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流れる噂

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 ランとレオンは朝の訓練をすませて、皆で一緒に朝食を食べている。
運動の後ということもあり、朝からしっかりと食べるラン。
「今日の仕事って普通にやるのかしら。調査対象だから仕事は出来なそうだけれど。お城に行って何をしていればいいんだろう。」
 ランの疑問にレオンが答える。
「ランは普通に仕事ができるんじゃないかな。来たばかりだし、不正は無理だろうと思われているよ。
朝行ったら調査対象から除外された人が発表されるだろうから、その人達が通常業務をしていくかな。ラン達の部署だと皆関係がありそうだから、ラン以外で誰が通常業務をできるのかは分からないな。」
「そうよね、私1人でも何かできることがあればいいんだけれど。行ったら皆に相談してみるしかないかな。」
 困った顔をしているランを見てファナが提案する。
「良い事考えた。暇だったら、私が稽古でもつけてあげる。」
 レオンは目を大きく見開き、ミーナが慌てて止めに入った。
「ファナ、あなたの稽古は人間には無理だから。その辺の竜か妖精で遊んでなさい。」
 ミーナの言葉に大きく頷いている周囲を見たラン。
「稽古は遠慮しておきます・・・・・・。 」
「私だって、手加減できるのに。人間相手の訓練もしてみたかった。」
 ファナの危険な呟きは皆聞こえなかったことにして流した。

 朝食を終えてレオンと一緒に出勤するラン。ファナの姿は見えないがどこかで監視しているのだろう。
レオンが結界をはり、城に向かってのんびりと歩いている2人。ランをチラチラとみている人達もいるが誰も近寄っては来ない。
「そうだわ、ディナーなんだけれど暫くは外食は辞めた方が良いんじゃないかと思うの。」
「そうだね、俺も話そうと思っていたんだ。こんな時は家で穏やかに過ごした方が良いからね。」
「折角誘って貰ったのに、ごめんね。」
「この件が落ち着いたら一緒に行けばいいよ。俺は家でランと一緒に過ごせるだけでも楽しいし。」
「うん。私も一緒に過ごせて嬉しい。」

 お互いの目を見ると、優しい表情で微笑んで話している2人。そんな時1人の妖精族の男性がラン達の方へと向かって歩いてくる。だが彼は2人に近づく事は出来ない。
 近づいてきていた彼の目の前に、いきなり竜が音もたてずに降りてきた。竜に変身しているファナだ。ファナは、男性を口でくわえて空に向かって勢いよく放り投げる。微かに悲鳴のような声が男性から聞こえたが、一瞬で上空にいった彼の声は下には届かない。彼は無事に上で飛んでいる別の竜にくわえられた。ファナも空に向かって飛ぶと彼を捕まえた竜に話しかける。
「ねえ、それ凄いお酒臭いんだけど。病気かもしれないね。お酒依存症チェックしてあげなきゃ、病院に連れて行ってあげて。」
 次に男性に向かって話しかけるファナ。
「良かったね、捕まえたのが優しい私で。病院に連れて行ってもらえるように頼んであげたからね。治療の研究をしている博士の実験台になるかな。博士の役にも立つし、この人は良くなるし良い事しちゃった。」
 男性は気絶していて返事はなく、男性をくわえた竜は病院に向かって飛んでいった。
「あの妖精男どっかで見たような顔だったけど、どこでみたんだろう。」
 不審者の対応を終えて満足げに頷いたファナは監視に戻っていった。

 空を見上げていたレオンは秘かに笑うと、城に入りランを部屋まで送り届ける。
「今日は定時で終わるから一緒に帰ろう。迎えに行くよ、ラン。」
「分かった。じゃあ待っているわね。また後でね。」
 部屋のドアを開けると、すでに皆揃っていた。
「おはようございます。皆さん。」
「おはよう、ポントさん。お母様に二日酔いの薬のお礼をお伝えしてね。おかげで皆元気いっぱいよ。」
 他の人達も挨拶とお礼をレオンに伝える。
「母も喜びます。では私はこれで失礼します。」

 レオンが去った後、リリーナが皆に状況を説明する。
「ホムラさんとアミとハルは調査対象から外れたわ。3人は通常業務ができるから、よろしくお願いします。コロンとジンもすぐに通常業務に戻れると思う。私は大臣が見つかって不正に関して結論が出るまでは無理だと思うわ。
 そろそろ噂が流されると思うから、大臣も出てくると思うんだけど。今日はあまり部屋にいないけれど、何かあれば知らせてね。」

 リリーナが部屋を出ていくと、皆で相談を始める。
「大臣めー。噂を聞いてー、早くー出てこーい。」
 アミがブスッとした顔で文句を言う。それに頷きながらコロンが皆に話す。
「部長が別れたっていう話、昨日の買出しに行ったお店で聞いたわよ。他にも広めている人がいるみたいね。私も買い物しながらその辺の人に話しておいたんだけど。」
「俺はワインのお店の店員とお客さん達に話したよ。」
 コロンとジンの話を聞いてハルが2人を褒める。
「2人ともいい仕事をしたわね。どちらも友人の多い噂話のプロだから、部長と大臣の別れ話は皆に広まったと思っていいわ。」
 拍手をしている3人と照れている2人。
「ファナさんが、ミーナさんに広めてくれるように昨日の夜話していました。」
「完璧よ。兵士達や城の使用人にも広まるわ。ん、ファナさんもミーナさんの所に来たのね。」

「私の事を呼んだかな。」
 突如窓が開いて、竜から人に変身したファナがいそいそと入ってきた。
「ファナさんいつの間に。そんな窓からじゃなくてドアから入ってきてください。」
「呼ばれたみたいだから来てあげたのに。それに私今ランの監視中なの。木の所にいたのに、ドアの方から行ったらランが見えなくなっちゃうじゃん。」
「なるほどー、でもー、もう必要ないですねー。」
 首を振るとにっこり笑ったファナ。ついでに、アミのほっぺたを軽くつねっている。
「ぷにぷにほっぺだね。今朝も、ランに質問しようと近づいた変な妖精男がいた。お酒臭かったから病院に連れて行かせてあげた。ラン弱いし狙われている。私必要。」
「痛いですー。ファナさんは必要でーす。」
 アミの訴えに頷くとつねるのを止めたファナ。ハルがファナに事情をきく。
「妖精って、どんな男性でしたか、ファナさん。」
「どこかで見た顔だと思って考えてたら、さっき思いだしたよ。どこかのお店で見た男だった。女の子口説いて失敗した男。星がなんとか綺麗でって言ってた、店内で星見えないのに変な事言う妖精男だった。病院にいったら会えるよ。」
「ああ、分かりました。ごめんね、ラン。そいつは近づけない様に処理しておくからね。」

 ハルとアミが皆から離れると、ランは噂について聞いてみた。
「大臣をおびき出せると良いですね。各国にも広めているんですか。」
「勿論よ、ラン。予想通り吸血鬼の恋人の研究費用に関しての噂がいくつか流れているわね。不正の金額と同じ額が見つかったからそれが返還されるとか、不正で得た寄付金じゃないと証明されないと吸血国が返還するといった感じね。吸血国の代表も、明日には城を訪問するという噂も流れているわ。」
 コロンの話を聞いてランは言う。
「すでに大臣が犯人状態の噂ですね。それなら、大臣も出て来そうですね。とりあえず釈明をしないと寄付金が返還されてしまうかもしれないと思って。」
「そうだね、上手くいくと思うよ。後は部長の関与の事がどうなのかが、はっきりとすれば良いんだけれど。そうしたらその後に、今後の対応策とか犯人への処罰の話し合いとかに事態が動いていくからね。」
 ジンの言葉に皆、部長の関与が無いと証明されて欲しいと話していた。
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