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5 『魔人来訪』

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 ーー魔王視点ーー

 いつもと変わらない日常。
 そんなある日脅威は突如やってくるのだった。

 魔王城の一室、謁見の間に時空の歪みが生じた。
 これは魔族が魔界から転移魔法を使った場合に生じる現象。
 それはつまり──魔人の来訪である。

 歪んだ空間から1人の男が出てくる。
 
 「ベルゼ君これは一体どういうことだ。この世界の制圧は完了したと報告が来ていたが何故まだ人間が存在しているのだ?」

  その男は掛けているメガネを右手の中指でクイっと上げてそう言った。
  気品ある白色のタキシードを着て知的さのあるその男の名はヴィルヘビアの配下の3魔人の1人、フォルネウスだ。
  そんな彼に向かって俺は丁寧に奴らを生かすための言い訳を言う。

  「こんな辺境の地までフォルネウス様ご自身でご足労頂き誠にありがとうございます。人間達は現在、神への信仰心をなくさせ新たにヴィルヘビア様にその信仰心を向けさせる洗脳をした場合どうなるのかというような実験をしておりまして。」

  勿論そんな実験はしていない。
  だが、ここで誤魔化せなければ奴は必ずこの事をヴィルヘビアに報告するだろう。
  そうなれば、のぞみが消えることになる。
  それだけは何としても防がねばならん。

  「ほう。それは興味深いね。仮にヴィルヘビア様が信仰心によって力を跳ね上げることが出来るようになるとすれば、あのお方は神界を束ねる頭目、唯一神ゼウスにも優る力を得ることができるかもしれない。そうなれば、後の神界の信仰が大きく捗ることになる。よかろう、実験の結果は完了次第報告してくれ。」

  「了解致しました。」

  なんとか誤魔化すことはできたようだ。
  これで少しばかし時間は稼げる。
  その間に奴が覚醒出来ればよいのだが。

  「して、アルゼ君。今回君を訪ねたのはもう一つ理由があるのだ。」
  「理由とは・・・?」
  「実はだね、残り一つの世界、エルジオンの侵攻に少々手こずっていてね。
こちらも私も含めマルファスとヴォルスで対抗しているのだが・・・なに分戦力が足りない。」

  無理もないだろうな。
  女神が4人にその配下の天使たちそして4女神から加護を受けた勇者もいる。
  苦戦をしいるのも無理はない。
  だが、ヴィルヘビアは恐らくその事も予想済みだろう。
  奴が予想していない事があるとすればそれは唯一神ゼウスの参入・・・ぐらいの事だろう。
  まあ、奴が下界に降り立ち前線で戦うことなどあり得ないが。
  
  「このまま戦いが長期化すればゼウスが更なる増援を送ってくるかもしれん。そこでだが、万が一を備えてかの大魔法、プロメテウスの準備をするつもりなのだが。」

  魔界に伝わる秘術、最上級大魔法プロメテウス。
  それは一体の魔人を生贄に捧げる事で発動出来る最上級広範囲魔法だ。
  その威力は世界1つを丸ごと滅ぼすことができるほどの火力を持つ。
  そして、フォルネウスがこの話を俺にしたと言うことはつまり──

  「俺に生贄になれと、そう言う事ですね・・・。」
  「そう言う事だ。君にはラヴァーナ派の暴徒を抑え込めるためのピースとして魔王の座を用意したが、神界がヴィルヘビア様のものになればそのピースすら必要が無くなる。だからこそのお願いなんだ。」

  神界統一後にヴィルヘビアは唯一神ゼウスに代わりこの世の全てを統べる新たな神となる。
  そうなれば、ラヴァーナ派の連中を押さえ込むのは容易い事だろう。
  そう考えての行動だろう。
  意図は分かっているが勿論俺に断る権利すらなくそれを受け入れなければならない。
  
  「分かりました。その時が来ればこの命、ヴィルヘビア様のために捧げましょう。」
  「話が早くて助かるよ。ヴィルヘビア様もきっと御喜びになる事だろう。」
  
  その言葉だけ言い残しフォルネウスは魔界へと帰っていった。
  
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