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第二章

23.同僚の相談と危険な状況 ②

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 嘉村の家に行くのは、いつ以来だろうか。前はよく、仕事が終わった後に寄っていろいろな話をした。 お互い悩んでいることに対してアドバイスをしたり、時には意見が食い違ったりして言い争いをすることもあった。だが、充実した時間だった。

 矢神はそんなことを考えながら嘉村の玄関のチャイムを押した。
 扉が開き、顔を出した嘉村に「どうぞ」と部屋に上がるように促された。

「これ、ビール買ってきたけど」

 六缶パックの缶ビールが入ったビニール袋を渡せば、少し驚いた顔をして受け取る。

「よく覚えてたな」
「ああ」

 彼の家に行く時には、矢神がビールを買っていき、嘉村がつまみを準備する、そんなルールがいつの間にか出来上がっていた。 矢神は、以前と同じく行動を起こしたまでだったが、嘉村にとっては意外な行動に思えたのだろう。
 それほど、こうやって二人で会うのは久しぶりだったからだ。

 嘉村の部屋は前に来た時と変わらず、モノトーンのシンプルな部屋だ。落ち着かないとかで、あまり物を置くのが好きじゃないらしい。テーブルにソファー、テレビがあるくらいだ。

 そのテーブルの上には皿が二枚置いてあり、一枚にはチーズや小袋のスナック類、もう一枚には枝豆が盛ってあった。嘉村の方も忘れずに準備していたということだ。

 いつもはソファーに嘉村が座り、テーブルを挟んで向かいに矢神が座るというのが定位置だった。迷わず矢神はそこに座って枝豆を摘まんだ。

「で、相談って?」
「ああ、相談ね」

 缶ビール二本を持ってきた嘉村は、ソファーに座らず、なぜかテーブルの角を挟んで斜め横に座った。

 おかしな感じを受けながらも、缶ビールのフタを開けてごくごくと喉を潤した。だが、そのビールはあまり冷えてなくてがっかりする。
 嘉村の方も缶ビールを口にして不満そうな表情を浮かべた。

「冷蔵庫に冷えてるのがあるけど、どうする?」
「いや、大丈夫だ」

 ひたすらビールを飲んで、つまみを食べる。二人の間には張りつめた空気が漂い、会話はほとんど続かなかった。
 なかなか本題に入ろうとしない嘉村に、彼が相談しやすいよう矢神が自らその名を口にする。

「眞由美のことだろ」

 嘉村はふっと口元に笑みを作った。

「別れたよ」
「別れた? どうして」

 思いもよらない嘉村の発言に思わず身を乗り出す。相談というから、その前の段階だと思っていた。

「どうして? オレがあの女のことが本当に好きで付き合ってたと思ってたのか?」
「違うっていうのかよ」

 嘉村は中指で眼鏡をあげながら、矢神の方を見た。眼鏡の奥の視線が、まっすぐと向けられる。

「あいつは、尻軽女だよ。おまえと付き合いながら、何人もの男とも付き合ってた」
「はっ、何だよそれ。そんなわけないだろ」

 呆れるように言う彼の言葉は信じられないものだった。嘉村以外に、彼女がそんな素振りを見せたことは一度もなかったからだ。
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