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第一章

33.共同生活の始まり ①

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 矢神はある物音で目が覚めた。眠りが浅いので少しのことで起きてしまうのだ。
 猫がいたずらしているのかと思ったが、昨日から遠野が同居していることを寝ぼけた頭でぼんやり思い出す。

 昨夜は、引っ越しの片づけが終わった後、外で軽く食事をし、「適当に使っていいから」と言ってさっさと部屋に籠ってしまった。
 仕事が溜まっていたというのもあるが、家で二人きり、何を話せばいいのかもわからず、一緒にいるのが気まずかったのだ。

 初日からこんな状態では先が思いやられる。
 サイドテーブルの上の目覚まし時計に目をやれば、時刻はまだ五時を回っていなかった。

「あいつ、随分早いな……」

 慣れない家で何か困っているのかもしれない。
 咄嗟にそう判断した矢神は、眠たい目を擦りながら起き上がり、自分の部屋を出た。

 廊下にいた猫のペルシャが、ご飯を催促するように鳴きながら矢神の脚に絡みついてくる。
 リビングには明かりが点いていた。ペルシャを抱き寄せドアを開ければ、キッチンに遠野が立っていた。

「矢神さん、おはようございます。起こしちゃいましたか?」
「おはよ……っていうか何してんだ?」

 遠野はエプロン姿だったが、妙に似合っていて全く違和感がなかった。

「朝食の準備を、矢神さん食べますよね?」
「食べるけど、冷蔵庫に何もなかっただろ」
「近くのコンビニでいろいろ買ってきちゃいました。お米だけ勝手に使わせてもらったんですけど」

 ペルシャにご飯をやりながら遠野の周りを見ると、買ってきたものが入った袋が何個か置かれている。

「わざわざ買ってきたんだ……」

 いったい何時から起きて準備をしていたのだろう。それとも、昨夜矢神が部屋に籠った後に、買いに出掛けたということも考えられる。

「オレ、これくらいしかできないので」

 遠野は申し訳なさそうに少し笑った。

 昨日、彼は家賃を半分払うと言ってきたのだが、それでは金が貯まらないから意味がないと断わったのだ。

 そしたら、今にも泣きそうな困った顔をして、

「オレは矢神さんに何をすればいいんですか?」

 と言うもんだから、

「余計なことはするな! 早く金を貯めてここから出て行くことだけを考えろ!」

 と怒鳴ったのだった。

 余っている部屋を貸しているだけなのだ。金が欲しいわけではない。
 だからたぶん、遠野はない頭で考え、部屋を借りているお返しに朝食を作ることを考えたのだろう。

 それにしても、遠野が料理をするとは思わなかった。
 全くイメージしていなかった矢神は、半ば驚いていた。
 面倒だから買ってきたものを食べる。そんな大雑把な感じなのかと勝手に想像していた。現に矢神はそのタイプなのだ。
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