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後日談:結婚式
9、爵位
「……しかし、君たちは今日は何だい? その格好は?」
屋敷の居間においてだ。
席に着いているルクロイが戸惑いを露わにしているが、隣でヘルミナもまた昨日に引き続いて戸惑うことになっていた。
今日もまた来訪者だ。
ただ、今回は見知った来訪者だった。
ギネスとカシュー、公爵家の嫡男2人が訪れてきていた。
ただ、ルクロイの言葉通り服装が問題だった。
一言で言えば仰々しかった。
2人とも、重要な式典にでも臨むかのごとく、大層な礼装に身を包んで対面に座っている。
「え、えーと、お似合いであれば目に楽しいところではありますが……本当にどうされました?」
ヘルミナの問いにも、何故か2人は妙にニヤニヤとしていた。
ギネスが愉快そうに頷きを見せてくる。
「おうさ。どうしたもこうしたも、そんな機会だからな。こんな服装こそがふさわしいってもんだ。なぁ、カシュー?」
「ふふふ、違いない。ではな、あまりにもったいぶるのもいやらしい。早速だが、この服装の意味を理解してもらおうか」
カシューは懐からスルリとして革張りの円筒を取り出した。
これまた仰々しい代物だが、その中から取り出されたものもなかなかだった。
紐で留められた、立派な装丁の羊皮紙が出てくる。
その紐を解けば、カシューはニヤリとしながらにヘルミナとルクロイを見渡してきた。
「ではな、心して聞くように。ルクロイ・シュネーズ殿。貴殿の今日までの王家への貢献、及びその品行を鑑み……って、まどろっこしいな。貴殿にハルース伯爵位を授与する! 以上! そういうことだ!」
そういうことだと言われてもだった。
ヘルミナは小首をかしげることになる。
ルクロイに伯爵位を授与する。
そうとしか聞こえなかったのだが、それで良かったのかどうか。
ルクロイを見つめる。
彼もまた、ヘルミナを見つめてきていた。
そうして、夫婦で見つめ合うことしばし。
「……今の聞いた?」
「は、はい。確かに」
「冗談だと思う?」
ヘルミナはギネス、カシューの両名に視線を移す。
2人は得意満面で自分たちの反応を待っているが、
「……このような妙な冗談をおっしゃられる方々では無いかと」
「だよね。これは……ちょ、ちょっとおい!! 君ら、一体何したんだよ!!」
ルクロイが叫べば、ギネスが不服そうに首をひねってきた。
「求めていた反応とは違うな。もっと喜べんのか、お前は」
「よ、喜ぶも何も無いだろ! 公爵家とは言え、嫡男に過ぎない君たちだぞ!? 絶対、何か無理をしたよな!?」
よくわからない状況だが、ルクロイが何に対して怒っているのかはよく分かった。
「そ、その通りです! 何かしら私たちのためであって、お二方が無理をされたのであれば……っ!」
その結果の利益など、ルクロイ同様にヘルミナだってまったく嬉しくないのだ。
ただ、この気持ちは伝わっているのかどうか。
カシューが「ふむ」などわずかに目を見張った。
「似た者夫婦と言いますかな。気にするところはまずそことは」
「当たり前だろうが! そこ以外に何を気にするところがあるか!」
「出世とあれば、とりあえず舞い上がってもいい気はするが。まぁ、貴殿らの懸念はもっとだ。私たちはまだ嫡男。忖度は呼べても、実際の権力はさっぱりだからな」
であれば、かなりの無理を通したのではないかというのが夫の言い分だった。
ヘルミナも貴族の身分だ。
戦時であればともかく、平時において爵位などが簡単に手に入らないことはよくよく承知している。
「……あ、あの……本当に大丈夫なのでしょうか? 何か、よっぽどの無理をされたのではないのですか?」
顔を青くして尋ねることになる。
今度はギネスだった。
何故だか、快活な笑みで答えてきた。
「はっはっは。心配は無用だ。我々が何かしらの骨を折ったわけでは無い。この結果はな、貴殿の夫と、何よりヘルミナ嬢。貴女が勝ち取ったものだからな」
「は、はい? それはあの……どういう意味で?」
当然のこと、伯爵位を得られるような大勝負に挑んだ覚えなど無いのだった。
ギネスは再びの快笑を響かせる。
「はははは! やはりお気づきでは無かったか。では、説明をだな。任せたぞ、カシュー」
「面倒くさがるなと言いたいところだが任されてやろう。貴殿らは、ユーガルド公爵をご存知か?」
ヘルミナの頭にはパッと理解は生まれなかったが、ルクロイは違うようだった。
「知らないわけがあるか。俺の雲の上の親玉みたいなものだぞ」
言われて思い出した。
雲の上の人であれば、話題に上がることは少ないのだが、確かに聞き覚えはあった。
「確か、外務卿閣下……でしたでしょうか?」
外交にまつわる最上の役職だ。
カシューは頷きを見せてくる。
「そうです。元は内務卿閣下でしたが、有能なことが祟って外務卿も兼務させられている不憫な方ですが……先日、ギネスと共にお会いする機会がありましてな。優秀な人材がいないと深く嘆いておられました」
ここでルクロイだった。
うっ、と呻いて軽く頭をかいた。
「な、嘆いておられたか。それはまったく申し訳ないところだが……」
外務に関する役人として非力さを嘆いているらしかった。
だが、カシューは笑って首を左右にする。
屋敷の居間においてだ。
席に着いているルクロイが戸惑いを露わにしているが、隣でヘルミナもまた昨日に引き続いて戸惑うことになっていた。
今日もまた来訪者だ。
ただ、今回は見知った来訪者だった。
ギネスとカシュー、公爵家の嫡男2人が訪れてきていた。
ただ、ルクロイの言葉通り服装が問題だった。
一言で言えば仰々しかった。
2人とも、重要な式典にでも臨むかのごとく、大層な礼装に身を包んで対面に座っている。
「え、えーと、お似合いであれば目に楽しいところではありますが……本当にどうされました?」
ヘルミナの問いにも、何故か2人は妙にニヤニヤとしていた。
ギネスが愉快そうに頷きを見せてくる。
「おうさ。どうしたもこうしたも、そんな機会だからな。こんな服装こそがふさわしいってもんだ。なぁ、カシュー?」
「ふふふ、違いない。ではな、あまりにもったいぶるのもいやらしい。早速だが、この服装の意味を理解してもらおうか」
カシューは懐からスルリとして革張りの円筒を取り出した。
これまた仰々しい代物だが、その中から取り出されたものもなかなかだった。
紐で留められた、立派な装丁の羊皮紙が出てくる。
その紐を解けば、カシューはニヤリとしながらにヘルミナとルクロイを見渡してきた。
「ではな、心して聞くように。ルクロイ・シュネーズ殿。貴殿の今日までの王家への貢献、及びその品行を鑑み……って、まどろっこしいな。貴殿にハルース伯爵位を授与する! 以上! そういうことだ!」
そういうことだと言われてもだった。
ヘルミナは小首をかしげることになる。
ルクロイに伯爵位を授与する。
そうとしか聞こえなかったのだが、それで良かったのかどうか。
ルクロイを見つめる。
彼もまた、ヘルミナを見つめてきていた。
そうして、夫婦で見つめ合うことしばし。
「……今の聞いた?」
「は、はい。確かに」
「冗談だと思う?」
ヘルミナはギネス、カシューの両名に視線を移す。
2人は得意満面で自分たちの反応を待っているが、
「……このような妙な冗談をおっしゃられる方々では無いかと」
「だよね。これは……ちょ、ちょっとおい!! 君ら、一体何したんだよ!!」
ルクロイが叫べば、ギネスが不服そうに首をひねってきた。
「求めていた反応とは違うな。もっと喜べんのか、お前は」
「よ、喜ぶも何も無いだろ! 公爵家とは言え、嫡男に過ぎない君たちだぞ!? 絶対、何か無理をしたよな!?」
よくわからない状況だが、ルクロイが何に対して怒っているのかはよく分かった。
「そ、その通りです! 何かしら私たちのためであって、お二方が無理をされたのであれば……っ!」
その結果の利益など、ルクロイ同様にヘルミナだってまったく嬉しくないのだ。
ただ、この気持ちは伝わっているのかどうか。
カシューが「ふむ」などわずかに目を見張った。
「似た者夫婦と言いますかな。気にするところはまずそことは」
「当たり前だろうが! そこ以外に何を気にするところがあるか!」
「出世とあれば、とりあえず舞い上がってもいい気はするが。まぁ、貴殿らの懸念はもっとだ。私たちはまだ嫡男。忖度は呼べても、実際の権力はさっぱりだからな」
であれば、かなりの無理を通したのではないかというのが夫の言い分だった。
ヘルミナも貴族の身分だ。
戦時であればともかく、平時において爵位などが簡単に手に入らないことはよくよく承知している。
「……あ、あの……本当に大丈夫なのでしょうか? 何か、よっぽどの無理をされたのではないのですか?」
顔を青くして尋ねることになる。
今度はギネスだった。
何故だか、快活な笑みで答えてきた。
「はっはっは。心配は無用だ。我々が何かしらの骨を折ったわけでは無い。この結果はな、貴殿の夫と、何よりヘルミナ嬢。貴女が勝ち取ったものだからな」
「は、はい? それはあの……どういう意味で?」
当然のこと、伯爵位を得られるような大勝負に挑んだ覚えなど無いのだった。
ギネスは再びの快笑を響かせる。
「はははは! やはりお気づきでは無かったか。では、説明をだな。任せたぞ、カシュー」
「面倒くさがるなと言いたいところだが任されてやろう。貴殿らは、ユーガルド公爵をご存知か?」
ヘルミナの頭にはパッと理解は生まれなかったが、ルクロイは違うようだった。
「知らないわけがあるか。俺の雲の上の親玉みたいなものだぞ」
言われて思い出した。
雲の上の人であれば、話題に上がることは少ないのだが、確かに聞き覚えはあった。
「確か、外務卿閣下……でしたでしょうか?」
外交にまつわる最上の役職だ。
カシューは頷きを見せてくる。
「そうです。元は内務卿閣下でしたが、有能なことが祟って外務卿も兼務させられている不憫な方ですが……先日、ギネスと共にお会いする機会がありましてな。優秀な人材がいないと深く嘆いておられました」
ここでルクロイだった。
うっ、と呻いて軽く頭をかいた。
「な、嘆いておられたか。それはまったく申し訳ないところだが……」
外務に関する役人として非力さを嘆いているらしかった。
だが、カシューは笑って首を左右にする。
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