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6 勧誘

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「新城草太くんね」
中学生の時にバレーで全国大会に出場経験があるそうだ。

「はいっ、そうです」
「小学校から一応バレーをやってまして。中学で全国行ってでも高校の推薦の誘いもなくて、それなら続けなくも良いかなーと、やりきった感もあって。そんな感じです」


「部活はどうするの?」

「陸上に入ろうかなと思ってます。
陸上部は練習時間が短いのと、跳躍が自信があったので、高飛びか幅跳びかやろうと」


きゅい、きゅいと後ろの方で遠藤先生が椅子で揺らしながら座っている。
噂のバレー経験者の子を見つけ勧誘すべく、保健室で面談を行っているのであった。

新城くんは目のパッチリした男の子で髪の毛を伸ばし今風にしていたが、でいかにもスポーツマンらしく肌は小麦色に焼けていた。
身長は170に達するかどうかなので、本格的にバレーをするには厳しいところがあるのもわかった。


「あのーちょっといいですか?なんで保健室で話ししてるんですか?」
と質問される
「特に意味はないよ。二人で個室に入っても、堅苦しいだけだろ!」

「そうですか、でなんの話ですか?」

「ある事情があってバレー経験者を探してるんだよ」

経験者、少し意味深な顔をして呟く。
「バレー経験者探してるってバレー部とかありましたか?球技大会でもあるんですか??」

「あるんだよー、バレー部も球技大会も」
えっ!と新城くんは少し驚いた顔をする。

「オレも一応バレー経験者でさ、理事長の命令というか大会で優勝してこい!!って言われて困ってたんだ」
ここではあえてビーチバレー部の事は伝えない。

「それで、ペアになってくれる子を探してた訳」
オレのペアではないが、、

そうなんですか、と答える新城くん。
そんなに反応は悪くなさそうだ。

「もしさ、優勝したら焼肉連れてってやるからちょっと協力してくれないかな?」

「焼肉ですか!?どんなレベルかわからないですが、他に誘う人いないんだったら僕で良ければ」
と良い返事を返してくれる。

良かった!ありがとう!頼むよ。と肩を叩く。
新城くんのニコッとした笑顔が眩しい。
まぁ騙してるわけではなから、、

「早速だけどジャージ持って体育館に行こうか!」
二人で体育館に移動する。

体育館の中ではビーチバレー部の三人がコートの準備していた。今日は室内なのでジャージを着ている。

一応の流れは説明しているが実際実力をみないとなんとも言えないので一緒に練習することにしていたのだ。

「女の人もいるんですね」
「そうなんだよ」
と少し緊張している様子だった。


挨拶もそこそこに、実力を見ることにした。
新城くんは水野とペアになってもらって、ゲームを始めた。

すると、オレの本気サーブも難なく上げるし、動きの機敏な事、バレー選手としては小さいながらもさすがの跳躍をみせスパイクをバシバシ決められてしまった。

レシーブやセットアップも上手で水野との連携も初めてとは思えないくらい息のあったものだった。

「新城くん!すごいね!」

「そうですか?」
と少し照れた様子だ。


すごい二人、息があってますね。
と近藤がオレに話してくる。

これならあの留学生コンビにももしかしたら勝てるかもしれない、と思えるほどだった!
とりあえずキープせねば!

実力が大体わかったところで、練習を終える事にした。

「新城くんの強さはわかった!!
これから大会に向けてよろしくな!!」

「はいっ!先生!優勝したら焼肉お願いします!」

焼肉!?とバレー部の三人が反応する

「おごってやるおごってやるよ!ボーナス使ってな!!」

「私達もいいよね!先生!」三人が纏わりついてくる。それをいなしながら

「新城くんとりあえず授業後、校舎裏に集合で!
そこにコートあるから。
明日から練習宜しくな!」

「はい!!」

気持ちのいい挨拶をして、新城くんは帰っていった。
いやーバレーがやっぱり好きなんだろうな、生き生きしてたよ。

「新城くんいい感じでしたね!
すごいやりやすかったです!」

と水野が笑顔で話しかけてくる!

新城くんに声をかける前にバレー部の三人には
バレー部は今のままでは優勝は難しいかもしれないこと、経験者を誘うこと、それが男だと言うことを伝えていた。


~昨日の練習前~

「それって男女混合で試合に出るってことですか!?」
と少し驚いた様に、水野が言う。

近藤が顔が少し引きつった。
南がすかさず、
「それって水野先輩と男の子で優勝めざすってことですよね!!」

「そうだ。前の大会で混合の方がレベルが低いのはわかった。優勝を目的とするには経験者の男子を探して、混合で出るべきだとオレは思う」

じゃあ、、と南は近藤の方を見る。
水野と、新城くんで出るということは、近藤とのペアては優勝はめざさないということになる。
そこに、南は気づいていた。

「わ、わたしは、、、」
近藤が話だす。

「実は優勝する自信がなかったの、、
咲に協力したいし頑張ろうと思ってるけど、実際試合ではレベルが違って足手まといになっちゃうし」

「咲の本気度は伝わって来るし、正直この一年が終わるのが怖くてしかたないこともあったよ」

「美樹、、」
水野が心配そうに近藤をみる。

「だから、優勝の可能性が高くなるなら、咲が混合で出ても良いと思う!!わたしはそれを応援する!」
「逃げちゃってるかもしれないけど、、」

と近藤が感極まって涙汲む。

「美樹、全然そんなことないよ!そもそも私のせいだから」
「違うよー、咲、ごめんー」

と、二人は抱き合って泣いていた。

実際目指していた目標とは変わってしまうが、これが一番可能性のある最善だと考えた。
辛い判断になった分、失敗出来なくなるなと感じた。


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