好きだから。

嵯峨

文字の大きさ
上 下
2 / 2

透真と静 【1】

しおりを挟む
 12月中旬、俺はこの日を忘れる事が出来ない。忘れたくても忘れる事が出来なくなってしまった。
「笹木静(ささき しずか)君、今日から僕の恋人ね。」
 突然、クラスの人気上位の坂峯透真(さかみね とうま)に告げられキスをされた。
「???ちょ、さかみねく…」
 力いっぱい抗おうと頑張るが坂峯君の手が僕の腰に回されている状態で逃げることが出来ない。
 体感10分位に感じた頃、腰に回されていた手を離され、やっと解放してくれた…かと思いきや、坂峯君は笑みを浮かべて、
「静(しずか)君、急にキスされてびっくりした?可愛いね笑」
「びっくりするだろ…しかも教室…。」
 突然過ぎて頭が回らない。男同士だぞ?!俺には好きな女の子だっている。とりあえず、恋人という話題から話を逸らさないと……
「ほ、ほら!もう夕方だし、ご飯!帰って食べないと!」
「……?ご飯?」
 坂峯君があからさまにキョトンとしてる…!
 何でご飯なんだよ!ご飯をなぜ話題にしたんだよ!と静は思わず脳内ツッコミを入れてしまう。その様子を見て坂峯君は、
「やっぱり可愛い。好きだわ笑」
 さらに、好きになられてしまった…どうしよう。けど、なんで俺なんだ?
「え、な、なんで…俺坂峯君と殆ど話した事無いよね…?それに今日から俺、坂峯君の…恋人とか、急にキスしてきたりとか……」
 自分で言うのも恥ずかしくなり、言葉が続かない。
「うん、急に言われても困るしキスもごめんね。話したことは、あまりないけど僕は静君のこと、良く知ってるよ?それこそ、高校に入る前から笑」
「え、知ってるって…?」
 え、なになに?知ってるとは?高校の前?どゆこと?
「高校の前からって俺、坂峯君と会ったことあるかな…?もしかして同じ中学だった?」
 俺が通っていた中学は人数が多く、クラスは6クラスあった為、全員の顔は覚えてないからひょっとしたらと思った。
「同じ中学じゃないよ。僕、ここには高校からだし。引っ越してきたんだよ。」
「そうだったんだ。」
 引越しだったら、高校以前はほぼ全く出会わないじゃないか!!
「そうそう。けど静君には高校前に出会ってるよ。」
「え?どこで?ごめん。全く覚えてなくて、教えてくれないかな?」
「……やっぱり、覚えてないか。」
 坂峯君が目線に影を落とした時、俺は少し罪悪感を覚えて坂峯君の目を見れずに居た時、再び坂峯君はいつもの笑顔を向けてこう言った。
「うーん。秘密♡」
「秘密って…どうしても教えてくれないの?」
「だって僕が言ってしまったら、静君、頑張って思い出そうとしないだろ?」
「……。」
 そうだけど…モヤモヤするだろ!
「だから、こうしよう。静君が僕と出会った時の事、思い出せたら自由にしてあげるよ。」
「思い出せたら、自由…?ということは、」
「恋人って話も無しになるね。」
「本当か?!頑張って思い出すよ!」
「けど、思い出すまでは僕の恋人だからね。」
「…わかったよ。けどさっきの様な、キスとかは…」
「恋人だからもちろんするよね。キス以外も。」
「な、なんでだよ!」
「だって、僕は静君の事、ずっと好きだったし、思い出してしまったら恋人の話も無しになってしまうからね。思い出すまでに静君が僕が居ないとダメな様に身体に教えてあげないとだし笑」
「ダメな身体って、俺は一体何を……」
「ふふ、頑張って思い出してね。大丈夫。嫌な事はしないよ笑」
 坂峯君は笑顔で俺を見ていたが目は笑ってなくて…
「ひぇ…」
 そうしている間に完全下校のチャイムが鳴った。
「まぁ、明日も学校だし今日は帰ろっか。」
「うん…帰る。」
「また明日ね。静。ズルして休んだら駄目だからね。」
「うん、また明日…。え?」
 ってもう呼び捨てにされてる!
 これから俺はどうなるんだ…?身体に教える……?何を?とにかく早く思い出さないと何かヤバい気がする…。
 頑張って思い出さないと!!

 そして次の日。
「……なぁ坂峯君よ。」
「んー?何?静。」
「んー?何?静。じゃないわ!なんでこんなにくっ付いてくるの!」
「だって、静と僕は今恋人なんだし。くっ付いてても良くない?」
「けどこの状況はまずいだろ…。教室でクラスメイトもいるんだぞ?」
 クラスメイトもいる教室で俺は今、坂峯君の膝の上に乗らされ後ろから抱きつかれているのだ…。逃げようにも坂峯君の力が強すぎて離れることが出来ない。
「降りたい!やめろって。離してくれよ。」
「……嫌だ。」
「坂峯君。クラスメイトも見てるだろ?この状況、いい加減恥ずかしい……。」
「この状況がいいんじゃん。」
 そう言うと坂峯君は俺をより一層強く包み込む。
 ……?この状況がいい?どゆこと?クラスメイトにジロジロ見られるこの状況がいいだと?
「良くないだろ。今は俺たち付き合っ……てるけど、みんな知らないし。何より俺男だし…」
「見りゃわかるよ。静は男だし。」
「じゃ、じゃあ降ろし…」
「降ろさない笑」
「なんでだよ!」
「クラスメイトは僕と静が付き合ってる事皆知ってるよ?」
「……は?」
 意味が分からない。なんで?頭に「?」しか浮かばない。なんとなくクラスメイトの視線が温かいのはその為か?
あれこれ考えていると急に坂峯君が俺の太ももに手を添わせてきた。
「僕と一緒にいるのに考え事しないでよ。」
太ももを手でスーッと撫でられ顔が一気に赤くなる。
「ちょ、太もも触らないで。」
「静が他の事考えるから暇で撫でてるだけだよ。」
また太ももを撫でられるがその手つきがとてもむず痒くて…
「触り方…ん、こそばゆいから…やめろ。」
「静から好きって言ってくれるまで辞めない。」
「な、なんでだよ。人いるのに……」
「好きって2文字言うだけだよ?言ったら帰りまで何もしない。」
「……本当に何もするなよ。」
「うん。静がして欲しいって言うなら話は別だけど笑」
「して欲しくなんかない……!」
「ほら、言って?」
「……好き(小声)」
「ん?なんて?聞こえなかったな。」
クソ……絶対聞こえてるはずなのに……!
「好きだ!……これで満足?」
「まぁ合格かな笑」

好きって言うだけでこんなに恥ずかしいのか…。
どうしよう。もう帰りたい。けど、とりあえず今日は何もしないって約束したし、大丈夫だろ……
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...