マナイズム・レクイエム

織坂一

文字の大きさ
24 / 25
青年の辿り着いた答え ~END1~

青年は恐怖を克服して彼女と共に眠る

しおりを挟む


「……俺が、勝ったのか?」


そう呟いた瞬間、喉に痛みが走る。
呆然とした意識の中で勝利を手にしたと言う現実から強制的に引き戻されるも、俺は先程のことを思い返す。

あのとき――マナを喰い、そのショックでマナを吐き戻そうとしたあの瞬間。
その瞬間を思い返すと、俺は必死に自身の首を絞める。

絶対に彼女の身体は吐くものか。その焦燥感で必死に気管を締めれば、呼吸さえままならない。
爪は首に食い込み、首筋と指を濡らすがそれでもいい。いや、そうしなければならないのだ。

毎秒ごとに痛みを増していく中で、痛みを鈍らそうとさらに喉に爪を喰い込ませるも、痛みは、は俺の中から必死に出ていこうとする。

とうとう痛みに耐えきれなくなった俺は、嗚咽と同時にあるものを吐き出した。


「づ――ッ!」


嗚咽と共になにかを吐いても、俺の胃は毒かなにかを出そうとひたすら吐き気を催す。
恐らく、これは『原初の災厄』ファースト・スカージを喰った代償。

ありとあらゆる災厄を起こす程の憎悪を持つ存在を喰ってしまえば、当然人の身には留まれないほどの呪力が注ぎこまれる。
その影響かと思い、奴の呪力だけを吐き出したその瞬間———ごつん、と鈍い音と同時に床になにかが落ちて、俺はと目が合った。

床に落ちたのは、“赤いもの”。
赤いけれども、所々白が混じっていて。
赤い大きな点のようなものが、2つもあって。
大きな点の少し下に、弧のようなものが描かれていた。それは、マナの、“首”。

既に俺は涙も声も出なくなったせいか、今までのように無様な悲鳴を上げることはなかった。
しかし、それでも俺が愛した人を喰ったと言う事実に変わりなく、今更になって『原初の災厄』ファースト・スカージの放った言葉が脳裏を過った。

―—そうそう、絶対に吐き戻すなよ? そしたら今度こそその小娘はお前を憎んだまま許さない。一生お前は恨まれて生きていくのだ。


「あ゛……ッ、あぁ゛……あああああッ……」


瞬間、俺は床に転がったマナの首を拾い上げては思い切り抱き締める。
そう、そうだ。もう願いは叶ったのだ。

結果は悲惨で残酷だったが、あれだけ会いたくて抱きしめたかったマナは今俺の腕の中にいる。その事実だけは変わりない。
ようやく、彼女が俺の元に帰ってきて、そして悲しくも彼女は俺の一部となった。

絶対に、体は吐くものか――そう決意し、俺は跡形もなくなったアールミテ家であった場所から、ある場所へと向かっていった。

穴だらけの体を引きずり、無人の街を必死に抜ける。
もはや『ゴースト』は俺の体内にほぼおらず、俺は最期の力を振り絞って、残った『ゴースト』へある場所に俺に道を示すようにと命令した。

道中、大量の血や内臓やらを置いてきもしたが、アールミテ家の屋敷跡から聖都へ。そして聖都に入ってしばらく――霊碑街にあった1つの墓まで辿り着く。こここそ『ゴースト』へ道案内を頼んだ終着点だった。


あの『原初の災厄』ファースト・スカージが、悪戯心で建てた小さな墓。
『Mana』と書かれていた墓は砕かれ、既にただの石塊となっていた。
しかし、俺はそんな石塊と化した墓を見てだらしなく口端を緩めた。

既に両目は見えず、体も動くはずがないのに、きちんとマナの首を持って俺はここまで来れた。その満足感と達成感は今まで俺が生きてきた20年間で感じたことのないものだった。


「……マナ、ようやく君と一緒にいれるよ」


満足感に満ち、ようやく彼女に面と向かって言えることのなかった想いを俺は口にする。
綻ぶ口元から、俺はきっとこの20年間と言う短い生の中で1番柔らかい笑みを浮かべていたことだろう。

内側から溢れる安堵と、マナへの純粋な愛は眠気を誘う。そうして俺の体は糸が切れた人形のように、砕けた墓石へと横たわった。

俺の眼前にあったのは、マナの首。
俺はしかとマナの首を見て、その赤い瞳をじっと見つめる。もう、2度と現実から逃げないと誓って。

赤く濁ったその瞳は、既に生きていた頃のマナの瞳ものとは違うが、その美しさは俺の心と瞳を捕らえて離すことなどなかった。
俺はそんな赤い瞳を見て、ただ一言。


「あのときは……ごめん」


あのときは――と言っても、俺は彼女と過ごしてきた7年間は彼女に辛い思いをさせ続けた。
もはやそれら全てに謝罪しようにも、時間が足りない。
だからこそ、今俺は慙愧に堪えない一心で脳裏に彼女との思い出を1つ1つ思い返していく。

その思い出にあるマナは、とても美しい人だった。
例え首だけになった今もそうで、彼女はこの世の誰よりも美しい。

いつか俺が心惹かれ、ずっとあのままでいて欲しいと思った、唯一の姿。
栗色の髪も、碧い瞳など、ありきたりな見た目などどうでもいいのだ。
俺にとっては唯一無二で、この世で最も美しい色が“赤”なのだから、意識が途切れるまでどうか見続けさせて欲しい。


「俺にとっては……君が、すべ、て……った、から……」


俺にとっては、君が全てだったから、最期だけは男として意地をみせよう。
たった一瞬だけだったとしても、君が望んだことを叶えてやるのだ、と。

もうこの世界には誰もおらず、今や俺とマナは2人きり。
奇しくも、この墓で語り合ったマナの最期の願いは成就する。その願いの成就の為だけに、俺はこの墓までやってきたのだ。

神の気紛れで嫌がらせで用意されたはずの彼女のための墓は、今となっては俺をも弔うためのものとなっていた。
そして数秒。たった数秒だけの幸福な夢を枕に俺は彼女の元へと逝く。

リアムと言う男は、ありとあらゆる罪を重ね続け、その末路は災厄との心中だった。
しかし、人生最期のこの数秒だけは愛した女性のためだけに――そんなささやかな贖罪など、あってないようなものだと言うのに。

もう“赤いもの”は怖くないよ――そうどこにもいない愛した彼女へ告げて、幸福な夢の中へと沈んで逝った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...