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第2章 【side 皇祐】
07.きらめく好奇心
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店の待機室で、皇祐がぐったりしていれば、背後から声をかけられた。
「例の客の相手だったんでしょ? 大丈夫?」
同じ店で働いているリオ、本名は東田理央人だ。
モデルのような長身で、店の中でもダントツにスタイルがいい。大人っぽいショートボブが落ち着きを感じさせ、凛とした美しい女性――そう誰もが勘違いするが、れっきとした男性なのだ。
本人曰く、声変わりがほとんどなかったようで、声が高めだから余計に気づかれない。
かわいいもの、きれいなものを好み、女性のように振る舞う。
最初は仕事柄、わざとそんな風にしているのかと思っていたが、リオは普段からこんな感じだった。
「少し休んだから、大丈夫だよ」
平気というように片手をあげたが、リオは心配そうな顔をしたままだ。
「そう? 無理しない方がいいわよ」
「ありがとう」
世話を焼くのが好きらしく、いつも人の心配ばかりしていた。たまに、ありがた迷惑に感じることもある。
「ねえ、アタシ、もう上がりなの。コウもでしょ? ご飯食べに行かない? お腹空いちゃった」
「いいよ」
「ボクも上がりなんで、一緒に行きます」
二人の話を聞いていたらしく、テルこと、仁科輝明も帰る準備を終えて、寄り添うように皇祐の隣に並んだ。
テルは皇祐と同じくらいの背格好で、可愛らしい顔をしているから客の評判は良かった。皇祐と双子のようだと、セットで予約を入れる客もいる。しかし、相手に全く媚びないので嫌われる確率も高かった。
「アンタは来なくていいわよ」
リオは、手でしっしと追い払うような仕草をした。そんなことは気にしないテルは、皇祐の腕に自分の腕を絡めてくる。
「コウくんがリオさんに襲われたら困るんで」
「それは、アンタでしょ! 一緒にしないで!」
キャストは他にもたくさんいるが、皇祐がよく話をするのはこの二人だ。
皇祐とリオにテル、この三人は店の中で別枠にされていた。
三人とも、シャトラールの経営者である社長に借金を肩代わりしてもらっていて、その返済のためにこの店で働いている。だから、身体を張って稼いだお金は、ほとんどがこの店に流れていた。
それでも、社長はいくつか不動産を持っているから、住居を安い家賃で借りることができたり、店ではVIPな客を優先的に回してもらえたり、三人はかなり優遇されている。
他のキャストとは少し待遇が違うから、必然的に三人でいることが多くなるのだ。
リオとテルの仲が良いかどうかは、怪しいところだが。
「で、何食べに行く? アタシ、ラーメンが食べたい気分だわ」
「リオがラーメンなんて、珍しいな」
普段は決まって、近くにあるイタリアンレストランへ食べに行く。静かで落ち着いた雰囲気とおしゃれな店内が、リオのお気に入りだ。何より24時間営業だから仕事帰りでも寄れる。
「リオさん、わざとらしいです」
呆れるように小さくため息を吐いたテルが肩を竦めた。
「何よ、直接言えって?」
テルの言葉にリオは不機嫌そうな顔をしている。
二人のやりとりに、皇祐は首を傾げた。
「どういうことだ?」
「あのね、コウの恋人が見てみたいなーって。ラーメン屋で働いてるんでしょ?」
恋人という言葉に、ドキリと鼓動が跳ねる。
二人には隠しておきたくなくて、敦貴のことは報告していた。
「ボクも、コウくんの好きになった人がどんな人なのか興味があります」
「だから、その店に行ってラーメン食べましょう。まだ営業してるわよね」
まさか、見てみたいと言われるとは思っていなくて、予想外のことに戸惑ってしまう。
「……面白がってるだけだろ?」
「違うわよ。コウの恋人に挨拶しておきたいなあと思って」
否定はしていたが、二人の目は今まで見たことがないほど、きらきらと輝いていて好奇心いっぱいだというのがまるわかりだ。
連れて行くのは気が引けたが、断ったところで彼らが諦めるとは思えなかった。
それなら、嫌なことはすぐに終わらせた方がいい。一度会えば満足するだろう。
皇祐はそう自分を納得させるのだった。
「例の客の相手だったんでしょ? 大丈夫?」
同じ店で働いているリオ、本名は東田理央人だ。
モデルのような長身で、店の中でもダントツにスタイルがいい。大人っぽいショートボブが落ち着きを感じさせ、凛とした美しい女性――そう誰もが勘違いするが、れっきとした男性なのだ。
本人曰く、声変わりがほとんどなかったようで、声が高めだから余計に気づかれない。
かわいいもの、きれいなものを好み、女性のように振る舞う。
最初は仕事柄、わざとそんな風にしているのかと思っていたが、リオは普段からこんな感じだった。
「少し休んだから、大丈夫だよ」
平気というように片手をあげたが、リオは心配そうな顔をしたままだ。
「そう? 無理しない方がいいわよ」
「ありがとう」
世話を焼くのが好きらしく、いつも人の心配ばかりしていた。たまに、ありがた迷惑に感じることもある。
「ねえ、アタシ、もう上がりなの。コウもでしょ? ご飯食べに行かない? お腹空いちゃった」
「いいよ」
「ボクも上がりなんで、一緒に行きます」
二人の話を聞いていたらしく、テルこと、仁科輝明も帰る準備を終えて、寄り添うように皇祐の隣に並んだ。
テルは皇祐と同じくらいの背格好で、可愛らしい顔をしているから客の評判は良かった。皇祐と双子のようだと、セットで予約を入れる客もいる。しかし、相手に全く媚びないので嫌われる確率も高かった。
「アンタは来なくていいわよ」
リオは、手でしっしと追い払うような仕草をした。そんなことは気にしないテルは、皇祐の腕に自分の腕を絡めてくる。
「コウくんがリオさんに襲われたら困るんで」
「それは、アンタでしょ! 一緒にしないで!」
キャストは他にもたくさんいるが、皇祐がよく話をするのはこの二人だ。
皇祐とリオにテル、この三人は店の中で別枠にされていた。
三人とも、シャトラールの経営者である社長に借金を肩代わりしてもらっていて、その返済のためにこの店で働いている。だから、身体を張って稼いだお金は、ほとんどがこの店に流れていた。
それでも、社長はいくつか不動産を持っているから、住居を安い家賃で借りることができたり、店ではVIPな客を優先的に回してもらえたり、三人はかなり優遇されている。
他のキャストとは少し待遇が違うから、必然的に三人でいることが多くなるのだ。
リオとテルの仲が良いかどうかは、怪しいところだが。
「で、何食べに行く? アタシ、ラーメンが食べたい気分だわ」
「リオがラーメンなんて、珍しいな」
普段は決まって、近くにあるイタリアンレストランへ食べに行く。静かで落ち着いた雰囲気とおしゃれな店内が、リオのお気に入りだ。何より24時間営業だから仕事帰りでも寄れる。
「リオさん、わざとらしいです」
呆れるように小さくため息を吐いたテルが肩を竦めた。
「何よ、直接言えって?」
テルの言葉にリオは不機嫌そうな顔をしている。
二人のやりとりに、皇祐は首を傾げた。
「どういうことだ?」
「あのね、コウの恋人が見てみたいなーって。ラーメン屋で働いてるんでしょ?」
恋人という言葉に、ドキリと鼓動が跳ねる。
二人には隠しておきたくなくて、敦貴のことは報告していた。
「ボクも、コウくんの好きになった人がどんな人なのか興味があります」
「だから、その店に行ってラーメン食べましょう。まだ営業してるわよね」
まさか、見てみたいと言われるとは思っていなくて、予想外のことに戸惑ってしまう。
「……面白がってるだけだろ?」
「違うわよ。コウの恋人に挨拶しておきたいなあと思って」
否定はしていたが、二人の目は今まで見たことがないほど、きらきらと輝いていて好奇心いっぱいだというのがまるわかりだ。
連れて行くのは気が引けたが、断ったところで彼らが諦めるとは思えなかった。
それなら、嫌なことはすぐに終わらせた方がいい。一度会えば満足するだろう。
皇祐はそう自分を納得させるのだった。
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