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第三章

27. 悩みに寄り添うオネエの言葉 ⑤

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「うじうじするな! 無理矢理でも話しな。心配なんだろ?」

 キッパリ言う杏に圧倒されたが、自分よりもずっと男らしかった。

「そうですね。オレ、帰ります」

 矢神は席から立ち上がり、清々した気持ちでいた。

「えー、もう帰っちゃうの? ビールも全然飲んでないじゃない」

 杏が急に甘えるような声を出してきた。

「杏さんが遠野と話せって言ったんじゃないですか」

 ころころと変わるから、どれが本当の姿かわからなくなる。

「今じゃなくてもいいじゃない。せっかく来たのに」
「早く……遠野と話がしたい」

 先ほど肩を叩かれたこともあり、杏に気合いを入れられ、背中を押されたような気がしていた。今なら、遠野に声をかけて話し合える。そんな強い思いがふつふつと湧いてきていた。

「矢神クンがそう思ってるなら、邪魔しないわ」

 ここに来て、遠野のことは何もわからなかった。だが、自分が何をすべきか改めて考えることができたのだ。
 杏は相変わらず苦手なタイプではあるが、話せて良かったと感謝していた。
 人と話すだけでこんなにも気持ちを入れ替えることができる。それなら、きっと遠野も話すことで何かが変わるかもしれない。

「アタシも大ちゃんのことは心配してるのよ。矢神クンならきっと支えてくれるって信じてる。だから、これは杏さんからの大サービス!」

 両手を胸の前でグーの形にして、小首を傾げて可愛らしい笑みを浮かべる。まるでアイドルのポーズみたいに。
 これは素でやっているのか、計算なのか。

「なんですか?」

 若干呆れつつ、お金を置いて、店の出口に向かった。
 後ろからついてきた杏が、真剣な声色ではっきりと言う。

依田宗一よだそういちは、大ちゃんにとって本当に好きだった人なのよ」

 振り返れば、杏の顔から笑みは消えていて、哀しげな表情で矢神を見つめる。

「きちんと話聞いてあげてね、矢神クン」
「……はい」
「頼んだわよー」

 店の外まで出てきて、手を振って送ってくれる杏に、礼をして矢神は店を後にした。

 杏の最後の言葉に、もやもやが募った。
 依田が遠野にとってどういう相手なのか、予想はできてた。たぶん、そうなのだろうと。

 もしかしたら、確信が欲しくてこの店に来たのかもしれない。
 それならどうして、こんなにも胸が痛むのか。

 今もこの時間、遠野は依田と会っているのだろうか。本当に好きだったという相手と、夜遅くまで会って話だけで終わるわけがない。

 矢神は、お酒はほとんど飲んでいなかった。
 それなのに、吐きそうなほど苦しくて胸が張り裂けそうだった。
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