亡花の禁足地 ~何故、運命は残酷に邪魔をするの~

やみくも

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最終章:亡花の禁足地

58日目.晴れ

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__________________

 魂が残存した私は、宛もなくこの世を彷徨っていた。当事者であった私はあの火災の原因が分かっていない。すぐにでも成仏したい私は、情報を集め始めた。



 亡霊である私は物に触ることができず、人から話される情報を聞くしかなかった。
 しかし、色々な場所の会議に潜入したものの、いずれも原因がよく分からなかった。遺体、物体、全てが焼失され、殆ど痕跡が残っておらず、八方塞がりだった。
 
 『……嘘…そんなことあるの…?』

 仮に事故だったとして、そんなに綺麗に何も残らないことはあるだろうか。遠方カメラの様子を見た感じ、何の前触れもなく大爆発したことが分かる。
 蒸気機関車でもああはならない。意図してか意図せずか、人が原因となっている可能性は高いように思えた。

 何も音沙汰がないまま、気付けば死亡してから一週間が経っていた。その日、私は山奥である廃墟を見つけた。
 その廃墟は、何処か神秘的な雰囲気を醸し出していた。
 
 『ボロボロだけど細かい装飾…何か特別な建物だったのかな……』

 廃墟の中に入っていくと、まず首のない女神像が目を引き、近くに文字の彫られた石版があった。
 その石版には、こう書かれていた。『奪い合い、壊し合いは人類の冒涜。永遠なる楽園の破壊者には、制裁を下すべき。 メイデン・クレスフィア』

 メイデン……生前に本で目にしたことがある。神様のお告げを代弁することができると言われている思想家で、最も神様に近い存在と勝手に崇められていた。
 大戦をきっかけに彼は迫害され、拷問が原因で死亡した。それ以降、勝利の女神はこの日本列島に微笑んではくれなかった。
 
 『何だろう……この石版、触れられる気がする……』

 石版に不思議な感覚を覚えた私は、石版に手を伸ばした。
 すると、何故かすり抜けずに触れることができた。石版から不思議な力が頭に流れ込んでいって、私の記憶ではないある場面が脳裏に浮かんだ。

 複数人の黒いフードを被った人達が電車に乗り込んできた。
 駅から出発しておよそ二分後、フードの男性が細工が施されたように見える液体を、ベルトの瓶から零した。
 そこに鍵を落としたような素振りで投げ入れると、引火した。液体は沸騰するかのように火を撒き散らし、爆破。私が知る光景が出来上がっていた。

 『テロ……人の手によって、大勢の人が亡くなったの……?』

 その事実を知った私は、私も知らない恨めしい感情が湧き上がっていた。石版から溢れ出す力に支配された私の形は、黒い影のようになってしまった。



 『……何だ、この感覚は。壊したい。破壊衝動が抑えられない。……私は何故、浄化されない。目的を思い出せない。……今はただ、人間が憎い…!』

__________________

 『何故、私は来世に行けないのか分からない。要らぬ力を有してしまった。私自身も分からない未練が、成仏を邪魔している。ならば、“復讐”という未練だけは果たさなくてはならない。』

 「……成仏したいだけなら、俺に勝ちを譲れば済む話なはず………お前は、その結果では満足がいかなそうだけど。」

 『呪花はこの世と冥界の入口を繋ぎ留める器に過ぎない。私がこの世に干渉できなくなるだけで、私は消滅できない。』
 
 少し気の毒とも思いそうになったが、こいつの罪はそれ以上。如何なる過去があろうが、それだけは覆らない事実だ。
 クロユリは、現実に出てきてはいけない存在。今ここで、繋がりを絶たなければならない。

 「……お前は…自分だけが被害者だと思っていないか…?」

 心を無にして、俺はそうクロユリに問い詰めた。
 するとクロユリは気に入らなかったのか、鎖をより圧縮した。

 『お前は……自分の立場を分かっているか?私はいつでもお前を絞め殺せる。』

 「…質問に…答えろ!…ッ!」

 『私に現実の常識は通用しない。対して、お前は一人の人間に過ぎない。シザンサスと結合しようが、それだけは変わらなかった。……よく、行動を考えなさい。』

 そう言って、クロユリは全器官を圧迫させてくる。彼女の言う通り、俺はこの鎖を断てやしない。呪花に手が届かない。命を掴まれている状態だ。
 逆の考え方をしよう。どのみち、クロユリはいつか痺れを切らして俺を殺す。この状況をキープしたところで、無駄な時間が流れていくだけだから。
 そもそも、ここは意識の中の世界。奇跡が起こらないとも限らない。抵抗せずに終わるよりか、抵抗した方がいいに決まっている。

 「……答えるまで訊く。自分だけが被害者だと思っているか?」

 『………話は終わりだ。お前の人生諸共な。』

 すると赤い霧が視界を完全に塞ぎ、刃物のような光沢を放つ鋭いツタが、足元から狙っていた。
 
 「……そう。“逃亡”、それがお前の決断か。」

 『消えろ。』

 クロユリの持つ摩訶不思議な力は、一斉に俺に牙を向けた。全方位から迫り始める狂気の凶器。
 ただ、俺はその瞬間を狙っていた。同時に複数のものを動かしたからなのか鎖が緩んだため、俺は力尽くで解き、一目散に呪花へと手を伸ばした。



 『ッ!…何故だ……何故…鎖から……』

 俺が刺されるより前に手は届き、呪花クロユリは地上から芽が離された。

 「……お前はこの短期間、俺ばかり狙っていた。もう、魂のストックが底を尽きかけていたはず。あの物量を同時に扱うなら、隙が生まれて当然だよ。」

 『……まさか、私が人間に…!…仕方がない……よく覚えておけ。“最も醜く恐ろしいのは、人災だ。”神々は、いつも見ていた。哀しい存在を…誕生させるな。お前なら可能だろう…?早瀬蓮斗。』

 意識空間や霧と共に、身体が微粒子となって消えていく間際、クロユリはそう遺言を遺した。

 「……一応ね。罪人は新たな大罪人を創り出す。君は…そのいい典型例で、被害者だ。同情する気はないけどね。……大人しく、眠りに就け。」

 クロユリとその一部が完全に消失して、植物は緑だけが残った。
 そして、俺の視界も真っ白になり始めて、意識が中断された。







 「……帰って来られたようだ。」

 目を覚ますと、そこは現実の夢が跡。架け橋の廃教会の入口で横たわっていた。
 
 「クロユリ……違う、これは呪花じゃない。萎れている。」

 段差の端に植わっている一本のクロユリは、器としての機能を失った普通の花となっていた。結局、奴の魂は“幽閉”ではなく“浄化”されたのだろう。
 そんなことを考えつつ、俺は廃教会の中へと入る。



 案の定、長年放置されていた教会の中は埃を被って荒れていて、ただの廃墟と化していた。
 辺りを見渡していると、メイデン石碑の下に、一冊の本が落ちていた。それは保存状態がそれなりに良い歴史書だった。

 「……お借りします。」

 もしかしたら何かに繋がるかもしれないと思い、一言天に呟き、俺は歴史書を手に取って教会の外へと出た。



 外へ出ると、故郷では初めて見る青く雄大な空が広がっていた。

 「……やっと晴れたよ。六十六年も覆い尽くしていた雲が…!」

 恒夢前線は無くなり、太陽の光が大地を照らす。この光景に立ち会えたことに、俺は人生一の嬉しさを感じていた。
 目的を無事に果たした俺は廃教会を背にして、帰路を辿って行った。帰りを待っている人達がいる。帰宅するまでが調査だ。
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