幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
162 / 539
第七章~何も盗んだことのない怪盗~

3.王城の図書館

しおりを挟む
 リクラブリア王国、王城内の図書館。そこに俺は来ていた。
 この国のことを調べたい、というのは建前で、実際には依頼主と連絡を取るためである。

「聞いてなかったぞ、アース。」
『いやー、別に言う必要もねーしな。言って変に期待して、後悔することになったら嫌だろ。碌な奴じゃねーとは聞いてたからな。』
「心臓爆発すると思ったわ。」

 俺は適当な本を読みながら、腕輪型の通信機器を通してアースと会話をする。
 大陸間を跨いでいるのに会話ができるあたり、通信機器の発達は凄いな。戦争において重要な技術、というのもあるのだろうが。

『捜査に不備はないか?』
「……それはない。当分は適当に相槌を打って、めんどくさそうになったら無理矢理抜け出すさ。」
『祖父への情は?』
「ないわけじゃ、ない。いやむしろある。なんか家族ってだけで、何をしても許せてしまうような気がしてしまうんだよ。」
『それはお前の弱点だな。』
「俺もそう思う。」

 俺は家族というものに憧れを抱いている。前世ではついぞ得られず、今世では早々に奪われたものだ。だからどんなに醜悪な存在であっても、俺はそこに情を持ってしまう。
 父であるラウロや、曾祖母であるオーディンには届かないが、俺はストルトスという人間に親愛の念を微かに感じてしまっていた。

「だが、仕事はやる。いくら情を抱くと言っても、会って一日も経ってない。今いる仲間の方がよっぽど大事だからな。」
『ならいい。引き続き調査を続けてくれ。』
「了解。お嬢様にはこれが終わったら一度顔を見せにいくと伝えといてくれ。賢神になった報告もしてないからな。」
『会ってなかったのか?』
「ちょうど不在だったんだよ。」

 正直、今何やってるか俺にはわからないけど、きっとお嬢様のことだからせわしなく働いているのだろう。それこそ俺なんかより、よっぽど重要なことのはずだ。

「それじゃあな。」
『ああ、また。』

 通信は切れる。そしてさっきから軽く目を通していたこの国の歴史書に、しっかりと意識を向ける。
 この国の歴史は浅い。建国からおよそ百年と少し、長いには長いが、中国三千年の歴史を凌駕するグレゼリオン王国には遠く及ばない。
 だが逆に言えば成り立ちと変遷は、歴史ある国よりも詳細に残されているわけだ。これが捜査という点においては楽でいい。

「……頭に入ってこねえな。」

 だが、正直に言って目を通す気分にはなれない。
 昼の話は結局、明日へと持ち越された。最悪、さっさと抜け出すことになるかもしれない。もし王位を継げと言われて、それが毎日のように続けば、俺はきっと断り切れない。
 それ程までに、血の繋がった家族という称号は、俺の中で重い。
 血縁者、というのは俺の長らくの憧れだった。血の繋がった父母に、成人するまで育てられ、親子楽しく過ごせている。そんな人間が、俺はずっと羨ましかったのだ。

「今日はもう止めるか。隠れて来てるし、バレたら危ない。」

 そもそもこの図書館も、鍵がかかっていたのを、体を砂に変えて無理矢理通って来たのだ。不法侵入も不法侵入である。
 国家機密レベルのことを調べる為には、ここには何度も通う必要がありそうではあるがな。

「オラァ!!」
「は!?」

 図書館の扉は音を立てて蹴破られ、そして巨漢の男が倒れた木製の扉の上を踏みしめ、図書館の中に入ってくる。
 赤い肌と無造作に伸びた紅い髪。人を殺せそうな紅く鋭どい目つきが俺の体を確かに捉える。ただその目は、敵意というより、俺を見定めているように感じた。
 何より目にとまるのはその背丈である。2メートルは優に超えるが、細くバランスが悪いわけではない。肩幅も広くまるで怪物、鬼のようであった。

「お前だな、今日来た賢神ってのは。」
「……それが、どうした。」

 右手に持つのは鞘がなく、抜き身の紅く長い剣だ。

「賢神となりゃあ、会ってみてえじゃねえか。ここには王城の警護で来たが、俺としちゃあ、強い奴と戦えるかが一番重要だ。」
「冒険者か。」
「ああ。名前を聞かせろ、賢神。」

 逃げたい。だが、逃げれない。唯一の入り口を塞がれているというのもあるが、溢れ出る魔力と闘気の密度が段違いだ。
 魔力は俺と同等、闘気は剣の天才であるフランを上回る。
 こんなもの人に辿り着ける領域じゃない。この魔力量と闘気量を両立できるなど、才ある人間が一生かけて届くか否かの高みだ。

「アルス・ウァクラートだ。」
「なるほど、お前があの悠久の魔女の曾孫か。道理で強力な魔力を持ってやがる。」
「ここで、戦う気か?」
「いや、そんな勿体ねえことはしねえさ。きっと戦い始めたらお前は逃げる。逃げられれば、折角の戦いが台無しだ。戦いは、互いに殺す気をもってやるべきだからな。」

 俺は少し安堵する。戦いたくはなかった。必ずこっちは怪我じゃ済まない。

「もう少しお前が強かったなら、我慢できなかったかもしれねえけどな。」
「俺が弱いと?」
「お前はもっと強くなる。極上の料理になるものを、その前に喰っちまったら勿体ねえだろ。」

 そう言って男は顔を歪ませた。
 王城の警護に冒険者を雇っていたとは知らなかった。しかもこのタイミングだ。俺が賢神である以上、それの対策として依頼したと考えた方が妥当だろう。
 ストルトスが依頼したか、それとも別の人が依頼したかによって、動き方も変わる。どちらにせよ厄介だ。

「俺も戦いたくはねえ。だから、今日来たのは忠告をするためだ。」

 男は手に持つ剣を床に刺す。修理代にいくらかかるのだろうと、少し怖くなったが、どう考えても俺に非はないので忘れる。

「俺に敵対しないようにしろよ。今回は見逃すが、勝手に侵入禁止区域に入れば、俺はお前を斬ることになっちまう。」

 俺は頷く。

「ならいい。俺は寝る。」
「待て。」

 そう言って剣を抜き、立ち去ろうとするのを呼び止める。
 すると今度は不機嫌そうに振り返って、俺を睨んだ。寝ると言っていたし、さっはと寝たいのだろう。

「何だ、ここで斬られてえのか。」
「違う。名前だけ聞かせろ。」
「……ああ、そういや名乗ってなかったな。俺はお前が気に入った。それぐらいは教えてやるよ。」

 気に入られるようなことをした覚えはないが、気に入られたらしい。
 やめてほしい。俺は基本的に悪人以外とは戦いたくはない。しかしこの男は、戦うのが好きなのだろう。見ているだけでわかる。
 俺は手段として魔法を選んだのであって、目的として魔法を選んだわけじゃないのだから。

「ディオだ。また会おうぜ、賢神。」

 そう言って、その男は城の廊下を歩いていった。城の豪華な雰囲気にその姿はそぐわぬが、しかしあまりにも堂々と歩くので、むしろ違和感はなかった。
 俺も図書館を出て、雑にではあるが扉を魔法で直す。通り過ぎた人が壊れていると思わない程度であればいい。それ以上の効果は見込まない。

「やめてくれよ……こっちはただでさえ手一杯なのに、新しい悩みの種を増やしやがって。」

 俺は大きくため息を吐きながら自分の部屋に戻る。寝たら頭も冷静になるし、きっと良い考えも浮かぶだろう。取り敢えずは休息が必要だ。
 自分の祖父であるストルトス、王城で警備を行う冒険者のディオ。この二人の存在を知れただけ、一日目の収穫としてこう。

 俺は静かな夜の中、再びバレないように用意された部屋に戻り、ベットの中で眠った。よく眠れなかったのは、言うまでもないことであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます! って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。 ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。 転移初日からゴブリンの群れが襲来する。 和也はどうやって生き残るのだろうか。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~

幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位獲得!(2026.1.23) 完結までプロット作成済み! 毎日更新中! なろう四半期ランクイン中!(異世界転生/ファンタジー/連載中)★ 山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。 神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。 ①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】 ②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】 ③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】 私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること! のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!? 「私の安眠のため、改革します!」 チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身! 現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……? 気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!? あれ、私のスローライフはどこへ? これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。 【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】 第1章 森の生活と孤児院改革(完結済) 第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中) 第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ! 第4章 王都は誘惑の香り 第5章 救国のセラピー 第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション 第7章 領主様はスローライフをご所望です 第8章 プロジェクト・コトリランド 第9章 ヤマネコ式教育改革 第10章 魔王対策は役員会にて 第11章 魔王城、買収しました(完結予定)

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...