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消えた猫 捜索依頼 ①

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 今月もまた【何でも屋】の日がやってきた。
 雪と香と花の3人は朝の8時から各自朝食をもって店舗に集合する。前回は依頼でゆっくりと語り合えなかった為、久しぶりに会った3人は朝食を食べつつ、早速最近やりだした探偵ゲームについて話している。
「何だか最近、自分でストーリーを作った方が良いって思っちゃう事があるんだよね。キャラの答えが少し違うっていうか。それここで言っちゃうのっていう事が度々あってさあ。」
「あー。分かるわそれ、なんかちょっと期待と違うと悲しい気持ちになる。展開も不自然な気がしちゃうとやる気もなくなるし。」
「私は最近、バタバタしていてゲームはやってないんですよ。いいなあ。」
 賑やかに話していると、10時を過ぎた頃誰かが訪ねてきた。また木田さんの奥様かもと思いながらドアを開ける。すると、前回の依頼者田中さんが立っていた。

「おはようございます。前回はありがとうございました。」
「おはようございます。田中様、こちらこそありがとうございました。子猫のサンマちゃん、元気にしてますか。」
「ええ、とても元気のいい子であちこち登ったり走ったり、毎日賑やかで楽しいですよ。」
「それは良かったです。どうぞ中に入って下さい。」
 そういうと、田中さんが歩き出した。田中さんの陰になってて気付かなかったが、後ろに小柄なお爺さんが2人いるのに気がついた。これは、まさかの依頼2件目なのかなと目を合わせる3人。

 田中さんが挨拶をした後、今日来た理由を説明してくれる。
「前回は親身になって対応して下さってありがとうございました。皆さんのおかげで無事に解決して、今はとっても楽しい毎日を送っています。
 今日伺ったのは、こちらのお2人から相談を聞いて【何でも屋】さんを紹介したいと思ったからなんです。
 こちらのお2人は、私の猫仲間です。自分の猫の、飼い方の相談や自慢話をする会に参加しているんです。【幸せ猫飼い】という名前です。私が最近猫を飼い始めたばかりだから、不安な事もあるだろうからって、NPOの方が紹介して下さったんです。
 保護活動のNPO紹介の会だからか、半野良猫を飼っている方も多くて、お2人の猫ちゃんも半野良猫なんです。いつもは毎日2回、決まった時間にご飯を食べに来ているんだけれど、ここのところ1週間も来ていなくて心配しているんです。」

 お爺さんの1人が悲しそうに話し出す。
「そうなんです、初めまして池田と言います。私は猫の事はポン君って呼んでいるんです。真っ白で綺麗な子なんです。人懐こい子で他の家でも飼われていたようでして。
 こちらの畑さんの猫ちゃんも最近姿を見ないという事でどうせなら2人で一緒に探そうという事になったんです。それで、写真を見せて貰ったらポン君にそっくりなんですよ。特徴を聞いてこれは同じ猫だろうという事になって。畑さんの猫はコウ君です。」
「初めまして、畑です。【幸せ猫飼い】で相談していたら、こちらの【何でも屋】さんで田中さんが猫を飼うきっかけになった、事件を解決した話を聞きました。とても豊かな発想力をお持ちの皆さんに、是非猫の発見を依頼したいという事になって池田さんと一緒にお伺いしたんです。」

 特に危険な事もなさそうだし、田中さんの紹介で身元もはっきりしている。香が話を進めるか花と雪の方を見ると2人とも頷いた。
「そうでしたか、田中様ご紹介頂いてありがとうございます。では最初に当店の依頼の受け方や守秘義務に関しての説明をさせて頂きます。」
 香は前回同様に説明を済ませる。今回は落ち着いているので手慣れたものだ。池田さんと畑さんは頷くと、問題ありませんと言って依頼内容の説明を始めた。

 まずは池田さんの説明が始まった。
「私の家には、毎日朝5時頃と夕方4時頃に、畑さんの家には朝10時頃と夜7時頃にご飯を食べに来ていました。8日前からいつもの時間に来なくて、心配はしていたんですけれど人懐こいから新しいご飯先を見つけたのかと思っていたんです。
 でもやっぱり心配で4日前【幸せ猫飼い】で相談すると、畑さんも猫が来なくなったと話していたので一緒に探す事になりました。会の皆にも手伝って頂いて、猫を探したんです。
 今まで探したのは、保健所、近くの動物病院、私達の家の周辺で写真を見せて近所の人が見かけたという所を探しに行ったり、ネコ仲間達が知り合いに話しを聞いてくれて情報を集めました。
 その結果、8日前までは猫を見かけた人達もいたんですけれど、その後は見た覚えがないと言っている事が分かったんです。」

 地図を取り出した畑さん。地図はこの地域が拡大されたもので、あちこちに小さい丸いシールと日付と時間のかかれた付箋が貼られている。
「このシールが猫が現れた場所で、付箋に書かれているのが最後に猫を見た日付とおおよその時間です。」
「凄いですね。これだけの目撃情報を集めるのは大変でしたでしょう。」
「いえ、皆さんに協力して頂いたおかげです。NPOの保護グループの人達にも協力して頂いた事も大きかったです。」
 香が、2人を見ると、下の方でこっそりと指で〇を作っている。この依頼は2人とも引き受けたいようだ。
畑さん達3人は、少し緊張して香を見ている。
「分かりました。この依頼お引き受け致します。契約面等の調整をしますね。準備ができ次第ご連絡しますが、メールと電話どちらが宜しいですか。」
 2人ともメールでという事だったので午後には連絡すると話す。田中さんにもう一度お礼を言うと3人をドアの外まで見送った。

「猫つながりで依頼が来るなんて不思議な縁ですね。そういえば今朝、あのアジが【何でも屋】のドアをペシペシ叩いてたんですよね。お客を紹介するからアジを頂戴って事だったのかななんて思っていたんですけど。次来たら何かご飯ご上げようかな。」
 笑っている花を見て、香も微笑んだ。
「猫のアジに魚のアジを持って行ったほうがいいかしら。田中さんの件が解決しなかったら今回の依頼はなかったし、前回アジが自ら犯人だって名乗りに来た感じで解決したものね。」
 雪も笑いながら頷いた。
「なんかほんわかするね、猫が運んでくる依頼って。アジとは縁があるのかも。
 田中さんも随分元気になっていたね。事件解決と子猫の癒し効果かな。人懐こい猫かあ。無事だと良いけど、誰かについていっちゃたのかな。」
「どうかしら。取りあえず契約書をどうするか決めましょう。午後には畑さん達を呼んでもっと詳しい話を聞きたいし。」
「そうですね、多分前回7千円でやったって聞いてるでしょうね。今回から1万円にします?」
「そうだね、金額はそれでいいと思う。安すぎて変な依頼とかきても困るし。便利屋さんみたいになっちゃわない様にしないと。」
「そうね、私も相場より少し安いくらいでちょうどいいと思うわ。日数どの位かかるかしら。見つかるまでやるのか何日間か探して止めるのかによっても変わるわよね。」
「うーん、でもやれることは全部やってあるって感じだし、1日で良いんじゃないかな。多分あちこち探しまわる事は期待してないと思う。これだけ探して見つからないなら、少なくともこの町内は、この猫いないんじゃないかな。
「なるほど、誰かの家の中にいるか町から出て行ったかですね。
最後に目撃されたと思われる場所を探して行く感じかな。それだと雪さんの言うように1日で良さそうです。」
「じゃあ、1日で1万円という契約でやりましょう。14時にここに来て貰う感じで良いかしら。」
「そうだね、契約書を作ってから連絡した方が良いと思う。メールをしたらすぐに来ちゃうかもしれないし。」
「そうする。まあ、気持ちは分かるし早く見つけたいものね。でも4日探して見つからないって事は私達に依頼して諦めて捜索終了するつもりなのかもね。私契約書作っちゃうわ。」

 香が契約書を作り出すと、お昼の準備をする雪と花。
 商店街で大サービスと書かれていたローストビーフを買ってきていた花。それを雪に渡すと雪は醤油ベースのタレを作り柚子胡椒等のドレッシングを添える。お昼はローストビーフ丼にミニトマトタップリの和風サラダだ。
 契約書が完成し、雪と花もチェックした後香は2人にメールをした。2人とも14時に店舗に来れるそうなので、その時に契約の説明をする事を伝えた。

 仕事を終え楽しみにしていたランチを食べる3人。
「ローストビーフ柔らかくておいしいわ。普通にお店で食べてるのと変わらないかも。雪の作ったタレの柚子胡椒がアクセントになって良いわよね。お肉持ち帰りだと随分お買い得になるわね。」
「大サービスとかの割引が狙い目ですよ。ミニトマトもいっぱい入っていて安かったですし。
いくつもお店が固まっていると、1ヵ所で色々揃うから便利ですよね。
 近所の旦那さんで朝一でパン屋に来て、奥様と一緒に食べるパンを買って帰る人がいるんですけれど、焼き立てパンが毎日食べられて最高だって言ってます。木田さんの事です。」
「ああ、木田さん。確かに焼き立てパンは美味しいよね。残念な事に家の近所にパン屋さんないから、夜作って朝焼く事がごくたまにあるけれど、本当にいい香りがして皆朝早いのに起きて食べに来るよ。ほったらかしておくだけで出来るっていうパンなんだけど、焼き立てだとパリパリで結構美味しいの。」
「聞いてたら、お昼食べてるのにパンも食べたくなってきちゃたわよ。」
 笑いだす3人。暫く雑談で盛り上がっていたが、彼らが来るまでに決めなくちゃと、質問事項を纏め始めた。質問はじゃんけんで決めるのは止めて、3人で交代でやっていく事になった。今回は雪が質問、補佐役が花、臨機応変に対応する役が香である。

 皆の相談が始まった。
「人懐こい猫って聞いているけど、もう少し詳しく猫の性格を聞かないとね。後は他にこの猫に餌を上げたり可愛がっていた人がいないかと質問はこの位かしら。それと、猫の写真もいるわね。」
「これだけ情報が集まるって結構な人数が参加していそうです。猫仲間のネットワークって広いんですね。犬だとお散歩でお友達になったりするのはよく聞きますけれど、猫はどうしているんでしょう。」
「飼い主の年代によるのかも。若い人はそうでもないかもしれないけれど。猫の餌売り場で良く、おば様同士がお友達になっていくのを見るわよ。そこからお互いの猫好き仲間の紹介になって広がっていくって感じなのかしら。」

 そんな話をしながらご飯を食べおえ、スマホや書類等の準備を整えていった。
 念の為に、保健所と近所の動物病院にも白い猫の保護情報や来院情報の問い合わせをする。どちらも今現在までは来ていないとの事だった。

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