シンデレラになりたくて

アオ

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きみだけは知っていた

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 25年生きてきて信じられるものはお金だけだった。

 生きていくためには必要なもの。

 どんなに愛がどうとか言われてもそれだけではお腹が満たされるわけでもなく

 寒さがしのげるわけでもない。

 きれいごとをいっても最後にはお金がないとどうにもならないというのを

 この25年でいやというほど味わった。

 だから私は絶対に貧乏な人とは結婚しない。

 それは絶対条件。

 どんな手を使っても裕福に暮らせるように

 今のうちから努力をして絶対に玉の輿にのってやるというのが

 人生の目標にしている。

 









 私、灰原 愛  25歳、独身。

 名前に「愛」などとつけてくれた親は、

 早いうちに離婚をして付いていった母親は男とどこかに逃げていった。

 私の人生の中では愛というものは正直みたこともなければ感じたこともない。

 だから恋愛といってもピンとこない。

 だけど、結婚は別。

 一人で優雅な暮らしをするには限度があるから

 いい旦那を捕まえて適当に暮らす。

 今年は人生最大の出会いがまっていると雑誌に載ってた。

 玉の輿にのるための努力はもうすぐ報われるらしい。

 

 





 


 「灰原さん、ちょっといいかな。」

 ただいま仕事中。私はとある大企業の受付の仕事をしていてカウンターの中にいる。

 今、声をかけてきたのは営業の日野さん29歳。

 確か営業成績はトップだとか。

 でも年収は・・・。

 と頭の中でデーターを出してから対応する。

 「おはようございます。どうされましたか?」

 一応営業スマイルで答える。

 「今日、仕事の後なにか予定あるかな。」

 「ごめんなさい、今日は習い事の日なので・・・」

 「そっか。残念。映画でもどうかなって思ってたんだ」

 映画ねぇ。

 映画は一人で行きたい派なのよ、私は。

 それにあなたとなんか行く気も全くないのよ。

 こうやって断ってもまだ納得してない彼は私が困った顔を作ると

 渋々自分の部署へと戻っていった。

 あー、しつこいったらありゃしない。

 こんなに断ってるんだからいいかげん気付けよって。

 思わず舌打ちしそうになるけど、我慢する私。

 「灰原さん、相変わらずもてるねぇ」
 
 心の中で舌打ちすることでどうにか正常を保っている私の隣に座ってる石川さんがしみじみと呟いた。

 彼女は私と違っておっとりとした女性。きっと裏表ない人だと思う。

 「そんな・・・・・」

 はにかみながら下を向く。

 「こんなに可愛くて性格がよければもてるよねぇ。

 私も男だったら灰原さんみたいな子絶対好きになる自信があるね」

 そう、私は世間では可愛らしいといわれる部類にある。

 もともと色素が薄いためあえて髪の色も染めずに茶色いから

 そのままで肩まで伸ばしてゆるいパーマをかけている。

 肌も日焼けしないように徹底的に気をつけてるから白い。

 身長は155センチしかなくってしかも今までの貧乏生活のおかげで

 ガリガリといっていいほど痩せてるのでとても華奢に見える。

 私の本当の性格は誰も知らない。
 
 誰の前でも完璧ないい人を演じている自信がある。

 もちろん、女性の前では特に。

 男の前だけいい人だったらすぐに化けの皮がはがれるからね。

 女性に対してのほうが男性よりも気を使ってるぐらいだ。

 おかげで会社ではすこぶる評判がいいらしく今のところトラブルはない。
 
 これも今までの人生経験で人の間に生きていくすべを培ったものだろう。

 「ありがとうね、石川さん。女性からそう言ってもらえると

 男性に言われるよりずっとうれしい」

 日野さんよりもランク上の笑顔でお礼を言った。


 


 


 仕事が終わって。

 習い事のために駅ビルに来たけど今日は臨時でお休みだった。

 ちっ。と舌打ちをする。連絡のメールぐらいすればいいのに。

 昼間、我慢した分周りに誰もいないとブラックな私はすぐに顔を出す。
 
 最近、疲れがたまってるんかなぁ。

 受付の人の話では先生が急病らしく代わりの先生もいなかったため

 授業はお休みとなったらしい。

 ちなみに習い事とは料理教室。

 男の心を掴むにはまず胃袋っていうじゃない?

 私には親がいないから料理を教えてくれる人もいなかったから

 教室にいっている。

 急に時間に穴が開いたけど家に帰るのももったいないし、

 ぶらぶらしていたら寂れた映画館が見えた。

 映画かぁ。

 時間あるし丁度見たい映画がやってるから見ていくことにした。

 私が選んだのは動物ものの映画。

 小さな子犬のお話。

 犬は裏切らないから好きなんだけど、

 この話は悲しすぎる。

 ラストはなんとなくわかってたのに涙が止まらなかった。

 映画が終了して平日の人気のないロビーでしくしく泣いた。

 ようやく涙が落ち着いた頃にちょっと離れたところからしくしく泣く声が聞えた。

 私と同じような人いるんだとハンカチで顔を拭きながら横目で見ると・・・・。


 


 大きな大きな男の人が泣いていた。

 しかもスーツ姿で。

 

 たとえ人がいないといってもあれはないでしょ・・・。

 それにハンカチがないらしく袖でガシガシ涙を拭いてる。

 


 男なのにそれってどうよ・・・。

 

 そう思いつつ男を観察した。

 

 身長がすごく高そうで、手足も長い。
 
 スポーツやってるみたいで筋肉が適度についてる。

 髪は短く切ってて坊主に近い。
 
 スーツを見るからに普通の会社員ってところかしら。

 お金持ちじゃないわね。
 
 大きな男なのにボロボロ涙を流してみんなからの注目を集めつつある。

 その泣き方はまずいでしょ。

 私もさっきまで泣いてたけどあの泣き方を見たら涙が引っ込んでしまったぐらいにすごい。

 見かねた私はその男の前に立ちハンドタオルを渡した。

 「ちょっと・・・」

 「?」

 目の前のタオルをしばらく見て私を見上げた。

 顔は、ちょっと怖そう。ちょっとじゃない、かなり怖そう。

 泣いてなければ怒ってる?って言いたいぐらい怖い顔。

 顔が怖いのか、目力がありすぎて威圧感があるのか。

 一瞬、顔を見てひるんでしまった。

 とても動物ものの映画を見るような感じじゃないけど。

 「これ使ってください。その後は捨ててもかまいませんから」

 あまり関わりたくないから無表情でそう言って立ち去ろうとした。

 が、

 手首を掴まれた。

 「何?」

 変な男なのかしら。渡さなかった方がよかった?

 思いっきり睨みながら男に振り返る。

 「え、あ、ありがとう・・」
 
 「どういたしまして。手を離してくれませんか?」

 にっこり笑いながらも額に怒りマークを出しつつ男に答えた。
 
 あわてて男は私の手を離してペコリとお辞儀した。

 私はスカートを翻して映画館を出た。









 次の日。

 朝、受付の椅子に座り仕事準備をしている私に石川さんがこっそりと声をかける。

 「ねえ、灰原さん。五十嵐さんと知り合い?」

 「え?だれですか?五十嵐さんって」

 下を向いていた私に大きな影が重なった。

 上を向くと、昨日の男が無表情で立ってる。

 「これ・・・・・・。ありがとう、助かった」

 そういって紙袋を渡された。中には昨日あげたはずのハンドタオルが

 綺麗にたたんで入ってる。多分、洗濯もしてあるんだろうな。

 「でも、これ捨てていいって・・・」

 関わりたくなかったから返してほしくなかったんだけど。

 無言でペコリとお辞儀して男はスタスタと私の前から姿を消した。
 
 なんなのよ、いったい。

 「灰原さんって、五十嵐さんと知り合いだったのね。びっくりだわ」

 「知り合いじゃないです。昨日ちょっと・・・」

 さすがに泣いてたからハンカチ貸したとは言えない。

 すると石川さんが聞いてもないのにペラペラとしゃべりだした。

 「五十嵐さんって仕事は出来るみたいだけど怖いのよね。

 あの体であまり人と話さないし。一見、堅気の人には見えないのよね」

 確かに。それはいえる。

 「それにいろいろとうわさがあるのよね。昔はそうとう悪かったみたいで

 喧嘩ばっかりしてたとか、警察のお世話になったのも一度や二度じゃないって」

 あー、なんとなくわかる。早く言えば不良ってやつ?

 でも、昨日の泣きっぷりを見るとちょっと違うかなぁ。

 多分、見かけだけで実は動物好きの普通の人かと。

 なんとなくだけど、今までの経験上悪い人の匂いはしないな。

 「まさか・・・・。違うと思うよ」

 昨日のことを思い出し、笑いをこらえながら答えると、遠くの方でこっちを見ている

 五十嵐さんと目が合った。

 もしかして昨日のこと、話すと思ってるのかな?

 私はそんなことベラベラ話すような女じゃないけど。

 石川さんにちょっとだけ離れると告げて五十嵐さんのところへかけていく。

 立っている五十嵐さんはバカのようにでかい。

 150センチ台の私が見上げると首が痛くなる。180センチは軽くあるだろう。

 「あの。心配しなくても昨日のことは言わないから安心して」

 そう告げるとまじまじと私を見つめコクンとうなずいた。

 

 あ、なんだかこの人、子犬みたいでかわいいかも。

 

 おもわずクスリと笑ってしまった。

 計算せずに人前で笑ったのって久しぶりかも。

 五十嵐さんは一瞬びっくりしたような表情をしたかと思ったら

 一言、こう言った。


 

 「ちゃんと笑えるんだ」

 


 

 彼は私が計算で笑ってるって知ってるんだ。つか、なんであんたがそんなのことわかるのよ。

 


 思わず、下から睨みあげた。

 

 「あんたには関係ないでしょ」


 

 その一言でまるで捨て犬のような表情になる。

 なんなのよ、この人。

 そんな顔されたら謝らなきゃいけなくなるでしょ。

 


 「と、とにかくそういうことだから」

 

 慌てて五十嵐さんの前から逃げるように立ち去った。



 
 今まで自分を完璧に隠してたと思ったのに。

 なぜ全く知らないヤツは知っていたのか。

 焦る私を後ろから真直ぐに見つめていたなんてこのときは知る由もなかった。
 

 
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