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青年の辿り着いた答え ~END1~
青年は恐怖を克服して彼女と共に眠る
しおりを挟む「……俺が、勝ったのか?」
そう呟いた瞬間、喉に痛みが走る。
呆然とした意識の中で勝利を手にしたと言う現実から強制的に引き戻されるも、俺は先程のことを思い返す。
あのとき――マナを喰い、そのショックでマナを吐き戻そうとしたあの瞬間。
その瞬間を思い返すと、俺は必死に自身の首を絞める。
絶対に彼女の身体は吐くものか。その焦燥感で必死に気管を締めれば、呼吸さえままならない。
爪は首に食い込み、首筋と指を濡らすがそれでもいい。いや、そうしなければならないのだ。
毎秒ごとに痛みを増していく中で、痛みを鈍らそうとさらに喉に爪を喰い込ませるも、痛みは、なにかは俺の中から必死に出ていこうとする。
とうとう痛みに耐えきれなくなった俺は、嗚咽と同時にあるものを吐き出した。
「づ――ッ!」
嗚咽と共になにかを吐いても、俺の胃は毒かなにかを出そうとひたすら吐き気を催す。
恐らく、これは『原初の災厄』を喰った代償。
ありとあらゆる災厄を起こす程の憎悪を持つ存在を喰ってしまえば、当然人の身には留まれないほどの呪力が注ぎこまれる。
その影響かと思い、奴の呪力だけを吐き出したその瞬間———ごつん、と鈍い音と同時に床になにかが落ちて、俺はそれと目が合った。
床に落ちたのは、“赤いもの”。
赤いけれども、所々白が混じっていて。
赤い大きな点のようなものが、2つもあって。
大きな点の少し下に、弧のようなものが描かれていた。それは、マナの、“首”。
既に俺は涙も声も出なくなったせいか、今までのように無様な悲鳴を上げることはなかった。
しかし、それでも俺が愛した人を喰ったと言う事実に変わりなく、今更になって『原初の災厄』の放った言葉が脳裏を過った。
―—そうそう、絶対に吐き戻すなよ? そしたら今度こそその小娘はお前を憎んだまま許さない。一生お前は恨まれて生きていくのだ。
「あ゛……ッ、あぁ゛……あああああッ……」
瞬間、俺は床に転がったマナの首を拾い上げては思い切り抱き締める。
そう、そうだ。もう願いは叶ったのだ。
結果は悲惨で残酷だったが、あれだけ会いたくて抱きしめたかったマナは今俺の腕の中にいる。その事実だけは変わりない。
ようやく、彼女が俺の元に帰ってきて、そして悲しくも彼女は俺の一部となった。
絶対に、体は吐くものか――そう決意し、俺は跡形もなくなったアールミテ家であった場所から、ある場所へと向かっていった。
穴だらけの体を引きずり、無人の街を必死に抜ける。
もはや『ゴースト』は俺の体内にほぼおらず、俺は最期の力を振り絞って、残った『ゴースト』へある場所に俺に道を示すようにと命令した。
道中、大量の血や内臓やらを置いてきもしたが、アールミテ家の屋敷跡から聖都へ。そして聖都に入ってしばらく――霊碑街にあった1つの墓まで辿り着く。こここそ『ゴースト』へ道案内を頼んだ終着点だった。
あの『原初の災厄』が、悪戯心で建てた小さな墓。
『Mana』と書かれていた墓は砕かれ、既にただの石塊となっていた。
しかし、俺はそんな石塊と化した墓を見てだらしなく口端を緩めた。
既に両目は見えず、体も動くはずがないのに、きちんとマナの首を持って俺はここまで来れた。その満足感と達成感は今まで俺が生きてきた20年間で感じたことのないものだった。
「……マナ、ようやく君と一緒にいれるよ」
満足感に満ち、ようやく彼女に面と向かって言えることのなかった想いを俺は口にする。
綻ぶ口元から、俺はきっとこの20年間と言う短い生の中で1番柔らかい笑みを浮かべていたことだろう。
内側から溢れる安堵と、マナへの純粋な愛は眠気を誘う。そうして俺の体は糸が切れた人形のように、砕けた墓石へと横たわった。
俺の眼前にあったのは、マナの首。
俺は確とマナの首を見て、その赤い瞳をじっと見つめる。もう、2度と現実から逃げないと誓って。
赤く濁ったその瞳は、既に生きていた頃のマナの瞳ものとは違うが、その美しさは俺の心と瞳を捕らえて離すことなどなかった。
俺はそんな赤い瞳を見て、ただ一言。
「あのときは……ごめん」
あのときは――と言っても、俺は彼女と過ごしてきた7年間は彼女に辛い思いをさせ続けた。
もはやそれら全てに謝罪しようにも、時間が足りない。
だからこそ、今俺は慙愧に堪えない一心で脳裏に彼女との思い出を1つ1つ思い返していく。
その思い出にあるマナは、とても美しい人だった。
例え首だけになった今もそうで、彼女はこの世の誰よりも美しい。
いつか俺が心惹かれ、ずっとあのままでいて欲しいと思った、唯一の姿。
栗色の髪も、碧い瞳など、ありきたりな見た目などどうでもいいのだ。
俺にとっては唯一無二で、この世で最も美しい色が“赤”なのだから、意識が途切れるまでどうか見続けさせて欲しい。
「俺にとっては……君が、すべ、て……った、から……」
俺にとっては、君が全てだったから、最期だけは男として意地をみせよう。
たった一瞬だけだったとしても、君が望んだことを叶えてやるのだ、と。
もうこの世界には誰もおらず、今や俺とマナは2人きり。
奇しくも、この墓で語り合ったマナの最期の願いは成就する。その願いの成就の為だけに、俺はこの墓までやってきたのだ。
神の気紛れで嫌がらせで用意されたはずの彼女のための墓は、今となっては俺をも弔うための墓となっていた。
そして数秒。たった数秒だけの幸福な夢を枕に俺は彼女の元へと逝く。
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しかし、人生最期のこの数秒だけは愛した女性のためだけに――そんなささやかな贖罪など、あってないようなものだと言うのに。
もう“赤いもの”は怖くないよ――そうどこにもいない愛した彼女へ告げて、幸福な夢の中へと沈んで逝った。
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