亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

文字の大きさ
26 / 60
3章:追憶の雷雨

26日目.雷雨

しおりを挟む
 町の方まで降りてくると、辺りは騒然としていた。店はシャッターを締めて、出歩く人々も建物へと避難していた。
 この地域では雷が少ないため、慣れていないのだ。元気っ子の那緒でさえも恐怖するレベルと考えると、分かり易いだろう。

 ひとまず、俺は咲淋に電話をかけた。

 「到着したよ。そっちはどう?」

 『今のところ変化はないね……。ただ、しばらくは続きそう。』

 「……俺を下側で待機させた理由を聞いてもいい?」

 『恒夢前線の及ぼす影響を調べられるチャンスだから。私が観測を行っている場所は生活圏より高度が高い。山の方が荒れやすいからね。』

 この雷雨に迫ることは、恒夢前線の解明に繋がる。恐らく彼女は色々な角度から様子を観察したいのだろう。
 そうなると、実経験のある俺は比較が出来るため調査効率が上がるという訳だ。
 それにまだ不確定ではあるものの、恒夢前線と花は関連しているはず。霧の一件もあったため、事故だけでなく自然現象も該当していることが見て取れる。
 
 もしかしたら、また一輪回収できるかもしれないので、俺はそれを探しつつ暗雲にも目を向けていた。







 あれから十五分。雷は連発されており、明らかに天候が荒れてきていた。

 「そっちは大丈夫か?」

 それに付け加えて、突風に豪雨と身動きが取れなくなってきたため、俺は近くの公園の端で座り込み、咲淋に連絡を試みた。

 『今のところはね……。他の雲が紛れ込んできたのが原因のようね。』

 「他の雲……?」

 何層にも重なった性質の違う雲がそれぞれ作用しているのが、恒夢前線の構造であり正体であることは以前に聞いた。
 
 『ええ。お察しの通り、恒夢前線は他の雲を上書きしてしまうほど強力。だけど、層によって影響の強いものと弱いものがあるように感じるの。例えば、微量の雨を降らしている空を見上げた時に見える表面層は弱い。でも、二層目は上の影響を抑えられるほど強いってイメージかな。』

 「それぞれ雲の動きは均一じゃない。だから、普段悪さできない雲が偶然悪さできる位置になった……という解釈で間違いないか?」

 『大体はそんな感じ。』

 何層分あってどの雲がどんな役割を持っているかなどは今の時点では全く調べられていない。
 地理的条件に当てはめても、気温などの関係であの雲が出来上がっている感じはしていない。改めて、不可解なものだ。

 そうこう思考を巡らせながら風雨に耐え、空を見上げていると、先程とは比べものにならないくらい巨大な閃光が走った。
 光が見えて僅か数秒後、落雷の音が耳に入った。音のした方向を見ると、火柱が目に入った。

 「……咲淋、どこに落ちた。」

 しかし、すぐには返事が無かった。

 「咲淋!」

 『私は大丈夫。ちょっとネットワークの調子が……』

 「分かった。手短に話して。」

 『山の中のちょっとした道路のところ。幸い車とかは走ってなかったみたい。』

 「……分かった。」

 そう言って、俺は電話を切った。別に落雷が落ちたところに行く……なんて事をする訳ではない。そもそも行ったところで何も調べることはない。雷自体は特有のものでないからだ。
 ただ、燃え広がってくると住宅地に延焼する恐れがあるので早めに通報した方が良いと思っただけだ。

 雷雨の調査は咲淋が順調に進めているそうだ。ならば俺は“幻聴・幻覚作用”についての調査を優先したい。
 花の存在したあの空間こそ、それと同一のものだと俺は思っている。肝心なのは入る方法だ。
 今までは知らず知らずのうちに引き込まれていたが、何もトリガーがないとは考えにくい。

 「適当歩き回る他無いな……」

 あまりに情報が揃っていないため、こうするしかない。荒れた天気の中での散歩は少々リスキーだが、立ち止まっていても始まらないため公園から出て足を動かした。







 雨も、風も、雷も徐々に勢いを増しており、夜と勘違いしてしまいそうなくらい辺りは暗くなっていた。
 こんな天気の中じゃ人の気配などあるはずがない。一つおかしいことがあるとするならば……。

 「何故、こんなにも無機質なんだ……人の営みが一切感じられない……。」

 生活音は一切無く、雨が地面で弾ける音と落雷の音しか聴こえない。道の横に並ぶお店や家々の窓はシャッターが閉められており、光が漏れてこない。
 あり得ない状況ではない。それでも、違和感しか感じられない。
 段々と気味が悪くなってきたため、俺はスマホを確認した。

 「電波が届いていない……。今回も気付けなかった。一体どういう経緯で……!……後でいい。今日は時間制限付きだ。」

 どうやら気づかぬ間にあの空間に迷い込んでしまったようだ。これは呪いによるものなのか、恒夢前線によるものなのか。どちらにせよ、俺との関係性は深い。
 夕方からの予定も入っているため長居は出来ない。早急に花を見つけるために俺は歩き出した。







 一方、雷雨のピークが終わり強い雨程度に落ち着いたため観測を終えた咲淋は、不穏な様子で電話を切った蓮斗の安否が気になって電話をかけた。

 「だめ…繋がらない……。」

 しかし、その電話は繋がらなかった。位置情報の取得に失敗したようだ。
 
 「……ううん、彼ならきっと大丈夫。何処で何をしているかは分からないけど、本気になった蓮斗なら、どんな状況も覆してしまうだろうから……。」

 そんな暗示をかけて、咲淋は荷物をまとめて町に降りる準備を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...