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第2章 【side 皇祐】
27.愛と傷の交錯 ①
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皇祐の家に着くまで、二人の会話はほとんどなかった。
お互いどこかぎこちなくて、微妙に距離を取って歩いていたのだ。
家の中に入ると、敦貴は奥の部屋に行き、ベッドを背もたれにして座った。いつもそこが、二人で話をする時の敦貴の定位置だった。
皇祐は、冷蔵庫で冷やしてあったお茶をグラスに入れて敦貴に手渡す。
「ありがとう」
そう言って、敦貴は喉が渇いていたのか、一気にごくごくとお茶を飲み干してしまう。
「もう一杯いる?」
「ううん、大丈夫」
皇祐は、話がしやすいように敦貴と向き合って座った。
「コウちゃんの話って?」
敦貴の話を聞いてから、自分は話をするつもりだったから一瞬戸惑った。だけどきっと、お互い同じことを考えている。それなら、どちらが先に言っても変わらないはずだ。
落ち着かせるように小さく息を吐いた皇祐は、思いきって言葉を口にする。
「敦貴、僕たち、別れよう」
伝えた途端、敦貴が驚いたように腰を上げた。
「え? そんな話なの? やだよ!」
敦貴の様子からして、彼の話は皇祐とは違う内容のようだ。それでは何を話すつもりだったのだろう。
すごく気になったが、敦貴に流されないうちにはっきりしておいた方がいい。そう考え直す皇祐は、言葉を続けた。
「敦貴と一緒にいると、疲れるんだ」
敦貴の顔が、絶望したように真っ青になる。
それを見ているだけで、胸にひりひりする痛みが広がっていった。
本当は、こんなこと言いたくはなかった。だけど、曖昧な言葉を並べても敦貴には通じない。
この先一緒にいても傷つけるだけならば、今は嫌な男になって全てを終わりにしたい。
「……嫌いに、なったってこと?」
眉を下げて今にも泣き出しそうな表情で、皇祐を見つめてくる。心が激しく揺さぶられた。
敦貴から視線を外して、静かに答える。
「……そうだな」
「オレは、コウちゃんのこと大好きだよ」
ここまで言われても、敦貴は気持ちをぶつけてくる。もう、彼の顔を見ることはできなかった。
「ありがとう。だけど、もう終わりにしよう」
「嫌だ! 終わりにしない!」
腕を掴まれたから、反射的に振り払ってしまった。
「僕に、触らないでくれ」
敦貴に触れられたら、すぐに気持ちが傾く。それほどまでに、心の中は不安定になっていた。
「オレのこと、そんなに嫌なの?」
「……もういいだろ? 話はそれだけだ。出てってくれ」
立ち上がって彼に背を向けた。早く自分の前からいなくなって欲しい。そう願った。一緒にいる時間が長ければ長くなるほど、決心が鈍りそうになる。
だが、その願いはすぐに叶うことはないようだ。
「待って、オレの話はまだ終わってない」
敦貴の真剣な声が、耳に届いた。
恐る恐る振り返れば、まっすぐな眼差しをこちらに向けてくる。力強い熱い視線だ。全身を絡め取られそうで、身動きができない。
彼の話を聞くのが怖かった。自分の気持ちが揺らいでしまうのが、簡単に想像できたからだ。
どうしていいかわからず、その場で立ち尽くしていた。
お互いどこかぎこちなくて、微妙に距離を取って歩いていたのだ。
家の中に入ると、敦貴は奥の部屋に行き、ベッドを背もたれにして座った。いつもそこが、二人で話をする時の敦貴の定位置だった。
皇祐は、冷蔵庫で冷やしてあったお茶をグラスに入れて敦貴に手渡す。
「ありがとう」
そう言って、敦貴は喉が渇いていたのか、一気にごくごくとお茶を飲み干してしまう。
「もう一杯いる?」
「ううん、大丈夫」
皇祐は、話がしやすいように敦貴と向き合って座った。
「コウちゃんの話って?」
敦貴の話を聞いてから、自分は話をするつもりだったから一瞬戸惑った。だけどきっと、お互い同じことを考えている。それなら、どちらが先に言っても変わらないはずだ。
落ち着かせるように小さく息を吐いた皇祐は、思いきって言葉を口にする。
「敦貴、僕たち、別れよう」
伝えた途端、敦貴が驚いたように腰を上げた。
「え? そんな話なの? やだよ!」
敦貴の様子からして、彼の話は皇祐とは違う内容のようだ。それでは何を話すつもりだったのだろう。
すごく気になったが、敦貴に流されないうちにはっきりしておいた方がいい。そう考え直す皇祐は、言葉を続けた。
「敦貴と一緒にいると、疲れるんだ」
敦貴の顔が、絶望したように真っ青になる。
それを見ているだけで、胸にひりひりする痛みが広がっていった。
本当は、こんなこと言いたくはなかった。だけど、曖昧な言葉を並べても敦貴には通じない。
この先一緒にいても傷つけるだけならば、今は嫌な男になって全てを終わりにしたい。
「……嫌いに、なったってこと?」
眉を下げて今にも泣き出しそうな表情で、皇祐を見つめてくる。心が激しく揺さぶられた。
敦貴から視線を外して、静かに答える。
「……そうだな」
「オレは、コウちゃんのこと大好きだよ」
ここまで言われても、敦貴は気持ちをぶつけてくる。もう、彼の顔を見ることはできなかった。
「ありがとう。だけど、もう終わりにしよう」
「嫌だ! 終わりにしない!」
腕を掴まれたから、反射的に振り払ってしまった。
「僕に、触らないでくれ」
敦貴に触れられたら、すぐに気持ちが傾く。それほどまでに、心の中は不安定になっていた。
「オレのこと、そんなに嫌なの?」
「……もういいだろ? 話はそれだけだ。出てってくれ」
立ち上がって彼に背を向けた。早く自分の前からいなくなって欲しい。そう願った。一緒にいる時間が長ければ長くなるほど、決心が鈍りそうになる。
だが、その願いはすぐに叶うことはないようだ。
「待って、オレの話はまだ終わってない」
敦貴の真剣な声が、耳に届いた。
恐る恐る振り返れば、まっすぐな眼差しをこちらに向けてくる。力強い熱い視線だ。全身を絡め取られそうで、身動きができない。
彼の話を聞くのが怖かった。自分の気持ちが揺らいでしまうのが、簡単に想像できたからだ。
どうしていいかわからず、その場で立ち尽くしていた。
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