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04.辺境伯家へ
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時が流れるのは早いもので、十六歳になった私は、お母様の従兄にあたる、セオドア・エルドリッジ辺境伯のお邸に、行儀見習いの為にお世話になっていた。
私は結婚適齢期とされる十八歳前後まで、お相手が見つかるまでの間、こちらでお世話になることが決まっている。
ここに来るにあたっては、私を溺愛するお父様との間で一悶着あったのだが、お母様が一喝して黙らせてくれた。
お父様的には、自分の配下の有望な騎士と結婚させて、手元に置いておきたいと言う気持ちがあったみたいなんだけど、できれば王都から離れたいという私の強い気持ちを、お母様が汲んでくれたのだ。
お母様的には、騎士の妻の苦労を知っているから、騎士に嫁がせたくないという思惑もあったみたい。
ちなみにお母様は筋肉フェチだった。だからお父様を選んだんだね……。
エルドリッジ辺境伯は、このフレイア王国の北の国境を守る高位貴族である。
貴族の位は公・侯・伯・子・男となっているが、辺境伯家は国境を治める要職についているため、侯爵と同等の立場と、私設兵団を所有しても良いという特権を許されているのだ。
歴史と伝統のある領主貴族である伯父様の領地にあるお邸は、私の実家であるルース男爵家の邸とは、比べ物にならないくらい大きくて立派だった。
邸というより城館と言ってもいいかもしれない。
四角いケーキにロウソクが刺さったような重厚な外観は、二百年ほど前に活躍した、有名な建築家によって建てられたものらしい。
およそ二十平方キロメートルもある広大な敷地には、辺境伯家が所有する私設兵団の駐屯所や礼拝堂といった施設が併設されており、当然、邸で働く使用人の数も、ルース男爵家とは比べ物にならなかった。
うちは、お父様の騎士としての俸禄が収入源だ。領地を持たない、いわゆる宮廷貴族と言うやつなので、邸もこじんまりとしているし、使用人は、女の召使い三人と、ロイの四人しかいなかった。
これは、使用人を雇う余裕のある層のなかでも、中の上くらいという位置づけである。
エルドリッジ辺境伯家は、それとは比較するのもおこがましくなるくらい規模の大きなお家だ。
雇われている使用人の数など数え切れないくらいで、使用人を管理する上級使用人まで雇われている。
使用人の世界も男尊女卑が激しくて、男性の使用人って、賃金や税金がすごく高いんだよね。男を雇おうと思うと、だいたい女性の二倍の人件費がかかる。
なので、男性使用人を複数人雇えるっているのは、大貴族のステイタスにもなっているのだ。
こういう規模の城館では使用人というのは細かく分業化されている。
家令、執事、従僕、庭師、御者、下男……ちゃんと数えた訳では無いが、二十人近くの男性使用人がいるのでは無いだろうか。
ここに来た時は、領地に広大な放牧地と石炭鉱山を抱える辺境伯家ってお金持ちなんだなぁ、と実感したものである。
そんな城館に、行儀見習いとして奉公に上がった私のお仕事は、辺境伯夫人のチェルシー様の身の回りのお世話と話し相手だ。
チェルシー様付きの侍女のお仕事を手伝いながら、刺繍や家政の知識を深め、より良い嫁ぎ先を探すのである。
幸いチェルシー様は、お母様と同じ系統の、穏やかで上品な奥様だったので、私はすんなりと辺境伯家の生活に馴染むことができた。
チェルシー様だけじゃない。
当主のセオドア様も、お二人の息子さんであるネイト様もとってもいい方で優しい。
だから、こちらに来てもう一年になるが、私はとても充実した行儀見習い生活を送ることが出来ていた。
運動不足は美容の大敵なので、毎日私は朝ごはんを食べた後は、城館のほど近くの庭園を散歩する事にしていた。
私設兵団の施設は飢えた男性の巣窟だから近付かないように言われてるけど、そこ以外は自由に行っていいと許可を貰っている。
と言っても敷地が広すぎるから、私のお散歩コースは基本的に城館に設けられた庭園の中だ。
暦は六月だが、こちらは日本と違って、からっとしているのでとても過ごしやすい。
食事は洋食的なものが出るこの世界だが、気候はちゃんとヨーロッパ的なんだよね。日本で言うと、北海道の気候に近いって言うとわかりやすいかもしれない。
風呂や上下水道といい、食事といい、都合のいい所はこの世界、現代日本的なのだ。
そうそう特に笑ったのが下着事情だよ。
エロゲとしての絵面的事情があるのかな?
服装はドレスなのに女性下着はコルセットじゃなくてブラとパンツなんだよね。ドレスの下と言えば、コルセットとかドロワーズなんじゃ? って突っ込んだけど、それだと簡単に服が脱がせないし絵にした時の見た目もイマイチだ。
なお、貴族の男性の普段着はフロックコートで、庶民は簡素なシャツとトラウザーズ、庶民女性の服装は、チロルワンピースみたいな感じだ。
ちなみに、食事は日本で言う洋食が出る。オムライスが出た時はびっくりした。米も長細いやつじゃなくて、日本のジャポニカ種的な粘り気のある品種だった。
イングリッシュ・ブレックファスト的な動物の血のプディングとか、ポリッジとかが出てきても困るのでこれは私的にはオーケーだ。
和食が出てこないのは寂しいけど、ヨーロッパ的異世界だから仕方ないのかなって諦めてる。
そんな事を考えながら庭を散策していた私は、今年一番の薔薇の花が咲いているのを発見した。
こちらで樹里としての意識を取り戻してからというもの、随分と自然のちょっとした変化には敏感になった。何しろ娯楽が少ないからだ。
ゲームもテレビもなくなると、人間の目は自然に向くんだなぁ、って事を実感する。
日本では春の花として知られる薔薇は、こちらでは六月中旬を過ぎてから咲くため、夏の花と言われている。
この城館には、綺麗に手入れされた薔薇園があって、盛りにはとても見事な景色が見られる。その中でも早咲きの部類に入る品種のものが、見事に花開いてるのを発見し、私は嬉しくなった。
チェルシー様にお持ちしたら喜んで貰えそうだ。
そう思ったので、私は、庭の手入れをしている庭師のおじいさんに、一本切ってもらう様にお願いした。
「おはようレスリー。あれ? 薔薇が今年も咲いたんだね」
庭師から白い薔薇を受け取った私に声をかけてきたのは、チェルシー様のご子息で、エルドリッジ辺境伯家の跡取りであるネイト様だった。お母様とセオドア様が従兄妹なので、私とネイト様ははとこと言うことになる。
ネイトってのは愛称で、本当はナサニエル様って言うんだけど、長いし言いにくいし、親戚なんだからって事で、私的な場ではネイト様とお呼びすることを許して貰っている。
栗色の髪に同色の瞳のネイト様の容貌は、一言で言うと平凡だ。
目鼻立ちは整ってはいるのだが、どこにでも居そうな地味な顔立ちで、パッとしないというのが誰もが抱く第一印象だと思う。
どちらも美男美女なセオドア様にもチェルシー様にも似ていないなと思っていたら、城館の中に飾られていた先代の辺境伯の肖像画と同じ顔立ちだったので、どうやら隔世遺伝らしい。
年齢は私より八歳年上の二十四歳で、東部地域に領地を持つ伯爵家のお嬢様との婚約が、つい先日決まったばかりだ。
見た目は普通だけど、穏やかで優しくてとてもいい人だ。婚約者がいるので、男性として、という意味では残念ながら対象外だけど。
温厚なネイト様となら、恋のときめきはなくても堅実でしっかりとした家庭を築けるのは間違いない。婚約者の方が羨ましくなる。私にも、どなたかいい方が見つかればいいんだけど。
下級とは言え、貴族令嬢である私の結婚は政略的なものがどうしても入ってくる。
実家のルース男爵家は、私が騎士としてドロップアウトした時点で、父方の叔父が後を継ぐことが決まった。だから、叔父様や従弟の役に立てるような立場で、生理的嫌悪感を覚えない容姿の人で、できれば優しい人がいいなと思ってる。
ネイト様、こうして考えると私の希望にばっちりなんだよね。身分差がちょっとありすぎるけど。
うちと辺境伯家の家格差は、ネイト様側が私を望んで下さったとしたら許される、そんなレベルだ。
ネイト様側にメリットがないから、そんな事ありえないんだけどね。
私は、話しかけてきたネイト様ににっこりと微笑んだ。
「綺麗ですよね。チェルシー様に差し上げようと思って」
「母上に? きっと喜ぶよ、ありがとう。レスリーが来てから邸が明るくなった」
「そうでしょうか?」
「うん。若い女の子がいるって言うのはいいね。レスリーみたいにリディア嬢も馴染んでくれるといいんだけど」
「リディア様?」
聞き覚えのない名前に私は首をかしげた。
「ああ、レスリーにはまだ言ってなかったかな? リディア・セルンフォード伯爵令嬢。俺の、この間決まったばかりの婚約者だよ」
へえ、リディア様って言うんだ。ネイト様の婚約者。
――リディア様?
その名前にどくりと心臓が高鳴った。
「どうかした?」
ネイト様に尋ねられ、私は慌てて取り繕う。
「あ、なんでもありません。リディア様ってどんな方ですか?」
「夜会で何度かお話したけど、物静かで穏やかそうな女性だったよ。この人なら一緒に一生過ごしてもいいかなと思って求婚したんだ」
そう言ってネイト様は恥ずかしそうに微笑んだ。
「そうですか。楽しみですね。リディア様がこちらに来られるの」
八月、一番暑い盛りに、ネイト様の婚約者がこちらに避暑に来られるというのは聞いていた。
「あ、お花が萎れてしまいますので、私、邸に戻りますね。それではネイト様、失礼致します」
私は会話を切り上げて、ネイト様にぺこりと一礼するときびすを返した。
邸に戻ってからも心臓のドキドキは止まらなかった。
だって、気付いてしまったからだ。
ネイト様の婚約者、リディア様が、『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』の攻略対象ヒロインの一人ではないかという事に。
寝取り枠として描かれる、辺境伯夫人の名前が、確かリディアだった。
私は結婚適齢期とされる十八歳前後まで、お相手が見つかるまでの間、こちらでお世話になることが決まっている。
ここに来るにあたっては、私を溺愛するお父様との間で一悶着あったのだが、お母様が一喝して黙らせてくれた。
お父様的には、自分の配下の有望な騎士と結婚させて、手元に置いておきたいと言う気持ちがあったみたいなんだけど、できれば王都から離れたいという私の強い気持ちを、お母様が汲んでくれたのだ。
お母様的には、騎士の妻の苦労を知っているから、騎士に嫁がせたくないという思惑もあったみたい。
ちなみにお母様は筋肉フェチだった。だからお父様を選んだんだね……。
エルドリッジ辺境伯は、このフレイア王国の北の国境を守る高位貴族である。
貴族の位は公・侯・伯・子・男となっているが、辺境伯家は国境を治める要職についているため、侯爵と同等の立場と、私設兵団を所有しても良いという特権を許されているのだ。
歴史と伝統のある領主貴族である伯父様の領地にあるお邸は、私の実家であるルース男爵家の邸とは、比べ物にならないくらい大きくて立派だった。
邸というより城館と言ってもいいかもしれない。
四角いケーキにロウソクが刺さったような重厚な外観は、二百年ほど前に活躍した、有名な建築家によって建てられたものらしい。
およそ二十平方キロメートルもある広大な敷地には、辺境伯家が所有する私設兵団の駐屯所や礼拝堂といった施設が併設されており、当然、邸で働く使用人の数も、ルース男爵家とは比べ物にならなかった。
うちは、お父様の騎士としての俸禄が収入源だ。領地を持たない、いわゆる宮廷貴族と言うやつなので、邸もこじんまりとしているし、使用人は、女の召使い三人と、ロイの四人しかいなかった。
これは、使用人を雇う余裕のある層のなかでも、中の上くらいという位置づけである。
エルドリッジ辺境伯家は、それとは比較するのもおこがましくなるくらい規模の大きなお家だ。
雇われている使用人の数など数え切れないくらいで、使用人を管理する上級使用人まで雇われている。
使用人の世界も男尊女卑が激しくて、男性の使用人って、賃金や税金がすごく高いんだよね。男を雇おうと思うと、だいたい女性の二倍の人件費がかかる。
なので、男性使用人を複数人雇えるっているのは、大貴族のステイタスにもなっているのだ。
こういう規模の城館では使用人というのは細かく分業化されている。
家令、執事、従僕、庭師、御者、下男……ちゃんと数えた訳では無いが、二十人近くの男性使用人がいるのでは無いだろうか。
ここに来た時は、領地に広大な放牧地と石炭鉱山を抱える辺境伯家ってお金持ちなんだなぁ、と実感したものである。
そんな城館に、行儀見習いとして奉公に上がった私のお仕事は、辺境伯夫人のチェルシー様の身の回りのお世話と話し相手だ。
チェルシー様付きの侍女のお仕事を手伝いながら、刺繍や家政の知識を深め、より良い嫁ぎ先を探すのである。
幸いチェルシー様は、お母様と同じ系統の、穏やかで上品な奥様だったので、私はすんなりと辺境伯家の生活に馴染むことができた。
チェルシー様だけじゃない。
当主のセオドア様も、お二人の息子さんであるネイト様もとってもいい方で優しい。
だから、こちらに来てもう一年になるが、私はとても充実した行儀見習い生活を送ることが出来ていた。
運動不足は美容の大敵なので、毎日私は朝ごはんを食べた後は、城館のほど近くの庭園を散歩する事にしていた。
私設兵団の施設は飢えた男性の巣窟だから近付かないように言われてるけど、そこ以外は自由に行っていいと許可を貰っている。
と言っても敷地が広すぎるから、私のお散歩コースは基本的に城館に設けられた庭園の中だ。
暦は六月だが、こちらは日本と違って、からっとしているのでとても過ごしやすい。
食事は洋食的なものが出るこの世界だが、気候はちゃんとヨーロッパ的なんだよね。日本で言うと、北海道の気候に近いって言うとわかりやすいかもしれない。
風呂や上下水道といい、食事といい、都合のいい所はこの世界、現代日本的なのだ。
そうそう特に笑ったのが下着事情だよ。
エロゲとしての絵面的事情があるのかな?
服装はドレスなのに女性下着はコルセットじゃなくてブラとパンツなんだよね。ドレスの下と言えば、コルセットとかドロワーズなんじゃ? って突っ込んだけど、それだと簡単に服が脱がせないし絵にした時の見た目もイマイチだ。
なお、貴族の男性の普段着はフロックコートで、庶民は簡素なシャツとトラウザーズ、庶民女性の服装は、チロルワンピースみたいな感じだ。
ちなみに、食事は日本で言う洋食が出る。オムライスが出た時はびっくりした。米も長細いやつじゃなくて、日本のジャポニカ種的な粘り気のある品種だった。
イングリッシュ・ブレックファスト的な動物の血のプディングとか、ポリッジとかが出てきても困るのでこれは私的にはオーケーだ。
和食が出てこないのは寂しいけど、ヨーロッパ的異世界だから仕方ないのかなって諦めてる。
そんな事を考えながら庭を散策していた私は、今年一番の薔薇の花が咲いているのを発見した。
こちらで樹里としての意識を取り戻してからというもの、随分と自然のちょっとした変化には敏感になった。何しろ娯楽が少ないからだ。
ゲームもテレビもなくなると、人間の目は自然に向くんだなぁ、って事を実感する。
日本では春の花として知られる薔薇は、こちらでは六月中旬を過ぎてから咲くため、夏の花と言われている。
この城館には、綺麗に手入れされた薔薇園があって、盛りにはとても見事な景色が見られる。その中でも早咲きの部類に入る品種のものが、見事に花開いてるのを発見し、私は嬉しくなった。
チェルシー様にお持ちしたら喜んで貰えそうだ。
そう思ったので、私は、庭の手入れをしている庭師のおじいさんに、一本切ってもらう様にお願いした。
「おはようレスリー。あれ? 薔薇が今年も咲いたんだね」
庭師から白い薔薇を受け取った私に声をかけてきたのは、チェルシー様のご子息で、エルドリッジ辺境伯家の跡取りであるネイト様だった。お母様とセオドア様が従兄妹なので、私とネイト様ははとこと言うことになる。
ネイトってのは愛称で、本当はナサニエル様って言うんだけど、長いし言いにくいし、親戚なんだからって事で、私的な場ではネイト様とお呼びすることを許して貰っている。
栗色の髪に同色の瞳のネイト様の容貌は、一言で言うと平凡だ。
目鼻立ちは整ってはいるのだが、どこにでも居そうな地味な顔立ちで、パッとしないというのが誰もが抱く第一印象だと思う。
どちらも美男美女なセオドア様にもチェルシー様にも似ていないなと思っていたら、城館の中に飾られていた先代の辺境伯の肖像画と同じ顔立ちだったので、どうやら隔世遺伝らしい。
年齢は私より八歳年上の二十四歳で、東部地域に領地を持つ伯爵家のお嬢様との婚約が、つい先日決まったばかりだ。
見た目は普通だけど、穏やかで優しくてとてもいい人だ。婚約者がいるので、男性として、という意味では残念ながら対象外だけど。
温厚なネイト様となら、恋のときめきはなくても堅実でしっかりとした家庭を築けるのは間違いない。婚約者の方が羨ましくなる。私にも、どなたかいい方が見つかればいいんだけど。
下級とは言え、貴族令嬢である私の結婚は政略的なものがどうしても入ってくる。
実家のルース男爵家は、私が騎士としてドロップアウトした時点で、父方の叔父が後を継ぐことが決まった。だから、叔父様や従弟の役に立てるような立場で、生理的嫌悪感を覚えない容姿の人で、できれば優しい人がいいなと思ってる。
ネイト様、こうして考えると私の希望にばっちりなんだよね。身分差がちょっとありすぎるけど。
うちと辺境伯家の家格差は、ネイト様側が私を望んで下さったとしたら許される、そんなレベルだ。
ネイト様側にメリットがないから、そんな事ありえないんだけどね。
私は、話しかけてきたネイト様ににっこりと微笑んだ。
「綺麗ですよね。チェルシー様に差し上げようと思って」
「母上に? きっと喜ぶよ、ありがとう。レスリーが来てから邸が明るくなった」
「そうでしょうか?」
「うん。若い女の子がいるって言うのはいいね。レスリーみたいにリディア嬢も馴染んでくれるといいんだけど」
「リディア様?」
聞き覚えのない名前に私は首をかしげた。
「ああ、レスリーにはまだ言ってなかったかな? リディア・セルンフォード伯爵令嬢。俺の、この間決まったばかりの婚約者だよ」
へえ、リディア様って言うんだ。ネイト様の婚約者。
――リディア様?
その名前にどくりと心臓が高鳴った。
「どうかした?」
ネイト様に尋ねられ、私は慌てて取り繕う。
「あ、なんでもありません。リディア様ってどんな方ですか?」
「夜会で何度かお話したけど、物静かで穏やかそうな女性だったよ。この人なら一緒に一生過ごしてもいいかなと思って求婚したんだ」
そう言ってネイト様は恥ずかしそうに微笑んだ。
「そうですか。楽しみですね。リディア様がこちらに来られるの」
八月、一番暑い盛りに、ネイト様の婚約者がこちらに避暑に来られるというのは聞いていた。
「あ、お花が萎れてしまいますので、私、邸に戻りますね。それではネイト様、失礼致します」
私は会話を切り上げて、ネイト様にぺこりと一礼するときびすを返した。
邸に戻ってからも心臓のドキドキは止まらなかった。
だって、気付いてしまったからだ。
ネイト様の婚約者、リディア様が、『王宮淫虐物語~鬼畜王子の後宮ハーレム~』の攻略対象ヒロインの一人ではないかという事に。
寝取り枠として描かれる、辺境伯夫人の名前が、確かリディアだった。
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