桜色のネコ

猫人鳥

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通報と嘘

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*圭視点です。

 午前6時頃、猫の人が目を覚ました。
 最初こそぼーっとしていたけれど、ちゃんと言葉が通じているみたいで安心した。

 名前を聞いてみたらすぐに"ハル"だと答えてくれたし、スープも喜んで飲んでくれたので、警戒心がかなり薄い人なのかもしれない。
 とりあえず、キャットフードを出さなくて良かったと思う。

 寝起きだからか記憶が混濁しているようで、僕の質問を反復するような返事しかしていなかったけれど、突然、

「あっ!」

と、大きな声をあげた。

「どうしました? 大丈夫ですか?」

 何かを思い出したようで、考えているみたいだ。
 初対面の僕があまり話しかけても落ち着けないだろうと思うし、少し様子を見ておこう。

「ごめんなさい、手当てをして下さったんですね。ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず」
「こんなに美味しいスープまで貰ってしまって大変申し訳ない限りなのですが、お礼には後日参りますので帰ります! んっ……」

 考えが纏まったのか、今度は捲し立てるように話しながら急に立ち上がり、歩き出そうとしてよろけている……

「大丈夫ですか? 急に動いたら危ないですよ」
「で、でも、早く帰らないと……」

 足の怪我は大きかったし、出血量も多かった。
 それに僕は手当てと言っても消毒と包帯をした程度だ。
 医学に詳しい訳でもないので、ちゃんとした止血は出来ていないだろう。
 歩くために足に力を入れたせいか、包帯が血で滲んできているのが見える……

「何か、早く帰らないといけない用事があるんですか?」
「……急いで電話を掛けなきゃいけないんです……でも電話が家にあって……」
「電話? どうぞ、使って下さい」

 こんな状態で動いたら危ないし、何か急いで帰らないといけないのかと思わず聞いてしまったんだけど、ただ電話をかけたいだけみたいだ。
 電話くらい僕のを使ってもらえばいいので、僕は携帯を手渡した。
 でもそれは、

「あの、お気持ちは大変ありがたいのですが、この携帯だと足がついてしまいますので……」

という、なんとも言えない理由で拒否されてしまった。
 誰からかかって来たのかが分かるのが、困るという事なんだろうか?

「えっと、聞いていいのか分からないのですが、何処に電話をかけたいんですか?」
「……警察ですね」

 警察に電話?
 これだけ急いでいるんだし、おそらく何かの通報をしたいんだろう。
 怪我をしていた事から考えると、危ない事件に巻き込まれてしまったのかもしれない。
 素性が特定される事を嫌がっているのは、猫になれるからとかだろうし……

「それなら使ってもらって大丈夫ですよ。もし後で警察に聞かれたら、知らない人に急に電話を貸して欲しいと頼まれた……って言えばいいだけですし」
「それは、あなたに迷惑がかかってしまいますから」
「お気になさらず。それに、その怪我で帰るなんて危ない事させられませんよ。安静にしていて下さい」
「ですが……」
「急いでいるんですよね? 早くかけた方がいいですよ」
「じゃあ、ごめんなさい……お借りします」

 悩んでいるようだったけど、やっぱり急ぎの用事みたいだ。
 僕が近くにいてはかけづらいだろうし、スープの食器でも片付けていよう。
 とはいえ一応会話は聞いておく。
 そうは見えないけど、犯罪者とかだったら困るから……

「××から○○工場跡地で取引があります。複数人で拳銃等を多数所持していると思われるので、気をつけて向かって下さい」

 名乗りもせず、ただ淡々と告げるような通報だった。
 冷たい雰囲気はありつつも、警察の人を心配している感じもする。
 優しい人……いや、優しい猫みたいだな。
 僕のスープも美味しいって言って笑ってくれたし。

「あの? 電話、ありがとうございました」
「お役に立ててよかったです」

 深々と頭を下げながら僕に携帯を返してくれたので、そのまま普通に受け取ったけど、まだ何か言いたそうに見える。
 自分の素性が特定される事を嫌がっていたし、多分僕の携帯を使った事で、僕が警察から聞かれる事を気にしているんだろう。
 
「それでですね、あの……」
「大丈夫ですよ。警察に聞かれても、ちゃんと急に現れた知らない人に貸したって言っておきますから」
「あ、ありがとうございます……」
「そんなに心配しないで下さい。そもそも拾った猫が人になって電話を使ったなんて事は言えませんし、容姿とかも適当に嘘を言っておきま……」
「それはダメですっ!」

 僕が話していたところを、急に少し大きめの声で遮られた……?
 それも怒っているみたいな感じだ。
 一体何がダメなんだろうか?

「あの?」
「嘘はダメですよ! 私の為に嘘をついてくれようとしているのは分かっていますが、嘘をついてはいけません!」
「嘘、ですか?」
「警察に聞かれても、ちゃんとこの容姿の人に頼まれたって言って下さい!」
「……それは、猫が人になったとかもですか? そんなに知られて大丈夫なんですか?」

 どうやら僕の、容姿は適当に嘘を言うという発言に怒ってるみたいだ。
 自分の素性を隠したいのかと思ったけど、そうでもないのか?

「えっと……猫とかの事はそうですね、知られたくはないですが……」
「分かりました。どのみち猫が人になったなんて話は信じてもらえないでしょうし、嘘は言わずに言える事だけを言いますね」
「そうですね! それでお願いします」

 つまり、嘘はついてないけど言っていない……という理論なら問題ないんだろう。

「何から何までありがとうございます」

 やっと落ち着けたのか、少し胸を撫で下ろすようにため息をついたかと思うと、今度は正座をして、深々と頭を下げながら僕にお礼を言ってくれた。
 こんな、土下座のような感謝をしてもらう程の事はしていないんだけど……

「困った時はお互い様ですし、気にしなくて大丈夫ですよ。この家もハルさんの過ごしやすいように使ってもらっていいですから」

 僕がそう言うと、かなり驚いたような顔をした。
 本当に顔に感情が出やすい人なんだな。
 
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