ヤンデレ伯爵様から逃げられない〜狂愛系TL小説の世界で殺されるだけの悪役令嬢に転生?死亡フラグを回避します!

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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ヤンデレ伯爵様VSドSアウトロー牧師!?

第8話

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 燃えた塔は程なく鎮火した。
 塔の中に取り残された豆柴のピーちゃんも無事伯爵様に救出された。
 思いのほか煙を吸い過ぎてしまったのか、塔を出るなり伯爵様はばったりと倒れてしまったーー。

「生きた心地がしなかったわ…ほんと、無事でよかった」

 今は病院の個室で療養中。
 私はベッドの上で紅茶を飲んでいる元気そうな姿の伯爵様を見て、泣きそうになっていた。

「僕が君を残して死ぬわけないだろう」

「死んでも化けて出てきそうね……」

 私達は笑い合った。


「ディアも平気かい?クリオスに酷いことされてないかい?」

「うん、助けに来てくれてありがとう」

 バタバタと血相を変えてソバカス顔に瓶底眼鏡のクセの強そうなキャラの青年が病室にかけ混んできた。
 伯爵様の友人かと思い、私は椅子から立ち上がってぺこりと一礼した。

「オスワルド伯爵!!だいじょうぶですか~~!?」

「やあ、ミカ」

「オスワルド様、お知り合いですか?」

 私は彼とは会ったこともないし、知らなかった。

「やあやあ、あなたは伯爵夫人ですね?お初にお目にかかります。自分はミカニル、近くの大学に通ってる学生です。工学を専攻しております」

 それにしてもキャラが濃いな…。
 私は苦笑し、思わず後退りしてしまった。
 もちろん彼も原作ラノベには登場しなかったキャラのはずだ。

「そしてオスワルド伯爵は自分のパトロンでございます!」

「彼は平民の苦学生でね。学費なんかを僕が支援してるんだ」

「へ、へえ……」

 伯爵様の交友関係っていまいち謎だわ。あまり自宅には人を招かない人で、私も屋敷から出ないので関わることがなかったけれど。

「見てください、夫人。これはオスワルド伯爵が設計・考案した『クローディア4号』の試作品です!3号よりも大分コンパクト化に成功したんです。この度 一般への商品化が決まったんで、自分が組み立てて造ってみたんですけどー」

「クローディア……?私の名前?なんなの、それ?」

「王室からも絶賛されたんです!試験的に軍事利用もされ、この前のお城で開かれたパーティーでオスワルド伯爵は王から直々に表彰もされたんですよ!おや、夫人も招待されていたので、一緒に行かれたはずでは?」

「この前の……お城のパーティー?…」

 私は目を点にした。
 ミカニルが手に持ってるのは黒くて硬い箱のような機械。重箱サイズで、表面にはスイッチやモニターのようなものがついていた。

「ミカ……。わざわざ持ってきたのかい。ここは病院だぞ。後で君の家まで行くから、今日はお帰り」

 顔はいつものように笑っていた伯爵様だったが、少し焦り出している。
 私に知られてはまずい話題のようだ。私はジロッと鋭い目でその機械を凝視する。

「ミカニルさん、それって一体なんなの?」

 ミカニルは無邪気に笑った。

「探索機です!この小型化された発信機の電波を拾うんです。似たようなものは前からあるんですが、伯爵様が造ったこの機械のすごいところは非常にコンパクトで、発信機を相手に気付かれることなく設置できる点ですかね!アクセサリーなどに仕込めばわかりません。耐久性などまだ課題はありますが、画期的で本当に素晴らしい発明品です!」

 ペラペラとオタク特有の早口で、やや興奮気味に喋るミカニル。

「それで……そのクローディアって名称は?」

「オスワルド伯爵が夫人と一緒にいれない間、愛しい夫人が危ない目に遭っていないか不安だからって理由で造られたんですよ。夫人への愛が詰まった発明品なので、夫人の名前を拝借させていただきました」

「オスワルド様……」

 私はベッドの上で苦笑してる伯爵様を物凄い顔で睨む。

「あなた!私に発信機なんて付けようと考えていたの!?」

「ディアのためだよ?…僕の可愛いディアがどこかの誰かに連れ去られてしまったらって考えると仕事も見に入らないよ!それに僕の造った発信機のおかげで、今回だって君の居場所がすぐにわかって助けることができたんだよ?」

 伯爵様は必死に目を潤ませながら弁解した。

「え!?もうすでに発信機を仕掛けられてるってこと!?」

 私は慌てて全身を両手で叩いて、発信機を探したがそんなものは見当たらない。
 伯爵様はニコニコ笑ってる。

「なっ、何よっ、自分は他所に女作って、浮気してるくせに!」

「浮気?僕が?……僕が愛してるのはディアだけだよ」

 伯爵様はキョトン顔。
 しかし、引き続き 私は怒ったような顔で彼を見ていた。


「じゃあ、あの金髪の女は誰なの!?」

 詰問すると、伯爵様は困ったように笑い出した。
 やがて外出していた執事のクリスが部屋に戻ってきた。

「あ、ミカニルさんも来ていたんですか。こんにちわ」

 伯爵様はクリスを指差した。

「彼だよ」

「え!?」

「はい?」

 ああ、確かにクリスも金髪だ。それに背丈もあの女性と同じくらい。
 女装しても違和感がないほど華奢で中性的な顔をしているし……。

「なんでクーちゃんに女装させて奥さんとして紹介してるのよ」

「……だって、君はお金持ちや貴族が好きだって昔 僕に言ったじゃないか。だから、王族や公爵の友人らと会わせたら、彼らは僕よりは格上の人たちだし、君の心が移って僕なんか捨てられてしまうんだと思ったんだ……」

 伯爵様は悲しげな目で私を見た。

 確かに小説のクローディアは強欲でお金持ちが好きな女性だった。
 けど、クローディアじゃなくて『私』はーー。

「私は、オスワルド様が好きです。もっと信用してください」

 いつも押しが強くて強引なのに、変なところで繊細で自分に自信がなさそうなところが危うくて愛しくて、なんだか放って置けない。

「ディア……」

 伯爵様の顔が明るくなる。

 ーー病室のドアが叩かれる。
 現れたのは百合の花束を持ったスーツ姿のクリオスだった。

 真顔で入ってきて、ベッドの上の伯爵様の顔をジッと見ている。
 伯爵様は彼に柔らかく笑いかけた。

「やあ、クリオス。あの犬の容態はどうた?」

「治療も終わって元気にしてますよ。……その、助けてもらったことはーー感謝する」

「そうか……」

 ぎこちない雰囲気の兄弟2人。
 彼らを私は優しく笑いながら見守った。

「しかし、教会は追い出されてしまったんだろう」

 戒律を破ったこと、火災の件でクリオスは牧師をクビになってしまった。
 賠償金は伯爵様が支払ったようだがーー。

「ええ」

「それで、教会の者に聞いたんだが……、小さい頃 孤児院にいた私を見つけて父に引き取るように指示したのは お前……カレンドラだって」

「ああ、そういうこともあったな」

「俺の母が伯爵邸から追い出されたのも、私の母が他所に愛人を作ってーー伯爵家のお金を着服してたんだってな……。お金のために、カレンドラの母親の形見の品を勝手に質屋に売ってしまったから、お前はあの時 激怒したんだと。これは、そこの執事から聞かされた。それなのに、私は何も知らずに父やカレンドラばかりを責めて……」

「……もう過ぎたことだ」

「……でも、ごめんなさい、ーー兄さん」

 クリオスは震えながら小さく泣いていた。
 それを伯爵様は優しげな顔で見つめていた。

「もういい、僕たちはあまりに昔のことに囚われすぎていた。僕もお前も、これからはもっと自由にーー明るい方を向いて生きていかねば」

「ああ、お前とクローディア義姉さんを見ていたら、もう一度愛なんてものを信じてみてもいいと思ったよ」

 ーー兄と弟はようやく和解したようだ。


「それで、君はこれからどうするんだい?」

 伯爵様は穏やかな声でクリオスに尋ねた。

「伯爵邸の林の中に父がくれた家があるし、そこで暮らすさ。ーーそれに、素晴らしい転職先を見つけたんだよ!」

 チラッとクリオスはキラキラと輝く目で私を見てきた。
 私は鳥肌を立てながらビクつく。

「私は牧師から、クローディアご主人様の飼い豚に転職します!」

「か、飼い豚?」

「ハイ!クローディア様の思うままに、私めを自由に調教してください!」

「ヒィ……!」

 クリオスは頬を染め、禍々しい笑顔を浮かべて私に詰め寄った。
 私は全身鳥肌が立って嫌悪感でめまいまでしている。

「私のペットになりたいなんて図々しいわね、あんたなんか家畜以下でしょ」

『そういう趣味なんてないから、ノーサンキュー!』って言いたかったのに、混乱しすぎて悪役令嬢クローディアだった頃の名残り?脊髄反射?が出てしまった。

 それはクリオスをさらに興奮させるだけだった……。

「ありがとうございます!!」

 クリオスは元気に返事をした。表情はイキイキしてる。

「何がありがとうなのっ!?」

 嫉妬に狂ったベッドの上の伯爵様の殺気がすごい。
 私の手首を握り引っ張ると、ベッドの上に引き込んだ。

「ディアは僕の妻だ。ーーお前には渡さない!」

 ハッキリとクリオスに向かって叫んだ伯爵様。
 彼の胸に顔を埋めながら、私は顔を赤くし恥ずかしさに震えてしまっていた。

 伯爵様の顔はどこか、吹っ切れたような顔をしてた。
 彼の胸の中、それを俯瞰で見上げながら私はホッとしていた。
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