4 / 87
第1章 【side 敦貴】
01.イライラが募る同窓会 ①
しおりを挟む
高校を卒業してから5年が経っていた。
同級生とはほとんど連絡を取っていなかった小此木敦貴だったが、この日は同窓会に参加していた。
本当のところ、行くのが面倒で全く乗り気じゃなかった。
それなのに勤めるラーメン店の店主に「営業してきてね」とお願いされ、しぶしぶやってきたのだ。上司には逆らえない。
同窓会の会場はホテルで、料理はビュッフェだった。
敦貴は誰かと楽しく喋るということはせず、食べることに夢中になっていた。
ビーフシチューやポテトグラタン、握り寿司に4種のチーズピザなど、並んでいる料理はどこかで見たことのある変わり映えしないものだ。
それが想像以上に美味しくて、口いっぱいに頬張ってしまう。
「他のも食べてみよう」
気分を良くして席を立ち上がれば、トンッとぶつかった同級生に驚かれた。
「おわっ、敦貴か? おまえ、相変わらずでかいな。まだ背伸びてんの?」
「んー、測ってないからわかんなーい」
「小此木は学生の頃から目立ってたよな」
好きで目立っていたわけではない。ただ、身体が大きいせいでどこにいてもすぐわかるとよく言われた。
この時も、立ち上がった途端、急に懐かしい顔が集まってきた。
「敦貴くん、カッコよくなってる」
「私、恋人に立候補してもいい?」
「おまえ、彼氏いるって言ってたじゃん」
敦貴の周りでは同級生たちが好き放題喋っていたが、当の本人は食べたい料理を皿いっぱいに乗せて席に戻った。
すると、旧友たちも敦貴の周りに座り始める。
顔を見てすぐに名前が出てくる人もいれば、こいつ誰だっけ?という人も中にはいた。
同級生と会っても特に話をすることはないと思っていたが、美味しい料理を食べながら友人たちの話を聞いているうちに段々と楽しくなってくる。久しぶりに思い出話をするのも悪くないと感じた。
ポテトグラタンを味わいながら、敦貴はふと辺りを見渡す。
ある人物を探していた。同窓会は面倒だけど、一人だけ会いたい人がいる。
こういう行事に進んで参加するタイプではないのはわかっていた。現に、卒業式の打ち上げも不参加だった。
それでも小さな希望を持ってしまう。
ふうっとため息を吐いてステーキが乗った皿を手に取れば、背後から肩をポンッと叩かれた。
「よお、ノギじゃねーか。来てたんだ?」
そう言って男は、敦貴から皿をひょいっと奪い取り、楽しみにしていたステーキをそのまま自分の口に入れたのだ。
「あっ!」
「これ、すげーウマい」
満足そうな顔をしたその男は、元同級生の柿田だった。
片手にはジョッキに入ったビールを持っていて、飲みながら敦貴の隣の席に座る。
怒りがふつふつと湧き上がっていた。
ステーキを食べたければまた取りに行けばいいだけのこと。だが、相手が柿田だったというのもあるのかもしれない。
彼とは特に仲が良かったわけではない。噂好きと評判で、さらには勝手に『ノギ』と親しみを込めて呼んでくるところがあまり好きではなかったのだ。
「こっちもウマそう」
柿田が手を伸ばし、揚げたて熱々の天ぷらの皿を取ろうとしたから慌ててその手を阻止する。
「自分で取って来いよ」
「少しくらいいいだろ」
ビールをごくごくと飲んで、柿田は豪快に笑う。
それを見ているだけで、一気に不快な気持ちになった。
やっぱり来なければ良かった。
さっきまでは、美味しい料理と友人の楽しい話に喜んでいたのに、すっかり頭から消えてなくなっていたのだ。
この男に関わりたくない。
席を離れようとしたら、柿田の口から懐かしい名前が挙がった。
「この間、仲谷に会ったんだよ」
それは敦貴にとって、今一番会いたい人の名前だ。
「え、コウちゃん? 日本に戻ってるの?」
いつの間にか身を乗り出して、敦貴は柿田の前にいた。こんな奴とは話したくないのに身体が勝手に動いていたのだ。
同級生とはほとんど連絡を取っていなかった小此木敦貴だったが、この日は同窓会に参加していた。
本当のところ、行くのが面倒で全く乗り気じゃなかった。
それなのに勤めるラーメン店の店主に「営業してきてね」とお願いされ、しぶしぶやってきたのだ。上司には逆らえない。
同窓会の会場はホテルで、料理はビュッフェだった。
敦貴は誰かと楽しく喋るということはせず、食べることに夢中になっていた。
ビーフシチューやポテトグラタン、握り寿司に4種のチーズピザなど、並んでいる料理はどこかで見たことのある変わり映えしないものだ。
それが想像以上に美味しくて、口いっぱいに頬張ってしまう。
「他のも食べてみよう」
気分を良くして席を立ち上がれば、トンッとぶつかった同級生に驚かれた。
「おわっ、敦貴か? おまえ、相変わらずでかいな。まだ背伸びてんの?」
「んー、測ってないからわかんなーい」
「小此木は学生の頃から目立ってたよな」
好きで目立っていたわけではない。ただ、身体が大きいせいでどこにいてもすぐわかるとよく言われた。
この時も、立ち上がった途端、急に懐かしい顔が集まってきた。
「敦貴くん、カッコよくなってる」
「私、恋人に立候補してもいい?」
「おまえ、彼氏いるって言ってたじゃん」
敦貴の周りでは同級生たちが好き放題喋っていたが、当の本人は食べたい料理を皿いっぱいに乗せて席に戻った。
すると、旧友たちも敦貴の周りに座り始める。
顔を見てすぐに名前が出てくる人もいれば、こいつ誰だっけ?という人も中にはいた。
同級生と会っても特に話をすることはないと思っていたが、美味しい料理を食べながら友人たちの話を聞いているうちに段々と楽しくなってくる。久しぶりに思い出話をするのも悪くないと感じた。
ポテトグラタンを味わいながら、敦貴はふと辺りを見渡す。
ある人物を探していた。同窓会は面倒だけど、一人だけ会いたい人がいる。
こういう行事に進んで参加するタイプではないのはわかっていた。現に、卒業式の打ち上げも不参加だった。
それでも小さな希望を持ってしまう。
ふうっとため息を吐いてステーキが乗った皿を手に取れば、背後から肩をポンッと叩かれた。
「よお、ノギじゃねーか。来てたんだ?」
そう言って男は、敦貴から皿をひょいっと奪い取り、楽しみにしていたステーキをそのまま自分の口に入れたのだ。
「あっ!」
「これ、すげーウマい」
満足そうな顔をしたその男は、元同級生の柿田だった。
片手にはジョッキに入ったビールを持っていて、飲みながら敦貴の隣の席に座る。
怒りがふつふつと湧き上がっていた。
ステーキを食べたければまた取りに行けばいいだけのこと。だが、相手が柿田だったというのもあるのかもしれない。
彼とは特に仲が良かったわけではない。噂好きと評判で、さらには勝手に『ノギ』と親しみを込めて呼んでくるところがあまり好きではなかったのだ。
「こっちもウマそう」
柿田が手を伸ばし、揚げたて熱々の天ぷらの皿を取ろうとしたから慌ててその手を阻止する。
「自分で取って来いよ」
「少しくらいいいだろ」
ビールをごくごくと飲んで、柿田は豪快に笑う。
それを見ているだけで、一気に不快な気持ちになった。
やっぱり来なければ良かった。
さっきまでは、美味しい料理と友人の楽しい話に喜んでいたのに、すっかり頭から消えてなくなっていたのだ。
この男に関わりたくない。
席を離れようとしたら、柿田の口から懐かしい名前が挙がった。
「この間、仲谷に会ったんだよ」
それは敦貴にとって、今一番会いたい人の名前だ。
「え、コウちゃん? 日本に戻ってるの?」
いつの間にか身を乗り出して、敦貴は柿田の前にいた。こんな奴とは話したくないのに身体が勝手に動いていたのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる