幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼

文字の大きさ
168 / 539
第七章~何も盗んだことのない怪盗~

9.勇者について

しおりを挟む
 俺の手元にある勇者の情報は少ない。いるらしい、ということだけと、王城が突然と光ったという出来事がある、という程度だ。

「……勇者、ですか。」
「信頼して話すが、俺はグレゼリオンからそれを調査するようにと言われてここに来た。それを突き止めなくちゃ、帰りたくても帰れない。」

 真実を突き詰めなくてはならない。王城が光ったということについては、恐らくストルトスが関係しているはずだ。
 ただの魔法であっても、何があってそれをしたのかを俺は知らなくてはいけないのだ。例えつまらない事故だったとしても、それが俺の仕事なのだから。

「実は、それは私にもわからないことの方が多いのです。」
「わからない? ずっとこの王城にいるんだから、何か知ってるんじゃないのか。」
「あまり情報も伝わらせないように、お祖父様がしているようですので。」
「心当たりでもなんでもいい。部屋の前の、使用人の噂話でもいい。取り敢えず今は情報が欲しい。」

 だが逆に言えば、これで何一つ出なければあからさまに秘匿したい出来事であるということになる。可能性としては、勇者でなくても、何かしらの厄介なものである場合の方が高くなるわけだ。
 それに誰の口からどんな言葉が出たというだけでも、アースであれば中々精度の高い予測をしてくれるだろう。あいつは天才だから。

「王城が光ったという時、私はここにいました。扉越しからでもわかるぐらいの強い光であるのにも関わらず、場内が騒がしくなることはありませんでした。夜であったのもあるのでしょうが、きっと事前に知らされていたのだと思います。」
「……使用人にも聞く必要がありそうか。」
「いえ、意味はないでしょう。既に全員が王城にいません。一部は奴隷になり、一部は処刑されました。」

 強く、歯を食いしばる。こうでもしなければ、腹が立って、今にもここら辺を魔法で吹き飛ばしたくなる。

「お祖父様はあの王城が光った事件を、使用人の責任とし、貴族の家の者は追い返し、平民の者は犯罪奴隷にして売り払いました。その中でも使用人を監督する立場の者は処刑されたのです。」
「たかが、王城が光っただけだろ。そこまでするのかよ。」
「きっと、隠したい何かがあったのでしょう。ですがそれを知っているのは、お祖父様と、相談役である宰相のみです。」

 どこまで、どこまで人を弄べば気が済むのだ。孫である王女を腕輪で縛り、罪もないだろう使用人を奴隷に落とす。
 あれは本当に人なのか。人であるなら何故、あそこまで人を苦しめられる。良心は痛まないのか。正義感はないのか。家族を大切にしようとは思わないのか。

「私が知っているのはそれだけです。それ以上は、何も知りません。」
「……すまない。」
「何故、謝るのです?」
「のうのうと暮らしてきてすまない。俺はあなたより何倍も自由に暮らしてきた。あれが俺にとっての祖父でもある以上、俺も責任を負わなくてはならないのに。」

 こうなってくれば、前国王の不審死の正体など確定したようなものだ。ストルトスが殺したのだ。自分の兄も、息子すらも。
 俺も確かに色々なことがあった。だが、恵まれている。祖母であるオーディンは俺を助けてくれたし、友人もいた。俺は恵まれているのだ。
 この目の前の、生きることしかできない人に比べれば、ずっと。

「謝罪をする必要はありません。そう思っていただけるだけでも嬉しいです。」
「……そうか。すまない、長居し過ぎた。情報提供感謝する。」

 俺は突然と立ち上がり、軽く頭を下げる。
 これ以上、この人と話していれば、俺は罪悪感から壊れてしまう。そんな気さえしていたからだ。

「最後にこれだけ。城下町の平民から、あなたに渡してくれと言われたものだ。」
「本、ですか?」
「目は通したが呪いの類とかでもないし、安心してくれ。」

 そう言って、かなり足早に部屋を出る。脳の血管が切れそうなぐらいに気持ちが、悪かったからだ。
 正直なことを言うと、できるだけ早くこの王城から抜け出してしまいたい。依頼なんて捨てて、責任など放り捨てて、グレゼリオンに帰りたい。
 だが、俺にそれは許されない。
 俺がここで捨てて逃げたら、一生後悔する。この腐り果てていく国を、ただ見ているだけなど、自己嫌悪で自分を殺したくなる。

 そのために、俺は学園で五年も魔法を学び続け、そして賢神になったのだ。
 理不尽に苦しむような人間が、一人でも減るように。誰もがみんな、幸せになれる、そんな理想郷に一歩でも迫るために。

「おや、こんな所にいらしたのですか。」

 廊下の反対側から、一人の男がこっちに近付いてくる。
 目の下には濃い隈があり、声に覇気も力もない。身だしなみは整えられており、見るからに貴族であろうと、そんな想像ができる青い髪の男だった。

「探していましたよ、アルス殿。私はこの国で宰相をしているラボランテムと申します。お話をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 断る理由はなかった。真実に迫るために。





 アルスが去り、一冊の本と一人だけが残る王女の部屋。王女エイリアは窓から外、正確には城下町を見下ろす。
 昼頃であるから、人々は忙しなく動き、働いている。活気はなくとも、仕事はしなくてはならないのだ。
 王女の手にはアルスから渡された本があり、力強く握っている。アルスと話していた時の、張り付いた笑顔は消え、どこか焦ったように、外を見ていた。

「何故、この本を……」

 その言葉の真意は、王女だけが知ることであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜

四乃森 コオ
ファンタジー
勇者によって魔王が討伐されてから千年の時が経ち、人族と魔族による大規模な争いが無くなっていた。 それでも人々は魔族を恐れ、いつ自分たちの生活を壊しに侵攻してくるのかを心配し恐怖していた ───── 。 サーバイン戦闘専門学校にて日々魔法の研鑽を積んでいたスズネは、本日無事に卒業の日を迎えていた。 卒業式で行われる『召喚の儀』にて魔獣を召喚する予定だっのに、何がどうなったのか魔族を統べる魔王クロノを召喚してしまう。 訳も分からず契約してしまったスズネであったが、幼馴染みのミリア、性格に難ありの天才魔法師、身体の頑丈さだけが取り柄のドワーフ、見習い聖騎士などなどたくさんの仲間たちと共に冒険の日々を駆け抜けていく。 そして・・・スズネと魔王クロノ。 この二人の出逢いによって、世界を巻き込む運命の歯車がゆっくりと動き出す。 ■毎週月曜と金曜に更新予定です。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

処理中です...