が聞こえる。

「お世辞はいい」

俺は、走りながら答えた。思い通り行かない自分の身体に少し苛ついていた。

「ふふっ。良いね。オトコノコだね……セツ、女性に触れるような感覚イメージだよ。魔法と同じく、魔纒も研ぎ澄ました精神が必要なんだ。優しく、優しくね」

言われるまま、魔纒を纏う感覚を変える。

途端に、青白い光は消滅した。

「優しすぎるよ……もっと強い女に触れるイメージで。戦いに身を置いた女性を抱きしめるように……」

ふと、アリアのことを思い出した。

エルフの森で、アリアの告白を受けたとき、俺は涙を浮かべて笑う彼女を抱きしめた。
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