愛のかたち

Eme

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三度目の別れ

三人目は今までの彼女とは一線を画する関係性だった。
付き合って3年になるが、セックスをしたことがない。
決して仲が悪いわけではない。
私が彼女にアプローチした時に、セックスはしないと約束したのだ。

セックスしたくなった時はどうするつもり?浮気でもするつもり?と彼女は怪訝そうな表情を浮かべたから、そういうときは"外注"するから大丈夫だと伝えた。

彼氏が風俗に行くことに対して、彼女が"無関心"だったことで、この関係性が成り立ったのである。

人それぞれ浮気と考えるラインには違いがあるが、彼女が考える定義は以下とのことである。
浮気は「お金を介さず、お互いに対等な関係を彼女(彼氏)以外で持つこと」

その話をすると、周りから言われることはだいたい決まっている。
「なぜそんな約束をしたのか」
「彼女なのにセックスをしたことがないのはおかしい」
「生殖器に何かしらの"問題"を抱えているのか」
「彼女に対して性的興奮を覚えることはないのか」

これらの質問に対し、なるべく誠実に答えようと努めてきた。しかし、そうなると私自身の恥部を晒さねばならないから、ある時から適当に答えるようになった。
同じことを何度も言うのも嫌だし、何より屈辱的である。
ここに書くことで何とか丸く収めていただきたい。

なぜそんな約束をしたのかと言われれば、それは「セックスをした後にその相手に対して嫌悪感を抱いてしまうから」である。
セックスをするのはセフレのみであり、それも同じ人と複数回セックスをすることは皆無である。

将来的に結婚を考えるとなると、相手に対して嫌悪感を抱いていては生活が立ち行かないのである。

「彼女なのにセックスをしないのはおかしい」については、「確かに」と同調するので相手は拍子抜けする。私もおかしいという自覚はちゃんとある。

生殖器に何らかの問題を抱えているというのは断じてない。"外注"している時点で、これから何かしらの問題が生じる可能性があるが、少なくも今のところは大丈夫である。
また、冗談なのか、私の生殖器が変わった形状をしており、彼女に見られることを嫌っている説があるがそれも違う。不思議がる人には見せてあげたいくらいである。

彼女に対して性的興奮を覚えることはないのかについては「ない」ということになる。

浮気のラインについて、私も彼女と同意見である。
彼女は女性用風俗には行かないと思うが、多少なりとも性的欲求があるだろう。
彼女がそれを発散するために知らない男とセックスをしていても、約束は約束として受け入れるしかない。

3年間付き合って、同棲を始めてからも1年になる。
1年彼女とセックスをしないことはそんなに難しいことではない。
それでも、将来を考えた時にその約束は果たして可能なのかという考えが頭の片隅にあった。

ある日、仕事から帰って来て缶ビールを飲んでいると、部屋から彼女が出て来た。
「寝てていいのに」と言ったが、
彼女は
「ちょっと話したいことがある」
と言った。
続けて、
「セックスしない約束、もうやめない?」と言った。
「それは無理だ」
私はそういうと残りのビールを飲み干した。
「じゃあ別れよう」
彼女はさらりと言った。
「セックスをするか、別れるかということ?」
私は聞いた。
「そう。前にセックスをすると相手に嫌悪感が出るって言ったよね」
「うん」
「私、普通に結婚して子育てしたい。別にセックスしたいわけじゃ無いけど、それなしで将来考えられるのかな」
彼女が言っていることはもっともだった。
2人で決めた約束というよりは、私が一方的に決めたものである。
それに結婚など将来を考えたら、いつまでも"外注"することは現実的ではない。

「わかった。しよう」
私はそう言うと、彼女はうなずいた。
その決断は、2人が間違いなく将来を共に生きたいと思ったからこそだった。

ベッドに横になったランジェリー姿の彼女。
初めて見る表情。
万事うまくいきますように。

私も下着1枚になり彼女にまたがる。
しばらくしてお互いが一糸まとわぬ姿になった。
しかし、私のそれは一向に勃つ気配がない。
「ごめん、また今度」

私は彼女にブランケットをかけて、服を着た。

「別れよっか」
唐突に彼女が言う。

「え?」

私は呆然とする。
セックスしないという約束を破ったのは将来のことを考えてのことだった。
「ただの一回、セックスで勃たなかっただけで?」

「ごめん。」
いつの間にか彼女は服を着ていた。

「わかったよ」
私は力無く言って、最低限の荷物を持って家を出た。
彼女とセックスするんじゃなかった。
それ以来お互い連絡を取ることはなかった。

それからしばらく経ったある日。
友人と飲んでいる時に、最近その彼女が妊娠したと聞いた。
私は思わず、「え、誰の子」と言ったら、
友人が「名前は知らないけど」と幸せそうに映る三人目の彼女とその相手と思われる写真を見せた。
相手の方は全く知らない人だった。

どう考えても私と付き合っている時期にした相手との子である。
そして私と彼女がセックスしたのはあの一回きり、しかも行為は途中で止めてしまっている。

彼女が3年経ったあのタイミングでセックスしようと言い出したのは、それを隠蔽するためだったのか。
あの時セックスを完遂していたら、それがきっかけで妊娠したと普通は考える。
私は他人の子どもとは知らずに、育てていくことになっていたかもしれない。

そんなことを考えたものの、連絡先を消去しているので確認する術はない。
友人を介して聞くのも手だが。

ひとまず住んでいた家に行ってみたが、今は空き家になっている。

私は数日後、都内の雑居ビルで例の"祈祷師"と向き合っていた。
私は三人目の彼女の写真を見せ、
「よろしくお願いします」と言う。
"祈祷師"は何も言わずにうなずき、私に目をつぶって、顔を伏せるように促した。私はその指示に従った。
5分程度だっただろうか?
儀式が終わったことが告げられ、私はお礼を言いお辞儀をしその場を後にした。

数日後、三人目の彼女が死んだ。
友人からの電話で聞いたところによると、出産直後に息を引き取ったそうである(子どもは健康に生まれたとのことだ)。
私はあの"祈祷師"を畏敬した。
そして、彼(彼女)は一体何者なのだろうと訝しんだ。




























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