せっかく王家に婚約破棄されたので、好きな人に告白しようと思いましたが……え、彼が王家の隠し子? やっぱり私が王妃?

甘海そら

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1、婚約破棄だそうです

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「……はぁ?」

 そんな疑問の声を上げて、リディアは思わず口を手で押さえた。

(い、いかんいかん。この声は淑女しゅくじょらしくは無いな)

 内心で自制を呟いたのだが、同時に首をかしげることになる。
 はたしてこの状況は、のんきに自らの振る舞いを気にしている場合なのか?

 にぎやかであるべきお茶会の場は静まり返っていた。
 その原因はと言えば、リディアの目の前にいる男性だ。
 下品な笑みを浮べれば、若い女性の腰を抱いているやや太り過ぎの青年。

 彼の一言があればこそ、リディアは「はぁ?」などと思わず呟くことになったのであった。

(本当か、あれ?)

 事実だとは思い難い発言であれば、実在を疑いたくなるのだった。
 リディアは思わず問いかけることになる。
 
「あの、よろしいでしょうか? 先ほどの発言をもう一度繰り返していただいても?」

 事実である片鱗へんりんがうかがえるのだった。
 男性はニヤリと侮蔑の笑みを向けてくる。

「ふん。がさつな大女は耳まで怠惰なようだな。いいだろう。心して聞くがいい」

 男性は気取った仕草でふんざり返った。

「リディア・オスニール! 貴様に将来の王妃の座などふさわしくない! ユスク・オル・エルシールの名の下に、貴様との婚約の破棄をここに宣言する!!」

 男性──ユスクは非常に満足げだったが、それはともあれだ。

(……ふーむ)

 リディアは思わず腕組みだった。
 もはや淑女らしさなどにこだわってはいられなかった。
 腕組みをすれば首をひねって現状の理解に専念する。

(冗談……なのか? いや、冗談にしては悪質すぎれば……ほ、本気か?)

 本気だとすれば、それ自体が冗談のような状況だった。
 これがユスク──この国の皇太子が吐いた言葉だとすれば、あまりバカバカし過ぎる。

「あー、殿下? 殿下はこの婚約の意味をご存知なのでしょうか?」

 念のため、一応尋ねておく。
 ユスクは「ほぉ?」などと口にして目を細めてきた。

おとこ女にしては女々しいことを言うな。私の心を繋ぎ止めようと、妙な横道にそれようとしているのだな? ん?」

 リディアの方こそ「ほ、ほぉ?」だった。
 次いで、こめかみを押さえて天を仰ぐことにもなる。

(この国はもうダメかもしれん……)

 この婚約に対して、皇太子がこの程度の理解と言うべきか理解を示そうともしていない現状なのだ。

 窮地の王家への救済策。

 それがこの婚約の大きな意味であるはずなのだが。
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