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2 『魔王ベルゼビュート・ティンゼル』
しおりを挟む降伏し拘束された俺は魔王城へと連れて行かれた。
城に着いてまず初めに連れられたのは魔王が居る謁見の間だった。
部屋の前にたどり着くと大きな鉄扉が俺を誘うかのように勝手に開く。
開いた扉の先を見るとそこには玉座に座る魔王が居た。
「貴様が勇者か。此度の悪あがきには少々手こずったが部下や民を守るための降伏宣言は実に見事だった。お前のその勇敢で賢明な判断に敬意を評して約束通りお前達の命は保証してやろう。」
魔王はそう言うと玉座にふんぞり返った。
見るだけで分かる馬鹿げた程の魔力の量。俺とはまるで桁違いだ。
その他にも言動、振る舞いその全てにおいてこいつが強いという事が一目瞭然で分かる。
「・・・心遣い感謝する。」
「よい。女神に見捨てられた哀れなこの世界の人間共に対しての我からのせめてもの情けだ。」
今こいつ・・・なんて言った?
この世界が女神様から見捨てられただと・・・?
「何だ?貴様ほどの者でありながら気づいておらんかったのか?」
「・・・嘘だ。」
人間を助けるはずの女神様が俺たちを見捨てるなどあり得るはずがない。
「嘘ではない。女神はこの世界を見捨てた。これは紛う事なき事実だ。そもそもおかしいとは思わなかったのか?何故人類滅亡寸前まで追いやられておきながら女神が救いの手を差し伸ばさなかったのかを。」
「それは・・・」
俺も感じていた。
何故女神様が助けてくださらないのか。
直接干渉せずとも助力を授けることは可能だったはずだ。
なのに女神様はそれをしてくれなかった。
だが、女神様が見捨てた等信じられるはずがない。
女神が見捨てたっていうのなら──俺は一体・・・これまで何のために戦っていたんだ・・・。
「まあよい。いずれにせよ女神達は直に死ぬ。」
「女神様が死ぬだと・・・?それは一体どういうことだ?」
「至極簡単な話だ。神界が間も無く我々魔族のものになる。我々は既に3つの世界を支配した。残す世界は後1つ、その世界を支配すれば女神は死んだも同然だ。」
神界が魔族の手に渡る?3つの世界?
俺は魔王の話の意味がまるで分からなかった。
魔王が話す話はまさに馬鹿げた妄想のように聞こえる。
「理解ができていないような顔だな? まあ、仕方がない・・・か。この世界でしか生きてこなかったお前にしてみれば別の世界が存在することすら思ってもみなかった事だろうからな。」
「その言い方からすると、この世界の他にも世界があると・・・お前はそう言いたいのか?」
「左様だ。これで少しは女神がこの世界を見捨てた理由を理解できるようになったか?」
「つまり、残りの1つの世界を死守するために戦力をそっちに集中させた・・・という事か。」
「左様だ。なあ、勇者よ。女神が何を糧に存在しているか分かるか?それはな・・・人間の信仰心だ。女神は人間に崇拝され崇められる事で自らの存在を維持することができる。即ち命の源が人間なのだ。確か、この世界の人口は2万人程度だったと聞く。だが、今尚、女神が必死に抵抗し死守しようとしている世界の人口は4億人以上いる。
この人口の数を聞いて必然的にどちらの世界が優先して守られるか分かるだろう?」
なるほどな。何となくだが分かってきた。
人間の数がそのまま女神の力となるとするなら二万人程しか居ない壊滅寸前のこの世界を切り捨てて人口の多い世界に戦力を集中させる方がよっぽど合理的だな。
「ようやく理解できたか。お前達は女神を信じて命がけで戦ってきた。だが、その女神はお前達を裏切ったのだ。何ともまあ哀れなものだな。お前には同情するぞ勇者アルキスよ。」
「一つだけ・・・いいか。何故お前はそんな事を俺に教えるんだ?」
「言ったであろう。せめてもの情けだと。」
その言葉を聞いて俺は黙り込んだ。
まさか宿敵であろうはずの魔王に同情される日が来るなんてな。
今まで俺達が必死こいて守ってきたこの世界がまさか女神様に捨てられているとはな・・・。
だが、例え女神に見捨てられていようとも俺は諦めない。
諦められない理由があるんだ。
俺は必ずこの世界を救う。
そして必ず──君を・・・
──救ってみせる。
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