屋上より愛を込めて

アオ

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「ちょっと、アナタ、なに直様を独り占めしてるのよ」





 朝、いつものように彼とご飯を食べて終え、診療室に戻ろうとしていたところを

 一人の女性に捕まった。

 名前を高田もえという。

 彼女は葵の前に仁王立ちしている。

 綺麗だけど般若みたいな顔をしてるなぁ。

 「聞いてるの?直様はみんなのものよ。ぬけがけなんか許されないんだから」

 ああ、肌もあれてる。

 ちゃんと規則的な食事とってないんだな。

 「彼は勝手に私の食事してるところにきて一人でしゃべってるだけです。

 私が拘束してるわけではありません」

 診療室のドアを開けながら彼女を招き入れ、椅子に座らせる。

 「何をいってるの?そんなわけないでしょ?

 何を武器に彼を拘束してるの?

 わかった、その白衣で彼に迫ってるんでしょ!!」

 何をいってんだか・・・。

 白衣って言ってもね、パンツタイプで色気も何もない。

 とりあえず、ストレスにいいアロマを焚いてリラックス効果のある紅茶を出しましょうかね。

 頭の中で色々と計画しながらお湯を沸かし始めた。


 基本、この医務室はリラックス出来るように色々なグッズが置いてある。

 話をじっくり聞くときなどこうやってアロマを炊くことがよくあった。

 紅茶は葵の趣味で持ってきていたものだった。

 アロマの匂いがふんわりと部屋に香ってきた頃、ケトルポットのお湯が沸いた。



 「武器などもってません。朝一度庭園でお水を彼にあげたらなぜか毎日来るようになったんです。

 理由は彼に聞いてください。はいどうぞ」

 大きなマグカップに紅茶をたくさん入れてもえに渡した。

 「あ、ありがとう・・・。

 って、何ライバルにお茶なんか出してるのよ!!」


 

 ライバルねぇ。私には恋愛感情は一切ございませんが。

 それにどうせ、あちこちに私と同じようなセリフを吐いて

 思わせぶりな態度をとってるんだろうな、ヤツは。

 だっていっつもニコニコしちゃってたくさん喋ってるもの。

 


 「とにかく彼とはなんでもありませんから。これはリラックス効果のある紅茶を

 私がブレンドしたものです。朝からそんなにカリカリしてたらからだがもちませんよ。

 肩の力も抜いてください。

 肌の調子も悪そうだし、ちゃんと朝ごはん食べてきましたか?

 変な食生活になってませんか?」

 「あ、やっぱりあれてる?最近、ご飯どころじゃないのよね。はぁ~。」

 「食は体の基本です。ちゃんとしたご飯を食べないと仕事の能率にも影響しますよ。

 もちろん、肌も悪くなるし精神的にもよくないです。せっかく綺麗なんですから

 もっと自分を大事にしてくださいね」

 葵の言葉にもえは笑顔になった。

 彼女と喋ることでどんどんほんわか心が温まる。

 特別、何かかっこいいことを言ったりするわけではない。

 どちらかというと葵は話をじっくり聞いてくれる。

 ただ聞いてくれるのではなくひとつひとつをきちんと受け止めてくれると感じた。

 「紅茶ありがとうね。すっきりしたわ。おいしかったし」

 「そうですか?よかったです」

 もえはにこりと微笑んだ葵をしばし見つめた。

 「何かついてますか?あ、もうそろそろ時間じゃないですか?」

 「あ、やばい。朝一で会議だった。紅茶ごちそうさま」

 「はい、いってらっしゃい」

 そうやって職場に送られたのは初めてだったもえは笑顔になった。

 毒を抜かれた感じというか何というかイガイガしていた気持ちが全く無くなってしまったのだ。

 ゆっくり美味しい紅茶を飲んだせいか、なんだかあったかいな。

 今日は仕事バリバリ出来そう!

 廊下でやる気ポースをして職場まで足取り軽く向かった。

 その先には秘書課があった。

 秘書課は女性ばかり6人おり、とてもきらびやかな世界だった。

 「みなさん、おはようございます」

 「おはようございます、先輩。

  あ、なんか良いことあったんですか?いつもとなんか違いますね」

 「ふふ、わかる?」

 「もしかして新しいエステ見つけたんですか?なんか、すっきりしてますよ」

 「すっきりねぇ。確かにすっきりしたけどエステなんか行ってないわ。

  さあ、今日は朝一で重役会議があるのよ。みんな準備もう大丈夫よね」

  「もちろん、大丈夫ですよ、さっき資料も最後のチェックしましたし。

  いつ始まっても大丈夫です。」

  「さすがね。じゃあそろそろ皆さんを案内しましょう」

  もえの声でそれぞれ自分のお付の重役の下へといった。

  もえもとある部屋の前で立ち止まりノックする。

 「どうぞ」

  お辞儀をして中にいる人物に声をかける。

 「一条専務、会議の時間です」

 「わかった。じゃあ、データーが送られてくると思うからそれをまとめて私のパソコンに送ってくれないか?

 会議中でもいい。早急に見たいんだ」

 そういってもえに指示を出したのはきっちりとスーツを着こなし笑顔ひとつ見せない直であった。

   

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