上 下
15 / 39

リリーナの破局

しおりを挟む
 資料室に戻ってきたコロンとジン。ジャンが2人に話しかける。
「悪魔族の臨時予算があったから大変そうね。暫くは資料室通いかしら。」
「どうかな、でも明日も来ますよ。」
 不満げな顔をしているコロンが、ジャンに大臣の明日の予定を尋ねてきた。
「ジャンさん、聞いてよ。お昼にランをね、中庭に連れて行ってあげたのよ。そうしたら部長達が奥の木陰にいて、仕方ないから部屋でデザートを食べたのよ。
 明日行きたいんだけど、明日って大臣いるんだっけ。」
 それを聞いたジャンは笑いだした後、教えてくれる。
「そうねえ、どうだったかしら。でも2日続けて同じところには出ないから、明日は中庭は大丈夫よ。」
「財務大臣も仕事時間の確保が大変よね。週末は吸血鬼の友人に会いに行って、平日は部長と一緒。」
「それなんだけどね。コロンちゃん、あなた達同じ部署だから知っておいた方が良いかもね。
 この前臨時会議があった時に吸血鬼の代表が私に会いに来て教えてくれたんだけど、大臣が会っているのは友人じゃなくて恋人なのよ。つまり、二股。」

「なんですってーー。」
 驚いて叫んだコロンと、うめき声を出したジン。
「そうでしょ、叫ぶわよね。あんなにいちゃついてるのに、吃驚よ。
 しかも、大臣は病気の彼女の治療の研究に多額の寄付をしているんですって。つまり、吸血鬼の彼女が本命っぽいのよね。
 リリーナちゃんって恋愛に疎いじゃない、気がづけないと思う。恋に関してだけは、本当に純粋な子なの。ごたついてリリーナちゃんが辞めたりすることのないようにフォローしてあげないと。」
 そう言った後、暫く黙って考えていたジャン。
「ねえ、これって面倒な事になるかもしれないわよ。常に予算部の弱みを探している奴がいるじゃない。
 傷つけて周囲からの孤立を狙って、病気の彼女がいるのに誘惑した女だとか適当な嘘と一緒に噂を流すのが出るわね。
 リリーナちゃんを追い出して、他の誰かを部長に出来るかもってね。追い出せても都合のいい人が部長になる事はないのに、そういう人は分からないから。」
「そうね、逆に自分の評価が下がるだけだけど、そんな事も分からない人っているものね。
そもそも、知っていたらあの部長なら身を引くと思う。というか、病気の彼女がいるのに何しているのって大臣を軽蔑しそう。他から聞く前に、私が教えた方が良いわね。ありがとう、ジャンさん。」
「良いのよ。職員の中でもあれこれ言う人は多少はいるでしょうけれど、その位は仕方がないわね。」
「そうね、じゃ早速部長を探して伝えてくるわ。ジン、すぐ戻るからよろしくね。」
「うん、いってらっしゃい。」
「私も一緒に行くわ。ジン君、悪いんだけれど、ここよろしくね。」
「はい、いってらっしゃい。部長の事をよろしくお願いします。」

 ジャンのネットワークにより、リリーナの居場所を特定した2人。
 周囲を見て誰もいないのを確認したジャンがコロンに頷く。コロンは後ろからリリーナに近づくと無言で手招きをしてすぐ近くの部屋に入る。リリーナが続いて入ると、最後にジャンが入りドアを閉めて結界をはった。
「どうしたの、何か問題でもあったのかしら。ジャンさんまで一緒だなんて。」
「部長個人の問題なんだけど、まず部長と財務大臣が付き合っているのは皆知っているの。」
「んんん。どういう事。」
 いきなり自分の恋愛の話が出て戸惑った顔をしているリリーナ。そんなリリーナは気にせずにコロンが話を続ける。
「城中、みーんな知ってたの。部長達人気のない所でいちゃついてたでしょ。そういう所は警備の関係上、兵士や城の職員達もしっかりとチェックしているのよ。
 彼らの方が能力的には上だから、”ピシ”っと結界をやっても聞かれちゃうのよ。兵士は何も言ってないけれど城の職員はね・・・・・・。」
「じゃ、じゃあ。今までのは殆ど知られているって事なの。そんなの恥ずかしすぎる、もう泣きそう。」
 思わずしゃがみこむリリーナを、慰めるようにジャンが頭をなでている。竜族のジャンからしたら悪魔族のコロンもリリーナも可愛い子供と変わらない。勿論人間のランも。

 ため息をついて、悲しそうな顔をしたコロンは本題に入る。
「問題はそこじゃないの。部長には辛い話になると思う。大臣が休日は吸血鬼の友人に会いに行っているのは部長も知っているでしょう。」
 頷いたリリーナを見ると、ジャンがハンカチを差し出す。不思議そうな顔でハンカチを受け取ったリリーナ。
「吸血鬼の代表が話していたんだけれど、大臣が会っているのは友人じゃなくて恋人なのよ。
大臣は恋人の病気の治療を研究している機関に多額の寄付もしているそうよ。」
 黙ったまま頷いているリリーナ。暫くの間無言でいる。
「教えてくれて、ありがとう。少し1人になりたいの。後で彼と話してくる。」
「わかったわ。リリーナちゃん、話す時は普通の部屋が良いわよ。
それなら警備も来ないから、結界をはって個人的な話も出来るわ。それと、この話は城で知っている人は他にいないと思うわ。吸血鬼達もリリーナちゃんと大臣の事は知らないと思う。基本的に彼らと私達の種族は生活時間が違うから。」
「うん、分かった。ありがとう。」
 リリーナを1人にする為に、2人はそっと部屋を出た。

 資料室へと戻ると、ジンが声をかけてきた。
「お帰り、部長とは話せたかな。ジャンさん、誰も来ませんでしたよ。」
「ありがとう。ジン君。リリーナちゃんにちゃんと伝えてきたわ。ショックを受けていたけれど、後で大臣と話すそうよ。」
 心配そうに頷いているジン。
 黙っていたコロンが首をかしげながら2人に質問した。
「大臣は一体何がしたいのかな。職場で部長と毎日いちゃついて、休日は吸血鬼の恋人の所に通って、どっちも噂になって二股がすぐにばれるじゃない。どちらかとこっそり付き合っているならまだ分かるけれど。」
「意外と堂々としている方がばれない事もあるわ、実際、ばれてなかったんだし。
 私は彼はなかなか頭が良いと思う。吸血鬼と私達は生活時間が違うから一緒に話をする機会が少ないし、友人や知り合いになりにくいじゃない。政治や経済ならともかく、恋バナとか噂話なんて種族で内容が違うからお互い話さないし。城に来る吸血鬼の代表達もそういう話はしないしね。
 だからこそ今まで、他の人達に大臣の二股は気付かれていなかったと思うの。
 今回は私と代表の子がお友達で、食糧不足の話から吸血鬼の病気が話題になって大臣の話が出たけれど。
彼女も別に噂話をしようとしたわけじゃなくて、寄付に感謝している事を伝えようとしていたのよね。
 最初は褒めていたのに。あっ、彼女に口止めするのを忘れたわ、後で話しておかないと。」
「そういえば、私達も吸血鬼と幽霊の友人はいないわ、知り合いはいるけれど。噂話ってあまり親しくない相手にして軽蔑されたら嫌だから、お互い話題にしなかったのね。」
「皆そんな感じだと思う。ほら、ランちゃんのデートが今こっちで話題になっているけれど、吸血鬼も幽霊もそんなこと知らないんじゃないかしら。それと同じよね。」
「そうね、確かに。ランにその話を聞きたいけれど、ハルが一緒にいるからなあ。」
 残念そうな顔のコロンを見て、2人とも苦笑している。

「ねえ、大臣は吸血鬼の恋人の為に多額の寄付をしているでしょう。本命は病気の恋人よね。本命に知られたら悲しませるのは分かっているのに、リリーナちゃんに近づいた。それには何か目的があるんじゃないかしら、そこが気になるわね。」
「なるほど。それだと部長の気持ちを利用して、何かをしてたのかもしれないわね。部長を利用するとなると、予算関係しか思いつかないんだけれど。部長は大丈夫かしら。」
「何とも言えないわね。」

 ひとしきり泣いて、少し落ち着いたリリーナ。メイクを直すと財務大臣ケイ・タッカーを呼び出した。
「お仕事中に、個人的な事で呼び出してすみません。」
「いや、大丈夫だよ。どうかしたのか、リリーナ。」
 リリーナの顔を見て心配そうに声をかける大臣。
「今日、大臣の恋人の話を聞きました。吸血鬼特有のご病気で会いに行ってた方は友人ではなくて恋人なんですってね。どうして私に告白したの。」
 そういうと、大臣の事をじっと見つめているリリーナ。
「今は混乱していて自分でも何が言いたいのかよく分かりません。分かるのは私達が別れるという事。今後は2人で会う事はもうないという事。」
 何も言わずに黙ってリリーナを見ている大臣。そんな大臣を見ていたリリーナは無言で立ち去った。

 コロン達は残業をする事を伝えに、予算部の部屋に戻ってきた。
「今日は私達少し残業になるから、伝えに来たの。」
「分かったわ、頑張ってね。そういえば、部長も少し残業するそうよ。」
「そう。じゃあ皆、お疲れ様でした。」
 3人を見送ると、コロン達は資料室へと戻り調査を再開した。

しおりを挟む

処理中です...