10 / 40
第1章『レイアレスの二人』
第1章・タクヤ(5)
しおりを挟む
「……私たちを笑いに来たのですか?」
レアリィと同じように虚ろな目をして、セロフィアが僕に言う。
その頬には、鋭いひっかき傷のような跡が残っていた。
あの清楚で美しいセロフィアの顔が……なんて惨いことを。
「そんなワケないだろう! 皆のことが心配で、僕はここに来たんだ!」
「……防御がそこにいるのか……?」
喋ることさえやっとといった感じで、グレリオが言葉を口にする。
「グレリオ……!」
体中に撒かれた包帯が実に痛々しい。
僕は言葉を失った。
「すまない……。折角、こうして見舞いに来てくれたんだ。握手のひとつでもしたいトコロなんだが、手がまともに動きゃしない……」
僕は自分の方からグレリオの手を取った。
「こんな有様じゃあ、もう二度と、剣は握れないよな……」
「どうして、どうしてこんな、酷いことに……!」
「俺が悪いんだ……。エンシェント・ウルフを倒すことに拘り過ぎて、撤退のタイミングを見誤ってしまった……。その結果、レナウドを死なせることになってしまい、俺もこの有様だ……ぐうっ!」
体に激痛が走ったのか、グレリオが悶える。
「これでもう、神様からの啓示を叶えることも難しくなっちまった……勇者と呼ばれるには相応しくないな……ぐあっ!」
「喋らなくていい! もう喋らなくていいよ、グレリオ!」
「……防御……君に頼みがある。俺の鞄の中を見てくれないか……」
グレリオの言葉に従って、僕は部屋の脇に置かれた鞄の中を覗き込んだ。
「これは、玄武のオーブ!」
中に入っていたのは、四聖獣のオーブのひとつ、玄武のオーブだった。
「俺に変わって、四聖獣のオーブを集めてくれ……! そして、魔王の侵攻から、この世界を救ってくれ……!」
「僕が……僕が、グレリオに代わって、勇者をやれって事?」
「君にしか、頼める者がいないんだ……。お願いだ……!」
グレリオがそう言うと、グレリオの体から黄金色のオーラが立ち昇った。
「これは、聖光法力……!」
セロフィアが声をあげる。
神に選ばれし『勇者』と呼ばれる存在のみに宿る聖なる法力だ。
黄金色のオーラは、今度は僕の体へと入り込んだ。
僕の体に何か、神々しい力が湧き上がるのを感じる……!
「ほら、神様も言ってるぜ……? 君に勇者をやれってさ……」
「僕が……僕が新たな勇者になったって事……?」
「ぐあっ……! 喋り過ぎたせいか、眠くなってきちまった……。少し眠らせてくれないか……。」
そういうとグレリオは口を閉じた。
やがて、静かな寝息を立て始めた。
「グレリオ……」
僕はそっと、グレリオが眠るベッドから離れた。
ラオウールである僕が、グレリオに代わってこの世界の勇者になる……?
そんな展開になるなんて、考えてもみなかった。
「認めない……! アンタみたいな奴が勇者だなんて、アタシは絶対に認めない!」
レアリィは目に涙を浮かべて僕を睨みつける。
彼女の中では、僕はまだ『防御くん』のままなのだろう。
「神が……。神が彼を勇者と認めたのです。私は、神がお決めになられたことに従うしか、ありません……」
セロフィアの口ぶりからして、僕が勇者として認められたことは、彼女にとっても不本意であるようだ。
「……どうすれば良い? 何をすれば、二人は僕が勇者であると認めてくれる?」
僕は二人に問いかけた。
いくら僕が強くなったとはいえ、一人で魔王を倒すことはできないだろう。
仲間の協力が欠かせないのだ。
レアリィとセロフィア、二人の力が僕には必要なのだ。
そのためにも、僕は二人から勇者として認められなければならない。
「……エンシェント・ウルフを倒して来なさいよ……」
しばらくの間を置いてから、レアリィが小さな声で答えた。
「レアリィ、それはあまりにも……!」
喋りかけたセロフィアの言葉を遮って、レアリィは大声をあげた。
「エンシェント・ウルフを討伐してみなよ! アタシ達ができなかったことを、やってのけてみせてよ! そうしたらいくらでも、アンタのことを勇者だと認めてやるよ!」
俯いたレアリィの目から大粒の涙がこぼれる。
それにつられてか、セロフィアも嗚咽を漏らし始めた。
二人は今、大きな挫折感と絶望感に押しつぶされそうになっているのだろう。
「討伐に成功できれば、認めてくれるんだね……?」
僕の言葉を聞いて、レアリィが顔をあげる。
「アンタ、何を言ってるの……?」
「僕がエンシェント・ウルフの討伐に成功しさえすれば、二人は僕のことを勇者だと認めてくれるんだよね?」
僕は真顔でレアリィに問いかけた。
「ちょっ! 本気なの!?」
「いくらなんでも、それは無謀過ぎます……!」
僕は二人にちゃんと勇者として認められたい。
その上で僕の仲間として、冒険の旅に一緒に付いてきて貰いたい。
そのためだったら、エンシェント・ウルフの討伐だってこなしてみせる!
今の僕には、並外れた強さと、この世界についての知識がある。
それらを駆使すれば、一人でエンシェント・ウルフを倒すことだって、できるはずだ!
「……分かった。その代わり約束して欲しいんだ。僕がエンシェント・ウルフを倒せたら、二人には仲間として僕に付いてきて欲しい!」
そう言うと僕は、呆然とする二人を残して教会を後にした。
僕は城下町のバザーにある薬屋を訪れた。
「<体力回復薬|ポーション>>が欲しいんだ。持てるだけの体力回復薬を売って欲しい」
「体力回復薬だね? あいよ」
鞄の中を体力回復薬でいっぱいにした後で、僕はたった一人でエンシェント・ウルフを討伐するための旅に出た。
レアリィと同じように虚ろな目をして、セロフィアが僕に言う。
その頬には、鋭いひっかき傷のような跡が残っていた。
あの清楚で美しいセロフィアの顔が……なんて惨いことを。
「そんなワケないだろう! 皆のことが心配で、僕はここに来たんだ!」
「……防御がそこにいるのか……?」
喋ることさえやっとといった感じで、グレリオが言葉を口にする。
「グレリオ……!」
体中に撒かれた包帯が実に痛々しい。
僕は言葉を失った。
「すまない……。折角、こうして見舞いに来てくれたんだ。握手のひとつでもしたいトコロなんだが、手がまともに動きゃしない……」
僕は自分の方からグレリオの手を取った。
「こんな有様じゃあ、もう二度と、剣は握れないよな……」
「どうして、どうしてこんな、酷いことに……!」
「俺が悪いんだ……。エンシェント・ウルフを倒すことに拘り過ぎて、撤退のタイミングを見誤ってしまった……。その結果、レナウドを死なせることになってしまい、俺もこの有様だ……ぐうっ!」
体に激痛が走ったのか、グレリオが悶える。
「これでもう、神様からの啓示を叶えることも難しくなっちまった……勇者と呼ばれるには相応しくないな……ぐあっ!」
「喋らなくていい! もう喋らなくていいよ、グレリオ!」
「……防御……君に頼みがある。俺の鞄の中を見てくれないか……」
グレリオの言葉に従って、僕は部屋の脇に置かれた鞄の中を覗き込んだ。
「これは、玄武のオーブ!」
中に入っていたのは、四聖獣のオーブのひとつ、玄武のオーブだった。
「俺に変わって、四聖獣のオーブを集めてくれ……! そして、魔王の侵攻から、この世界を救ってくれ……!」
「僕が……僕が、グレリオに代わって、勇者をやれって事?」
「君にしか、頼める者がいないんだ……。お願いだ……!」
グレリオがそう言うと、グレリオの体から黄金色のオーラが立ち昇った。
「これは、聖光法力……!」
セロフィアが声をあげる。
神に選ばれし『勇者』と呼ばれる存在のみに宿る聖なる法力だ。
黄金色のオーラは、今度は僕の体へと入り込んだ。
僕の体に何か、神々しい力が湧き上がるのを感じる……!
「ほら、神様も言ってるぜ……? 君に勇者をやれってさ……」
「僕が……僕が新たな勇者になったって事……?」
「ぐあっ……! 喋り過ぎたせいか、眠くなってきちまった……。少し眠らせてくれないか……。」
そういうとグレリオは口を閉じた。
やがて、静かな寝息を立て始めた。
「グレリオ……」
僕はそっと、グレリオが眠るベッドから離れた。
ラオウールである僕が、グレリオに代わってこの世界の勇者になる……?
そんな展開になるなんて、考えてもみなかった。
「認めない……! アンタみたいな奴が勇者だなんて、アタシは絶対に認めない!」
レアリィは目に涙を浮かべて僕を睨みつける。
彼女の中では、僕はまだ『防御くん』のままなのだろう。
「神が……。神が彼を勇者と認めたのです。私は、神がお決めになられたことに従うしか、ありません……」
セロフィアの口ぶりからして、僕が勇者として認められたことは、彼女にとっても不本意であるようだ。
「……どうすれば良い? 何をすれば、二人は僕が勇者であると認めてくれる?」
僕は二人に問いかけた。
いくら僕が強くなったとはいえ、一人で魔王を倒すことはできないだろう。
仲間の協力が欠かせないのだ。
レアリィとセロフィア、二人の力が僕には必要なのだ。
そのためにも、僕は二人から勇者として認められなければならない。
「……エンシェント・ウルフを倒して来なさいよ……」
しばらくの間を置いてから、レアリィが小さな声で答えた。
「レアリィ、それはあまりにも……!」
喋りかけたセロフィアの言葉を遮って、レアリィは大声をあげた。
「エンシェント・ウルフを討伐してみなよ! アタシ達ができなかったことを、やってのけてみせてよ! そうしたらいくらでも、アンタのことを勇者だと認めてやるよ!」
俯いたレアリィの目から大粒の涙がこぼれる。
それにつられてか、セロフィアも嗚咽を漏らし始めた。
二人は今、大きな挫折感と絶望感に押しつぶされそうになっているのだろう。
「討伐に成功できれば、認めてくれるんだね……?」
僕の言葉を聞いて、レアリィが顔をあげる。
「アンタ、何を言ってるの……?」
「僕がエンシェント・ウルフの討伐に成功しさえすれば、二人は僕のことを勇者だと認めてくれるんだよね?」
僕は真顔でレアリィに問いかけた。
「ちょっ! 本気なの!?」
「いくらなんでも、それは無謀過ぎます……!」
僕は二人にちゃんと勇者として認められたい。
その上で僕の仲間として、冒険の旅に一緒に付いてきて貰いたい。
そのためだったら、エンシェント・ウルフの討伐だってこなしてみせる!
今の僕には、並外れた強さと、この世界についての知識がある。
それらを駆使すれば、一人でエンシェント・ウルフを倒すことだって、できるはずだ!
「……分かった。その代わり約束して欲しいんだ。僕がエンシェント・ウルフを倒せたら、二人には仲間として僕に付いてきて欲しい!」
そう言うと僕は、呆然とする二人を残して教会を後にした。
僕は城下町のバザーにある薬屋を訪れた。
「<体力回復薬|ポーション>>が欲しいんだ。持てるだけの体力回復薬を売って欲しい」
「体力回復薬だね? あいよ」
鞄の中を体力回復薬でいっぱいにした後で、僕はたった一人でエンシェント・ウルフを討伐するための旅に出た。
1
あなたにおすすめの小説
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる