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第1章 【side 敦貴】

35.指名拒否?

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 向かった先は、皇祐が働いている店シャトラールだ。店には来るなと言われたが、どうしても会わないといけなかった。

 店に着いたらすぐに、受付で皇祐を指名する。何時でも待つ勢いだった。
 しかし、なぜか受け付けてもらえない。初めて訪れた時のようにまたそこで一暴れしそうになった。

「ねー、なんで、コウちゃんはダメなの?」

 受付に身を乗り出して、スタッフに詰め寄った。だが、その男性は、冷静に落ち着いて対応する。

「大変申し訳ありません。違うキャストでしたらご予約可能でございます。新人のアキラはいかがでしょうか。イケメンで現在おすすめのキャストとなっております」

「オレは、コウちゃんに会いたいんだって!」
「コウは指名できません。他のキャストでお願い致します」
「他の人なんてどうでもいいよ……」

 これ以上何を言っても、取り合ってもらえないような気がした。たぶん皇祐が店に手を回して、敦貴が予約できないようにしたのだろう。

 仕方がないので、皇祐が店から出てくるまで外で待つことにする。明らかに不審者に見えるので、なるべく店から離れて物陰に隠れるようにしていた。

「腹減ったー。なんか買ってくれば良かったなあ」

 先ほどから腹の虫が鳴ってうるさかった。でも、いつ出てくるかわからなかったから、その場を離れることはできない。

 よくドラマなどで、警察が張り込みをする映像が流れることがあるが、あれを見る度、敦貴はだるくて面倒だから自分にはできないと思っていた。それが今、自ら行っているのだから不思議だ。皇祐のためなら、自分では想像できないことをやってのけるのかもしれない。

 外で待ち始めてから、かれこれ数時間は経っていた。仕事でもほとんど座ることはないのに、待っている間もずっと立ちっぱなしだったから足が棒のようだ。ついには、しゃがんでしまい壁に寄り掛かる。
 皇祐に会うまでは諦めたくないのだが、何度も心が折れそうになる。
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