財産が無ければ不要と離縁されました。でも、そのおかげで大切な人と一緒になれました

甘海そら

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後日談:結婚式

7、思わぬ来訪者

 今日もまた同じ日々だった。
 
 ルクロイを見送ったヘルミナは、屋敷での家事に精を出していた。
 ただ、内心はと言えばいつも通りとはいかなかった。
 それは先日に理由がある。
 友人たちの前で、ルクロイがもらしてきた本音が原因だ。

(開かれたかったのですね)

 使用人が帰った居間にて、軽く衣服のほつれを直しながらにヘルミナは表情を曇らせる。

 どうにもである。
 夫には結婚式を開く意欲があるようなのだ。 
 それが自分の花嫁姿が見たいなどとするところは不可解であったが、ともあれそれが彼の意思だった。

(お金……ですか)

 ヘルミナは思わずため息だった。
 実家の損失を補填することが出来れば、何の気兼ねもなく結婚式を開くことは出来る。
 ただ、ヘルミナにはその手段が無い。
 出来るのはわずかに家事程度。
 商売などさっぱり分からなければ、そもそも素人が簡単に利益を出せるとは思えない。

 つまるところ無力だった。
 何も自分に出来ることは無い。
 こうして、せめてルクロイの役に立てるようにと家事に励むしかない。

(……しかし)

 ヘルミナは首をかしげる。
 
 無力感と共に思い出したのだ。
 自分とは違い、社会的な力を持つ彼らのことだ。

(結局、何だったのでしょうか?)

 ルクロイの友人たちだ。
 彼らもまた、よく分からない理由で結婚式を望んできたのだが、何かを思いついたような風はあった。
 
 それが、一体何なのか?
 気にはなった。
 ただ、予想しようにもその手がかりすら存在しない。

(その内にいらっしゃるのでしょうか)

 果たして、その時に何が起きるのか。
 そんな簡単に返すことが出来るような金額では無いのであれば、多少不安だった。

 自分たちのために、何かしらの無茶はして欲しくはないのだ。
 次に会った時には、その点をしっかり伝えるべきか。
 そんなことを思いつつ、ヘルミナは針仕事を続ける。
 すると、

「……あら?」

 ヘルミナは首をかしげた。
 玄関からコンコンと音が上がったのだ。

 ルクロイが帰ってくるにはまだ早い。
 となると、前回の再現か。
 ヘルミナは慌てて椅子から腰を上げた。

「い、今、向かいます!」

 玄関に向かいつつ考える。
 早速その機会が来たのであれば、自分の思いをしっかりと伝えなければならない。

(よし)

 1つ胸中で意気込んで、ヘルミナは目の前にした扉を開き……

「……え?」

 そこにあった光景にヘルミナは目を丸くした。

 来客はギネスでもカシューでも無い。
 見覚えの無い男が立っていた。
 30ほどには見えないが、ルクロイたちよりは幾分年上だろうか。
 妙な雰囲気の男だった。
 間違いなく若いのだ。
 ただ、ルクロイやその友人たちには無い妙な貫禄があった。

「失礼。ルクロイ・シュネーズ殿のご自宅でよろしいか?」

 淡々として尋ねかけてくる。
 目を丸くしていたヘルミナだが、我に帰って慌てて頷く。

「は、はい。そのご理解で間違いありませんが……」

「では、貴殿が彼の奥方と?」

「そ、それもはい。その通りです」

「ほう? そうか、ふむ。貴殿がルクロイの……ふむ」

 遠慮の無い眼差しだった。

 客人はじろじろとヘルミナを見つめてくる。
 ヘルミナは身じろぎした上で首をかしげた。

「あ、あの……どちら様でしょうか?」

 妙な雰囲気の客人だが、まず気にすべきはそこだった。
 小綺麗な格好をしていれば、双眸には興味の光はあっても害意も悪意も無い。
 暴漢の類ではなさそうだった。
 では、ルクロイの名を口にしていたが、一体どんな立場の客人なのか。

 男は「あぁ」と頷いて、軽く頭を下げてきた。

「これは失礼した。シャベス・ルミアと申します。ご主人とはまぁ、同僚という間柄になりますかな」

 シャベス・ルミア。
 咄嗟に記憶を巡らせるが、その名に心当たりは無かった。
 ただもちろん、ヘルミナの記憶はルクロイが話してくれた限りのものだ。
 話題に上がったことのない同僚である可能性は十分にある。

「ご、ご同僚の方ですか。ルクロイには一体どのようなご用件で?」

「ま、大したことの野暮用ですがな。待たせていただいてもよろしいかな? もちろん、紹介も約束も無く訪れた身だ。中でなどとは申しませんが」

 正直なところ、怪しいところはあったが、この辺りの礼儀はしっかりしたものだった。
 本物である可能性もあれば、庭の一画ぐらいは貸すべきだろう。
 ヘルミナは玄関を出ると、シャベスに庭を手のひらで示す。

「ではあの、こちらに」

 こじんまりとした庭には、長椅子が1つ置かれている。
 そこに案内をすれば、シャベスは腰を下ろしてヘルミナに頭を下げてきた。

「感謝する。では、後はお構いなく」

 ヘルミナもまた頭を下げ返してさがるのだが、今後について首をひねることになった。

(しかし、どうしましょうか?)

 どうにも彼は言葉通り夫を待つ気のようなのだ。
 であれば、暴漢や不審者でも無く、ルクロイの関係者と見るのが自然だろう。

 ある程度のもてなしはすべき相手ということだ。
 ただ、問題は屋外にてどのようなもてなしをすれば相手に喜んでもらえるかということなのだが……

(あら?)

 玄関から庭にあるシャベスについてうかがいながらだ。
 ヘルミナはあることに気づいた。
 彼は不意に眉をひそめたかと思えば、軽く目をつぶって目頭をもみ始めた。
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