就職したら運命の隠れαに愛されました

こたま

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 今年も財閥系総合商社である野々村物産の入社式がホテルの大きな宴会場で行われた。

「えー、諸君ご存じの通り、雇用機会均等法が施行されて10年、わが社は今年もすべてのバースに渡る多くの優秀な新入社員を迎え入れる事が出来ました。各人の自己実現、当社のより一層の発展を願って、お祝いの言葉とさせて頂きます」

 短い会長挨拶に続いて社長以下、重役方の挨拶、激励のスピーチが述べられる。渡辺 暖(わたなべ はる)は大学を無事卒業し、今年度から野々村物産にΩ枠で採用された。多言語を操れるため、各国から原材料を輸入するトレーディング部門に配属される事が決まっている。

 暖はαの父、女性Ωの母の間に産まれた。長男として、両親にも祖父母にも可愛がられた幼少期であった。しかし男子としては小さく儚げで、Ωと診断された。後に産まれた妹は大きめでしっかりしており、後にαとわかった。
 家族の中で妹が中心になって、虐げられはしないが暖の自己評価は下がって行った。父の海外赴任によって幾つかの国に住むことが出来たから、せめて言語を習得しようと、頑張った成果が就職に役立った。

 式典後は、そのまま新人研修の一部が始まった。既に大学在学中にインターンとして会社に行っていたこともあり、幾人か知っている新入社員も先輩もいる。
 まずは社会人としての基本的な事項について講義があり、名刺交換や電話対応、お辞儀の仕方、メールの作法等を確認。翌日も新人研修が続くことになっている。

 終了間際、暖は誰かの視線を感じた。会場の隅の方から、強く自分を見ているような。誰か、インターンで知り合った人が見つけてくれたのか?視線の来た方を見てみたが、知っている人は見つからず、見られている感じもしなくなっていた。

 最後に新人同士、連絡先の交換をして、幾人かごとに飲み会や合コンもどきが予定された。商社マンは高収入で人気があり、仕事、恋愛と精力的な男性が多いようである。

 男性Ωの自分には需要は少ないだろうが、知り合いは増やしたいので、比較的大人しそうな飲み会に参加した。

 翌日は、ランダムにグループに別れてのディスカッション、課題解決のワークが始まった。
 暖のグループは、自分含めて男性3人、女性2人、暖の他はごく微かなフェロモンも感じず見た目からもβのようだ。指導する若手の先輩社員が一人ついてくれることになっている。

「はじめまして。野々村 大和(ののむら やまと)です。事業投資部門にいる、院卒3年目です。短い期間ですが、楽しく過ごしましょう。弊社には同じ姓が何人もいるので私の事は大和さんと呼んで下さい」

 180センチ位ありそうな高身長、仕立ての良い濃紺のスーツを着て均整の取れた男性が自己紹介をしてくれた。低い声は聞き取りやすく、声優のように艶やかだ。眼鏡をかけ、前髪を長めに下ろしているので、目元がやや分かりにくいのが残念な印象ではある。

 あれっ?と思った。昨日感じた視線から、その強さを引くとこの先輩の視線のようにも思われるが、昨日よりも柔らかな感じである。また、いかにもαのような身長と有能さを感じる声に比して、目元の長い髪がそぐわずβのようでもある。微かにフェロモンというか、香水というか、ほのかでありすぎて判断がつかない薫りがする。

 暖自身は、見た目はともかく、フェロモンで迷惑をかけないように抑制剤は欠かさない。今の抑制剤は大変合っていて、フェロモンは殆ど漏れていないだろう。

 疑問に感じながら、与えられた課題に取り組む。流石に商社に入る人々だ。皆優秀で積極的に意見が交わされる。つまづいてしまうと大和さんが、考えるヒントや仕組みを教えてくれ、有意義なグループワークを終えられた。
 発表会では、αを擁するグループが高得点であったものの、自分達の出来もまあまあ、良かったと思えた。

 グループワークの後は、指導社員を囲んで反省会をしながらお茶を飲む。解散になって大和さんが離れると、女性2人が小声で話していた。

「大和さん、惜しいよね。全体に凄く良いけど、顔と髪がもうちょっと整ってたら、完璧αみたいじゃない?」
「この商社の時点でかなりモテるだろうから、3年目ならバースが何でも既婚者じゃないの?」
「新入社員から青田買いしときたいよね」
「あっちのαとβの男子だけのグループと飲み会したいな」
「αは流石にΩを選ぶかも知れないけど、話しかけに行く?」
「行こう」

「じゃあ、私達これで。お先に失礼しまーす」

 うちのグループの男子には食指が動かなかったのか、αを含むグループにさっさとあたりをつけて行ってしまった。この会社の女子は積極的だ。
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