妹の身代わりのはずでは?平凡オメガの僕が愛されています

こたま 療養中

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 翌日の土曜日。凛の学校は午前中講義があり、終了後に正門前に至ると母が待っていた。

「母さん、本当に来た…」
「嘘なんて言いません。時間が無いから行くわよ」
「僕、お腹空いたんだけど」
「食べる所は決めてるから。そこまで頑張って」

 母と二人で、まずは老舗のデパートへ。急ぎなので吊るしのスーツとシャツ、ネクタイ、ネクタイピンや革靴を用意。
 続いて大荷物を持ってカフェに行き、母が食べたかったというお食事系ワッフルのおしゃれランチを頂く。
 さらに予約してあったという美容室で、嫌々ながら前髪を短く整えられ、アシンメトリーで流れるような綺麗めスタイルに整えられてしまった。母も少し切って整えたら、急いでエステティックサロンへ。
 フェイシャル、デコルテから全身磨き上げられると、ツルツルになった。しかし

「はあ…疲れた~。もうお腹空いたよ、ほとんど夜食の時間だよ。眠い…」
「凛~。とっても可愛いわぁ!。綺麗。連れてきて良かったぁ。いつもキレイにすれば良いのに」
「いやだよ。それより今日1日分勉強が遅れた。お腹空いた!」
「はいはい。ご飯食べて帰りましょうか?」
「もうめんどくさい。買っていこう」

 疲れた凛は中食を主張し、母と二人で弁当を家族分含めて購入した。さらに大荷物を抱えて帰宅するはめになった。

「重いわ…。お父さんを呼びましょう」
「そうだね。全部は持てないよ」

 土曜日でも仕事をしていた父の車を呼んで荷物を積み込み、自宅まで送って貰う。弁当を食べ終わると眠くて仕方がなかった。
 明日の午前中には、高級ホテルで人生初お見合いに挑まなければならない。しかし疲れはて、緊張も忘れ睡眠を貪った。

 カコーン、カコーン。小さく澄んだししおどしの音が響く。ホテル内の料亭個室。広い畳敷きに黒檀の卓。敷かれた座布団に正座をして、はて、と気付く。

「父さん、お相手!どなたなの?聞いて無い」

 一昨日の金曜日は夜遅くまで大変な騒動だった。昨日は母に連れ回されて遅くなり、今朝も早くに叩き起こされた。顔に化粧水だの何だのと塗られ、髪をセットしてドレスアップして、朝食もそこそこ、眠いままここに到着した。
 お相手の釣書も何も見ていないことに気づいた。まずい。舞の事を言っていられないではないか。

「しっ。到着されたぞ」

 廊下を歩く音がする。そして襖が開けられて、前に三人の人が座る。下を向いて軽く礼をしていた凛の耳に聞こえてきたのは

「やっぱり、凛くんだった。久しぶりだね。元気だった?会えてとても嬉しいな。髪を切ったの?似合ってる。すごく可愛い」

 ん?その声に首をやや傾けながら頭を上げると、見知った顔が大人びてそこにあった。

「先輩!?」

 中司勇心(なかつかさ ゆうしん)中司グループの御曹司で後継の長男であるアルファだ。
 ザ・アルファという外見で高い身長、色黒で精悍な顔つき、筋肉もついており頭脳明晰な学園の元生徒会長。しかし笑顔になるとふにゃっと目が下がって親しみを覚える。
 凛が中学に入学した時に、中高一貫校の高二で生徒会長だった人物だ。過去一番に優秀な生徒会長として学園の改革改良に尽力し、その名を残した。学園祭の実行委員として凛は関わったことがあったのだ。

 入学後初めての学園祭。くじ引きで実行委員会に選ばれ、右も左もわからぬまま準備をこなした。全体の会議に中学部だけの会議。クラスの出し物準備と大忙しだった。
 プログラムは印刷所にも製作を頼み、学園のトップページからネットでも見られるように作成する。多くの来場者の対応準備など初めて尽くしでてんてこ舞いだった。
 その時、会長だった勇心が一年生の中でも特に凛に目をかけ、心配して手伝ってくれたり、過去の例を示してくれたり、流れを教えてくれたのだった。

 そして学園祭前日。会議の後、帰宅する時に凛は気付いてしまった。正門前から学園への導入部にあるアプローチの花壇が晴れ続きで萎びていたことを。
 明日いらっしゃる学外のお客様にはこの花壇も楽しんで貰いたい。夕闇の迫るなか一人水やりを始めていたら、会長が手伝ってくれたのだ。
 二人でホースを持って水を撒き、花壇のゴミを片付けて。誰に誉められることなく美しく整えた花壇の様子に達成感を感じたあの日。凛は勇心と少し近づいた気持ちだった。
 勇心は、中学生の凛が帰宅の遅くなったことに責任を感じてくれた。自分の迎えの車に凛を同乗させて、自身が帰宅するより先に凛の自宅前まで送ってくれたのだった。

「勇心先輩。ご無沙汰しています。在学中は大変お世話になりました」
「他人行儀な言い方は無しにしよう。本当に会えて嬉しいよ」

「二人は知り合いだったのかい?」
「ええ、父さん。学園の後輩だよ。とても優秀で気が利いて良い子なんだ。それにとても美人だろう?」
「そうか。それは良かったな。では自己紹介は要らないね。二人でこのままデートにでも行きなさい。九十九さん、私達も仕事の話でもしましょうか」
「これはこれは。凛、お知り合いだったなら先に言ってくれよ。良かったな。では中司社長、早速ですが…」

「凛くん、ちょっと散歩でもしない?」
「はい、先輩」

 ここで家族揃って膝を突き合わせてかしこまって話しているよりも、勇心先輩と二人で話をする事が出来るならずっと良い。凛もそう思って同意し、二人で個室を出ることにした。
 母親同士も別途二人でお茶でもするということで各々が別行動になった。

 勇心に連れられてお見合い会場の和食店を出るとホテルの建物外にある中庭に出て通り過ぎる。さらにその奥には薔薇園があった。中には、幾つかのパラソルとテーブルセットがあり、休みながら薔薇を観賞できる。薔薇園でゆっくり歩きながら勇心が話した。

「九十九って珍しい名字だから、相手は君だったら良いなって願って来たんだ。昨日お見合い相手は男の子のオメガだって聞いた。君が相手で本当に嬉しいよ」
「お会い出来て、僕も嬉しいです。先輩は今T大にいらっしゃるんですよね?」
「ああ。君も来年入学するのかな?先に卒業してしまうのが残念だ」
「僕には合格出きるかどうか…」
「ふふっ。成績優秀だって、聞いているよ?」
「え?」
「たまーにだけどね。先生方とは連絡をとることがあるんだ」
「そうなんですか?」
「うん。学園もうちの関連で、出資しているから」
「そうだったんですか。ではさっき僕だったら良いなっておっしゃってくださったのは、もしかして僕がベータクラスに紛れ込んでいるオメガだってわかっていらしたんですか?」
「うん。そうだね。生徒会長だったし、何か事情のある生徒は皆チェックしていた。それに、僕には君がオメガだって入学前からわかっていたよ?」
「入学前からですか?」
「そう。入試の手伝いをしていたんだ」

 小学六年生のその頃なら、まだオメガだとは確定していなかった。

「その時はまだ未確定の状態でした。オメガ性が強く疑われてはいましたけれど」
「そうだった?入試会場で案内をしていたときに君の香りを嗅いだんだ。僕が初めて感じた鮮烈な程甘く愛しい芳香だったよ」
「え?」
「僕もアルファ用抑制剤が良く効くほうで早くから飲んでいた。トラップにかかると自分の人生のみならず会社にも影響が出るからね。嗅覚が鈍くなっていた筈でも君の香りはわかった。特別に強く良い印象に感じていたんだ」
「そうだったんですか?それって…」
「君は僕の特別だと思う。あの時から気になって仕方なかった」

 凛のほうも会長の勇心と隣り合って書類を書いていたとき、一緒に水を撒いていた時もドキドキして仕方ない時があった。
 優秀で優しく格好の良い先輩に緊張しているからだと理由付けたが、本当は初恋だとわかっていた。
 勇心からは暖かく安心すると共にドキドキもする官能的な香りが漂ってきていた。今考えればフェロモンの相性がとても良かったんだろう。
 
 でも相手は大企業の御曹司のアルファなんていう高嶺の花だ。自分なんて相手にされるはずがない。凛は自分の好意に気づかないふりをして、儚い初恋を葬り去るつもりだった。
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