大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま

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 今日も朝からきちんとメッセージをくれる。大輝はとても律儀だ。

「おはよう。元気?」
「うん。元気だよ。メッセージありがとう」
「(^-^)日曜日空いてる?」
「空いてるよ」
「智晴が見たいって行ってた展覧会、チケット貰ったから行かない?」
「本当に?嬉しい。ありがとう。行きたい」
「良かった。朝早めの7時前に迎えにいくね」
「わかった。待ってる」

 まるで恋人同士のようなメッセージのやり取りだ。大輝が大好きな僕からすると素直に嬉しい。だがこれは大輝の気遣いと犠牲のもとに成り立っている。
 本当は僕なんかと会話したり出掛けたりしたいわけでは無いのに。付き合わせてしまっていることがありがたいけれど申し訳ない。

 僕の祖父は、代々中小企業を経営している一族の現当主だ。そして、大輝の祖父も同じように会社を経営している。
 祖父二人は大学時代からの親友で、僕の父と大輝の父も大学付属校からの友人同士である。

 家族ぐるみで産まれた時からの知り合い同士。互いに兄がいる弟同士で、同じ学年に産まれ同じ付属校で育った。
 多分僕がアルファだったら、友人同士として一生を過ごせた筈だ。しかし何の因果か僕はオメガだった。しかも幼少期から、つまりバース診断を受ける前からオメガだろうと確信されるくらいにはオメガっぽい子供だった。

 祖父同士は、大輝と僕が幼児期から仲良く遊び、大輝が何かと僕を守ったり構ったりしてくれる様子からアルファとオメガだったらこのまま婚約させようと約束してしまったのだった。


 日曜日の朝、連絡してくれていたとおりの時間に大輝が迎えに来てくれた。
 大輝は運転免許を取得して自分の車を買って貰ってから、自分の運転でうちに迎えに来ることが多い。

「お待たせ」
「ううん、まだ時間少し前だよ」
「今日も車だよ。美術館には駐車場があるからドライブがてらにね。帰りは足を伸ばして食事に行こう」
「嬉しいな、ありがとう。大輝運転大変じゃない?」
「大丈夫。運転が楽しいんだ。気を付けてゆっくり行くよ」

 高速も利用して箱根まで二時間弱。途中休憩も挟んで開館前に到着した。

「良かった。渋滞に巻き込まれなかったね」
「大輝、ありがとう。運転お疲れ様」
「まだまだこれから。一日楽しむんだから、気にしないで良いよ」

 行って見たかった美術館をゆっくり見学して、併設したカフェテリアで11時過ぎにランチを取った。
 パスタやケーキ、フルーツティーが美味しいが混雑するので早めが良いと聞いたそうだ。

 僕のためにそういう事前リサーチまでしてくれるなんて、なんて優しいんだろう。期待するなといわれても、うぬぼれてしまいそうだ。

 テラス席からの眺めも良くてとても美味しい。大輝と出掛けるといつも人目を引く。大輝は背が高くスタイルも良いし、精悍な顔でモデルのような格好良さだ。これで性格も良くて頭も良いのだから非の打ち所が無い。

「美味しい。ありがとう」
「智晴が気に入って良かった。折角来たからもう一つ美術館行こう」
「え?良いの?嬉しいな」

 さらにもう一つ、気になっていた美術館にも連れて行ってくれた。そして帰る前に芦ノ湖の見えるレストランで早めの夕食を頂く。

「素敵だ。夢みたい。大輝ありがとう」

 大輝がにこやかに微笑んでくれた。

「またいつでもデートしよう。智晴のお陰で僕の興味の幅も広がるから楽しいよ」
「っ…ありがとう。嬉しい」

 大輝の笑顔にどぎまぎする。格好良すぎて正視に耐えない。見ている僕の顔がほてってしまう。

「かわいい。智晴」
「ありがと…」

 恥ずかしい。僕は大輝が好きで好きで仕方ない。小さな時から僕には大輝だけだった。
 完璧な大輝が僕と一緒に遊んでくれて手をつないでくれて、困ったら助けてくれる。

 いつも特別な存在みたいに扱ってくれた。凡庸な僕にただ一つ与えられた宝物が大輝だった。
 これからもずっと一緒にいられたら良いなと思っていた。
 12歳でオメガと確定した時も、

「これで正式に婚約者だね、智晴。これからもよろしく」

 大輝がそう言ってくれたから、人生や将来に悲観しないで前を向けた。大輝と番になる未来を夢見て、生きていけると思ったのだ。

 付属校は、皆幼少期から一緒に過ごすから互いの環境や家のこともわかっていた。
 まるごと幼なじみのような生ぬるい環境が、僕をのんきにさせていたんだ。大輝のような立派なアルファがモテないわけないし、僕より綺麗で優秀なオメガなんて掃いて捨てるほどいるのに。

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