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【不確かなもの】
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姉は引き篭もって以来、塞ぎ込むどころか生き生きと『ぬいぐるみ』に『あなた』がどれだけ魅力的なのかを語り続けていた。
俺は耳を塞ぐように、そんな姉と接点を持つことを遠ざけようとする。
それでも聞こえてくる、その『あなた』への異常な『愛』。
正直俺はもう限界だった。
姉の部屋のドアをノックする。
しかし、それに反応はない。
俺は半分諦めたままその鍵のかかっていないドアノブを押し、姉の部屋に踏み入れる。
「姉貴、それ、なんなんだ?」
ぶつぶつと独り言を言い続ける姉の声を遮って言う。
それでもこちらをチラリと見もしないでその独り言を続けていた。
俺は恐怖と苛立ちから、姉が大切そうに抱えるクマのぬいぐるみを取り上げる。
「だから、これ!なんなんだよ!」
「――!!」
声にならない声。
それは動物の鳴き声のように俺に突き刺さった。
その異様な『声』に俺はその場から動けなくなる。
姉は俺の手からぬいぐるみを荒々しく取り上げ、大切そうに抱えなおす。
「出て行け!」
姉は今まで一度も見たことがないくらい、激怒していた。怒る表情も、もう人間だと思えなかった。
「この子はあの人との結晶なの!」
ギリギリ聞き取れる言葉で姉は喚き散らした。
「この子……?」
俺は固まったままその言葉を反芻した。
その瞬間、姉はふらりとよろめくと床に倒れそうになる。俺は少しだけ残っていた『姉』への感情で、それを咄嗟に支える。
「――っ!」
姉は床に吐瀉物を撒き散らした。
「……姉貴!?……大丈夫……」
しかし姉は俺のその言葉を遮るように喚き散らす。
「うるさい! 私の邪魔しないで!」
「出て行け!」
その言葉は耳をつんざくように俺に降り注ぐ。
俺は耐えられなくなって姉を残したまま、その部屋から出ていった。
俺は耳を塞ぐように、そんな姉と接点を持つことを遠ざけようとする。
それでも聞こえてくる、その『あなた』への異常な『愛』。
正直俺はもう限界だった。
姉の部屋のドアをノックする。
しかし、それに反応はない。
俺は半分諦めたままその鍵のかかっていないドアノブを押し、姉の部屋に踏み入れる。
「姉貴、それ、なんなんだ?」
ぶつぶつと独り言を言い続ける姉の声を遮って言う。
それでもこちらをチラリと見もしないでその独り言を続けていた。
俺は恐怖と苛立ちから、姉が大切そうに抱えるクマのぬいぐるみを取り上げる。
「だから、これ!なんなんだよ!」
「――!!」
声にならない声。
それは動物の鳴き声のように俺に突き刺さった。
その異様な『声』に俺はその場から動けなくなる。
姉は俺の手からぬいぐるみを荒々しく取り上げ、大切そうに抱えなおす。
「出て行け!」
姉は今まで一度も見たことがないくらい、激怒していた。怒る表情も、もう人間だと思えなかった。
「この子はあの人との結晶なの!」
ギリギリ聞き取れる言葉で姉は喚き散らした。
「この子……?」
俺は固まったままその言葉を反芻した。
その瞬間、姉はふらりとよろめくと床に倒れそうになる。俺は少しだけ残っていた『姉』への感情で、それを咄嗟に支える。
「――っ!」
姉は床に吐瀉物を撒き散らした。
「……姉貴!?……大丈夫……」
しかし姉は俺のその言葉を遮るように喚き散らす。
「うるさい! 私の邪魔しないで!」
「出て行け!」
その言葉は耳をつんざくように俺に降り注ぐ。
俺は耐えられなくなって姉を残したまま、その部屋から出ていった。
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