目指せ 成仏

小梅カリカリ

文字の大きさ
4 / 8

尼僧達の願い

しおりを挟む
 蓮が出て行った後、鏡から小さな声が聞こえた。
「ヒトヲ ノロッタ ワタクシガ マモレルカシラ」

 鏡は迷っているのだろうか、淡く光ったり黒くなったり忙しない様子でカタカタと震えている。鏡のいる部屋から外にカタカタと音が響いていた。

「蓮様に話を聞いて動揺しているのかしら。」
 楓は鏡のいる部屋に入っていった。
「こんにちは、鏡さん。私はこの尼寺の規律を担当している楓と申します。」
 震えが止まった鏡。
「コンニチハ カエデサン」

 挨拶をする鏡に楓は目を細め、優しい顔になる。
「蓮様から鏡さんのお話は伺いました。鏡さんも色々悩んでいらっしゃるのかしら。
 でも、鏡さん。守り鏡様になって善行を積みながら、私達と一緒にここで暮らしませんか。」

 鏡は何も反応せず動かない。「この尼寺で一緒に暮らす者達は、皆家族だと思っています。一緒に暮らすかどうか考えて頂く為にも、まず、私達と尼寺の事を説明させてください。」

 楓の言葉に反応し、黒い鏡が淡く光りだした。
「カゾク  ヒトヲノロッタ ワタクシガ ニソウサマト カゾクニ? 」
「鏡さんは人を呪った事を気にしているんですね。鏡さんは人を呪った罰は、もう受けているでしょう。
 人を呪おうとした事を気に病む心があるのです。守り鏡となって他者への善行を積んで、成仏への道をめざしませんか。」

 鏡は楓の言葉を考え込んでいるのか全く動かなくなった。鏡の様子は気にせず楓は話を続ける。

「この尼寺は蓮様の旦那様が逝去し、出家なさった蓮様の為に作られたお寺なのです。私達、蓮様と私を含めて、このお寺の尼僧は10名おります。皆、蓮様に仕えていた者達です。」

 そこまで話すと楓は、そっとため息をついた。
「この尼寺では、様々な事情で逃げてきた女性や子供を匿い、別の場所で生活していけるように支援しています。
 蓮様はたまに京の街に呼ばれてお祓いなどもしていますが、基本的に私達はこのお寺か村から出る事はありません。
 逃げてきた者達を追ってくる者達もいます。悪しき者が寺へ侵入しようとするのを阻止するだけでなく、村が襲われても対処できるように村人達に武術も教えております。」
「アシキモノ キケンデスネ」


 鏡の言葉を聞いて楓は大きく頷き、鏡をそっと手に持った。
「そうなのです。尼寺は女性だけなので盗賊等に狙われる事もあり危険が多いのです。
 幸い、私達は強いので全て捕まえるか撃退してしまいますけれど、いちいち相手をするのが本当に面倒で、苛々してしまいます。
 自慢にはなりませんが、鏡さんにとっては善行が沢山行える良い場所です。」

 話しているうちに興奮しているのか、徐々に楓の声が大きくなり鏡を持つ手にも力が入っていた。

 楓の声が外に響いた事もあり、若い尼僧達が入ってきた。
「楓様、声が少し大きいですわ。落ち着いてくださいね。
 初めまして鏡さん、私は弥生と申します。これからよろしくお願いします。」

 他の尼僧達も全員やってきて挨拶をすると、次々に鏡に話しかけた。
「鏡さん一緒に暮らして家族になりましょう。私達、鏡さんの事歓迎しますよ。ここの皆は優しい人が多いのです。何も怖くはありません。」
「人助けや善行を難しく考える必要はありません。例えば村の子供が大きな木に登って降りられなくなる、それを知らせて助けるのも善行ですよね。そういう事を100積み重ねていくだけです。」
「私達もいますから、鏡さんが迷ったり困った時には相談にのります。」

 皆、呪い鏡の中に入る魂が消滅しないように一生懸命語りかける。鏡に心配している優しい尼僧達の顔が映りこむ。

 いつの間にか部屋に来ていた蓮がその光景を見て嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「鏡さん。守り鏡になって私達と一緒に暮らしながら善行を積み、成仏を目指しましょう。
 私達の尼寺も村も、楓の言うように狙われる事が多く、守り鏡様が行える善行は沢山あると思います。
 皆、あなたに守り鏡になって成仏の道を歩んで貰いたいと思っているのです。」

 蓮の言葉を聞きながら、鏡に映る他の尼僧達の顔を見ていた鏡。
「ミナサマ アリガトウ  ワタクシ マモリカガミ ナリマス」

 鏡が宣言すると光に包まれた。光が消えると黒い鏡は無くなり、綺麗な輝きを放つ白い鏡が現れる。守り鏡となった鏡を見て、笑顔で嬉しそうに喜びの声を上げた尼僧達。

 守り鏡が力強い声で宣言すると、尼僧達も一緒に声を上げた。
「ゼンコウツミ ジョウブツ メザス」
「目指せ成仏 100の善行。」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

元恋人が届けた、断りたい縁談

待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。 手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。 「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」 そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...