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4、エメルダの胸中
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(……意外とかわいらしいわね)
エメルダは自然とほほ笑むことになる。
「ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ。それで、どうかしら? 私が何を思って、何をやってきたのか。聞く気はある?」
この賢い子が自らをどう評価するのか。
あくまでたわむれの内ではあるが気になった。
今は笑みを消したクレインは、こくりと頷きを見せた。
「はい。是非」
「では、聞いてもらおうかしら。婚約を破棄させたり、領地の加増を無かったことにしたり、あとは宝物の贈与を取りやめにもさせたりね。世間で噂されていることは全部事実。全部、私が関わったこと」
さて、彼は一体どんな反応を見せるのか?
エメルダが注視する中でクレインは頷きを見せた。
「分かりました。それらはエメルダ様が関わったことと。それで、そこにある思いとはなんでしょうか?」
やはりというか、好ましく理屈っぽかった。
言葉の表面上の雰囲気だけで判断するつもりは無いらしい。
エメルダは笑みで応じる。
「そこね。私がそれらを妨害してきたのは、それらがお父様の行いだから。私の父については、貴方も分かるわよね?」
「はい。エメルダ様のお父上となれば国王陛下になるかと」
「そう。他家の婚姻話や財産の話であれば私も口は挟まないの。ただ、王家の話だから」
クレインは不思議そうに首をかしげてきた。
「王家の話であれば妨害しなければならないのですか?」
「えぇ、そう。それが、この国……シェリナの安寧を脅かしかねないとなれば」
理解は生まれていないらしい。
彼は変わらず首をかしげているが、さて、どう説明するか。
悩みながらにエメルダは口を開く。
「うーん、そうね。まずだけど、私は現在の平穏は王家に力があるからこそのものだと思ってるの」
「そうなのですか?」
「王家に実力が……抜き出た権威、収益、武力を持つからこそね。王家を恐れれば、領主たちも領土争いに腐心したりしなければ、他国と結んでなどとあらぬ野心を抱いたりしないんじゃないかって」
クレインは考え込むように沈黙していた。
分かるような分からないようなといった表情であるが、先を続けてもいいものかどうか。
迷っていると、彼は頷きを見せてきた。
「分かったような気はします。先を」
「じゃあ先ね。だから私は王家はその実力を保つために努力すべきだって思ってるの。でも、お父様。あの人、人が良くて見栄っ張りなところがあるから」
「そうなのですか?」
「そうなの。だから、少しおだてられればよ? すぐに王家の血筋の娘を嫁にって出したくなっちゃうし、王家の領地を褒美に上げたくなっちゃうし、宝物庫を開けたくもなっちゃう」
クレインはここでも黙り込んだ。
考え込んでいるようだが、すぐに言いたいことを理解してくれたらしい。
「……それが王家の実力を損なうと?」
「そういうこと。それらの全てが、王家の血の価値を、収益に伴う武力を、財力にまつわる威信を損なうって。だから、私は邪魔をするの。この国の平穏が、それで損なわれると私は思っているから」
さて、だった。
説明すべきことは全て説明した。
これに対し、クレインは一体何を思うのか?
待っていると、彼は眉をひそめた表情で口を開いた。
「……正直、ちょっとよく分かりませんでした」
エメルダは苦笑で頷いた。
「そっか。まぁ、まだ馴染みが無い話だものね」
「はい。ですが……」
「ですが?」
「……お父上の話よりも、エメルダ様の語られたことの方が理がある。私にはそう思えました」
これが、小さな賢者殿の結論のようだった。
エメルダは思わずの笑みを浮かべることになる。
「ふふ、そうなの。よく分からないけど、そう思ったのね?」
「はい。よく分かりませんので何となくですが」
「あはは、そっか。何となく。でも……ありがとう。ちょっとホッとしたわ」
小さくとも、よく分からなくともだ。
理解者がいるいうのは何とも嬉しいものだった。
クレインは二度目だった。
エメルダの知る限りでの二度目の笑みを浮かべた。
「よく分かりませんが、お役に立てたようで嬉しいです。あの……また会えるでしょうか?」
エメルダは「え?」と首をかしげることになった。
「会いたい? 私に?」
「面白い話をしていただけたので。是非」
その目を輝かせての問いかけに、エメルダは返答に迷うことになる。
なにせ、自分は世間で評判の悪女殿なのだ。
(密会なんて誰かに思われたらねぇ?)
自分はいまさらだが、クレインの評判に傷がつきかねない。
止めときなさい。
それが妥当な返答だろう。
だが、その結論で終わらせられないエメルダの胸中だった。
(……あと一度ぐらいはね)
もう一度ぐらいは良いだろうか。
もう一度ぐらいは会って話す機会を作ってみたい。
そう思ってしまっているのだった。
「……同じ会場で会うことがあればね。その時は、ここで待ってるから」
それがエメルダの返答となった。
エメルダは自然とほほ笑むことになる。
「ふふ、喜んでもらえて嬉しいわ。それで、どうかしら? 私が何を思って、何をやってきたのか。聞く気はある?」
この賢い子が自らをどう評価するのか。
あくまでたわむれの内ではあるが気になった。
今は笑みを消したクレインは、こくりと頷きを見せた。
「はい。是非」
「では、聞いてもらおうかしら。婚約を破棄させたり、領地の加増を無かったことにしたり、あとは宝物の贈与を取りやめにもさせたりね。世間で噂されていることは全部事実。全部、私が関わったこと」
さて、彼は一体どんな反応を見せるのか?
エメルダが注視する中でクレインは頷きを見せた。
「分かりました。それらはエメルダ様が関わったことと。それで、そこにある思いとはなんでしょうか?」
やはりというか、好ましく理屈っぽかった。
言葉の表面上の雰囲気だけで判断するつもりは無いらしい。
エメルダは笑みで応じる。
「そこね。私がそれらを妨害してきたのは、それらがお父様の行いだから。私の父については、貴方も分かるわよね?」
「はい。エメルダ様のお父上となれば国王陛下になるかと」
「そう。他家の婚姻話や財産の話であれば私も口は挟まないの。ただ、王家の話だから」
クレインは不思議そうに首をかしげてきた。
「王家の話であれば妨害しなければならないのですか?」
「えぇ、そう。それが、この国……シェリナの安寧を脅かしかねないとなれば」
理解は生まれていないらしい。
彼は変わらず首をかしげているが、さて、どう説明するか。
悩みながらにエメルダは口を開く。
「うーん、そうね。まずだけど、私は現在の平穏は王家に力があるからこそのものだと思ってるの」
「そうなのですか?」
「王家に実力が……抜き出た権威、収益、武力を持つからこそね。王家を恐れれば、領主たちも領土争いに腐心したりしなければ、他国と結んでなどとあらぬ野心を抱いたりしないんじゃないかって」
クレインは考え込むように沈黙していた。
分かるような分からないようなといった表情であるが、先を続けてもいいものかどうか。
迷っていると、彼は頷きを見せてきた。
「分かったような気はします。先を」
「じゃあ先ね。だから私は王家はその実力を保つために努力すべきだって思ってるの。でも、お父様。あの人、人が良くて見栄っ張りなところがあるから」
「そうなのですか?」
「そうなの。だから、少しおだてられればよ? すぐに王家の血筋の娘を嫁にって出したくなっちゃうし、王家の領地を褒美に上げたくなっちゃうし、宝物庫を開けたくもなっちゃう」
クレインはここでも黙り込んだ。
考え込んでいるようだが、すぐに言いたいことを理解してくれたらしい。
「……それが王家の実力を損なうと?」
「そういうこと。それらの全てが、王家の血の価値を、収益に伴う武力を、財力にまつわる威信を損なうって。だから、私は邪魔をするの。この国の平穏が、それで損なわれると私は思っているから」
さて、だった。
説明すべきことは全て説明した。
これに対し、クレインは一体何を思うのか?
待っていると、彼は眉をひそめた表情で口を開いた。
「……正直、ちょっとよく分かりませんでした」
エメルダは苦笑で頷いた。
「そっか。まぁ、まだ馴染みが無い話だものね」
「はい。ですが……」
「ですが?」
「……お父上の話よりも、エメルダ様の語られたことの方が理がある。私にはそう思えました」
これが、小さな賢者殿の結論のようだった。
エメルダは思わずの笑みを浮かべることになる。
「ふふ、そうなの。よく分からないけど、そう思ったのね?」
「はい。よく分かりませんので何となくですが」
「あはは、そっか。何となく。でも……ありがとう。ちょっとホッとしたわ」
小さくとも、よく分からなくともだ。
理解者がいるいうのは何とも嬉しいものだった。
クレインは二度目だった。
エメルダの知る限りでの二度目の笑みを浮かべた。
「よく分かりませんが、お役に立てたようで嬉しいです。あの……また会えるでしょうか?」
エメルダは「え?」と首をかしげることになった。
「会いたい? 私に?」
「面白い話をしていただけたので。是非」
その目を輝かせての問いかけに、エメルダは返答に迷うことになる。
なにせ、自分は世間で評判の悪女殿なのだ。
(密会なんて誰かに思われたらねぇ?)
自分はいまさらだが、クレインの評判に傷がつきかねない。
止めときなさい。
それが妥当な返答だろう。
だが、その結論で終わらせられないエメルダの胸中だった。
(……あと一度ぐらいはね)
もう一度ぐらいは良いだろうか。
もう一度ぐらいは会って話す機会を作ってみたい。
そう思ってしまっているのだった。
「……同じ会場で会うことがあればね。その時は、ここで待ってるから」
それがエメルダの返答となった。
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