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「あら、胸元の形を変えられますの?
好みによって選べるなんて、とても面白い発想だわ!」

「ありがとうございます!」

「そうねぇ...素敵すぎて悩ましいわね。
これは、裾のこの辺りにもこの透けるレースをあしらうともっと素敵になりそうだわ。
そこを......えぇ、その下の辺りに...そう、その辺りよ。
あぁ、それだと少し長すぎるわ...えぇ、そのくらいが良いわね。
これで、どうかしら?」

「とても美しいです!
ドレスの裾にも、この透けるレースをあしらうなんて思い付きませんでした。
奥様、ご助言ありがとうございます。」

お針子さんに次々と指示を出してデザインを修正していくお母様が、とても楽しそうですわね!
デザインも、とても素敵になりましたわ!
足首が見えそうで見えないという...また、なんとも悩ましいことになってしまいましたわね。

「それで、こちらは...まぁ、とても繊細なドレスなのね。
この生地は、全てがレース編みになっておりますのね?
首から足首まで...とても繊細で美しいデザインですわ。
あら?あちらは長袖でしたけれど、こちらは袖がありませんの?
この時期では、少し肌寒いかもしれないわね...ショールを羽織ることは出来るけれど、このレースと合わせるとなると難しいわ。」

「はい、そちらのドレスは、内側に刺繍を施した細かめのレース編みの布を用いておりまして、外側には透かし模様のレース編みという、全身レース編みのみで仕上げております。
袖を着けてしまうと美しさに欠けましたので、袖なしにいたしました。
露出が気になる方や肌寒い季節には、こちらのカーディガンを羽織っていただければと思います。」

「まぁ!この組み合わせも素敵だわ!
このカーディガンは、襟と裾に上品な刺繍が施されておりますのね。
ウフフ、丸い襟付きなところが可愛らしくて、総レースという大人過ぎるデザインを中和しておりますわ。
胸の留め具を外して腕を拡げると、緩やかに丸くなっていて優しい印象ね。」

そうなのですわ!
熱のこもったご説明に皆様のこだわりも感じられて、どちらもとても美しいデザインですので、お姉様共々悩んでしまい...決められませんの。

「このカーディガンは、刺繍を変えて普段使いにしても良さそうね...。
そうだわ!マギーのものにはマーガレットを、ミリーのものにはポンポンリリーを主体として刺繍を考えてみてくださらない?」

「はい、このように、襟を三角にするとまた違う印象になりますし、思い切って襟を無くしても良いかもしれません。
マーガレットとポンポンリリーの刺繍に関しては、こちらにご用意しております。
ラベンダーやスミレもございますが、ご覧になられますか?」

「あら、本当ね。
こちらは少し堅い印象になるし、こちらは少し簡素になってホッとするわ。
あらまぁ、刺繍も用意してあるの?
貴女、腕をあげたわねぇ...とても良いわ。」

「ありがとうございます!
日夜、お嬢様方を美しく着飾らせるにはどのようなデザインが良いのかと、そればかり考えておりましたから...嬉しいですわ。」

「こちらのカーディガンは、普段使い用を幾つかお願いしたいわ。
マギー?ミリー?私が決めた刺繍以外で、貴女達それぞれの好みの刺繍や生地で仕立てなさいね?」

「「はい、お母様。」」

普段使い用のカーディガンをお願いするのならば、ドレスは身体に添う形のこちらのドレスね。
総レースのドレスは袖がありませんから、夏の夜会が良さそうですわ。
お洒落は気合いと根性だと王妃様は豪語なされておられましたけれど、それで病を得ては恥ずかしいことですもの。

「今度の夜会用のドレスなのだけれど、こちらの身体に添う形のドレスの方が良いと思うわ。
今度の夜会には、貴女達に張り合ってくる面倒な方がおりますもの...こちらの総レースのドレスでは、あちらのお抱えとなっているお針子さん達が心配だわ。
主催者の娘なのですから、参加なさるのは仕方ありませんけれど...あのように奔放な方を表に出されるだなんてね。」

「数年前まで、平民としてお過ごしになられていたとお聞きしておりますわ。
ですから、貴族の慣習になかなか馴染めないのだそうですわ。」

「『娘は、まだまだ平民としての感覚が抜けなくてね...。
けれど、使用人にも分け隔てなく接することの出来る、とても心優しい子なんだよ。』
と、伯爵様が苦笑されながらも愛しそうに仰っておられましたわ。」

伯爵様は、本当に庶子の娘さんを愛しておられるようですけれど...奥様はどうなのでしょうか?
最近の伯爵夫人は、とても殺伐とした雰囲気を醸し出しておられまして......なんだか怖いですわ。
朗らかに微笑まれていた、普段の伯爵夫人に是非にお会いしたいですわ。





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